軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.伝説の始まり

あくる日。

俺は自分の屋敷の書庫で、本を読んでいた。

ここ最近、じいさんから更に送られてきた新しい本だ。

元々ちょこちょこ送られていたのが、俺に魔法の才能があるって分かってから、以前にも増して大量に送られてくるようになった。

そのせいで読むの追いつかないけど、すごくありがたいから片っ端から読んでいる。

「おお、ここにおったかマテオよ」

「おじい様」

本から顔を上げる。

じいさんが、いつものようにひょっこりやってきた。

「本当に本が好きなのじゃなあ」

「うん。ありがとうおじい様、またたくさんご本を送ってくれて」

「なんのなんの。足りないことはないか?」

じいさんは目を細めて、俺の頭をなでなでした。

「ううん、大丈夫。むしろ読み切れないって嬉しい悲鳴な感じだよ」

「そうかそうか。嬉しい悲鳴とは、やはりマテオは賢いのじゃ」

じいさんは大いに喜んだ。

そっか、普通の子供は嬉しい悲鳴とか言わないか。

「それで、今は何を読んでおったのじゃ?」

「これ、石中剣伝説だよ」

「ほう、何じゃそれは」

「えっとね、石に突き刺さった伝説の剣があって、誰も抜けない剣だけど、後に英雄王と呼ばれる人間が抜いた、っていう話。すごく面白い」

「うむうむ、その心を忘れては行かんぞ。わしなどは、それを聞いて『ありきたりな話じゃのう』と不覚にも思ったくらいじゃ」

「そうなんだ」

その感覚がむしろ新鮮だった。

まあ、俺が読んだ本の数がまだまだ少なくて、知識が少ないから、そう思わないってだけかもしれないけど。

「あれ?」

「どうした」

「ここ、落書きがある」

「どれどれ……むぅ」

じいさんが本をのぞき込んできて、眉をひそめてしまう。

「どうしたの?」

「いや、これはマルチンの筆跡じゃな」

「マルチン兄さんの?」

「せっかくの知識なのに取り入れようともせず落書きとはのう……まったく」

じいさんはため息をついて、嘆いた。

こればかりは同感だ。

知識というお宝が目の前にあるのに、それをスルーして落書きをするなんてどういう神経なんだろうな。

「まあ、マルチンの事などどうでも良いのじゃ」

「そうだね」

「……そういえば」

「そういえば?」

何かを思い出したような感じのじいさん。

すこしの間思案顔になって。

「よし、少し待つのじゃマテオ」

「え? おじい様どこに――行っちゃった」

老人らしからぬものすごい敏捷性で、じいさんはあっという間に部屋からいなくなった。

少し待てって言われたから、俺は待った。

待っても帰ってこなかったから、本を読みながら待った。

その本を読み終えてもやっぱり帰ってこなかったから、次の本を手にしながらまった。

結局その日、じいさんは帰ってこなかった。

じいさんが戻ってきたのは、次の日の朝だった。

朝ご飯を食べた後、さて今日は――ってなったところにじいさんが現われた。

「戻ったぞマテオ」

「おじい様!? どうしたの? 昨日はずっと待ってたんだよ」

「すまんな、百年近く蔵に放り込みっぱなしじゃったから、探すのに苦労したのじゃ」

「探す?」

一体何を――って思っていたら、じいさんは手に持っているものを突き出してきた。

「それは……剣?」

じいさんが持ってきたのは、鞘に入ったままの剣だった。

柄も鞘も、普通の剣とは違う、って主張してる感じのデザインだ。

「これって何?」

「うむ、まずは試してみるのじゃ。マテオや、何人かメイドを呼んでくれ」

「僕が?」

「うむ。この屋敷のメイドはもう全てマテオのものじゃ。わしが使役するのは筋にあわぬ」

「あっ」

そういえばそうだった。

ちょっと前に、メイド達のために、俺がじいさんにおねだりして、じいさんはそれに応えてくれたんだった。

「何人くらい?」

「うむ、三人も貸してくれたら状況が分かるようになるじゃろう」

「わかった――誰かいる?」

俺は手を叩いて声をあげた。

すると、メイドが一人すぐさまに、シュパッ、って感じで現われた。

「およびですかご主人様!」

現われたメイドは、わんこを連想させるような目で俺を見つめていた。

「うん、もう二人呼んで。それでおじい様の手伝いをして」

「わかりました!」

メイドはそう言い、一旦立ち去って、すぐに二人連れて三人組で戻ってきた。

もどってくると、三人はじいさんの前にたった。

じいさんは最初の一人に、持ってきた剣を突き出した。

「これを抜いてみるのじゃ」

「かしこまりました」

メイドは剣を受け取って、抜こうとする。

「ぬぬぬぬ……ぷはぁ! ご、ごめんなさい、抜けませんでした」

「うむ。では次はお前じゃ、やってみい」

今度は別のメイドを指名した。

そのメイドは剣を受け取って、思いっきり力を入れて引き抜こうとするが、まったく抜けない。

最後に残ったメイドにもやらせた。

けど、やっぱり抜けなかった。

まるで、みんなして瓶のふたにチャレンジしたはいいが、誰も開けなかったような光景だ。

全員が終わった後、じいさんはメイドから剣をかえしてもらって、それから俺の方を向いた。

「というわけじゃ」

「というわけ?」

「うむ。マテオが昨日読んでいた本と同じ。選ばれし者にしか抜けぬ、という言い伝えのある剣じゃ」

「なるほど」

「さあ、マテオもやってみるのじゃ」

「僕が?」

「そうじゃ。わしにこれが引き抜かれる瞬間を見せるのじゃ」

「う、うん」

そんなに都合良くいくわけがないと思ったけど、俺に期待をするのはもうじいさんの生きがいみたいなところがある。

俺はとりあえず受け取って、抜いてみる。

すると――チャキン!

剣は音を立てて、いともあっさりと抜けた。

「ええっ!?」

俺は驚いた。

まさか本当に?

「おお、抜けたのじゃ!」

じいさんも驚き、そして喜んだ。

「すごい」

「さすがご主人様」

「あんなに硬かったのに」

メイド達も次々と俺を称えた。

さすがに予想外な出来事に俺は困惑した。

しかし、次の瞬間更に困惑させられた。

「ああっ!」

なんと、剣の刃の部分が光り出した。

「なんと、どうしたのじゃ?」

「魔力……持ってかれてる……?」

体の異変を察する。

エヴァの時と似てる。

魔力が持ってかれてるんだ。

そして刃の部分の光がピークに達して――弾けた。

俺もじいさんも、メイド達もみんな目をそらした。

やがて光が収まって、全員が視線を戻す――すると。

「ない」

刃の部分がなくなっていた。

柄が変わらず俺の手の中にあって、刃だけが綺麗に消えていた。

「どういう事なの……」

「見せるのじゃ――むっ!」

手を伸ばしてきたじいさんが、急に手を引っ込めた。

「どうしたのおじい様」

「きれた」

「え?」

「刃に当って、切れたのじゃ」

じいさんは手を突き出す。

本当だ、手の平に切り傷ができてて、新しい傷から赤い血がにじみ出ている。

「どういう……あっ」

俺も手をかざすと、刃があるところでちょっと切れた。

「これって……」

俺は少し考えて、壁の方をむいた。

そして、柄だけになった剣を振る。

すると――壁は斬られた!

「おおっ!」

声を上げるじいさん。

「どういう事じゃマテオ」

「刃が消えたんじゃない、見えなくなっただけみたいなんだ」

「見えなくなっただけ?」

「うん、こんな風に」

俺は更に二度三度剣を振った。

すると、 刃がない(、、、、) のに、振った軌道に沿って壁に斬撃の跡がついた。

「おおっ、これはまさしく見えないだけじゃな」

察しの早いじいさんはそれだけで理解した。

「レッドドラゴンと似たような状況じゃな」

「たぶん、そう。それにちょっとだけ、形を変えられるっぽい」

しばらく持ったから分かる様になった、見えなくてもそこに存在する刀身の存在を。

そしてエヴァという前例が、変化という可能性を俺に告げてきた。

結果、見えない刀身は、見えないままだけど、確かに形が変わったと俺は感じた。

「そうかそうか。うむ、さすがマテオじゃ」

じいさんは大いに興奮した。

「見えない刃、そして形を自在に変えられる。さしずめ無形剣、って所じゃな」

ご満悦なじいさんから、秀逸な名前をもらったのだった。