軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174.食べるだけでいい

「マーテオやぁぁい!」

「うわっ!」

リビングの中で本を読んでいると、いきなり現われた爺さんが俺を抱き上げた。

そのままハイテンションで頬をスリスリしてきた。

「お、おじい様!?」

「おおっ、今日もマテオはかっこかわいいのじゃ」

「か、かっこかわいい?」

じいさんらしからぬ若々しい言葉を使ってきたことに俺はちょっと驚いた。

「そ、それよりも下ろしておじい様」

「うむ。今日は何をよんでいたのじゃ?」

「あ、うん。えっとね、歯ブラシの事」

「歯ブラシのこと?」

俺を下ろした爺さんは、俺が持っていたままの本をのぞきこんだ。

「どんな道具でもそうなんだけど、歯ブラシも最初から今の形じゃなかったはずなんだ。だから歯ブラシの歴史が分かればもっと良い物がつくれるんじゃないかなって思って、それでしらべてたんだ」

「おおっ! さすがマテオ。うんうん、それが成功者や開拓者に共通する考え方なのじゃ」

「あはは……」

いつものように俺を褒めちぎる爺さん。

何か結果を出してる時はともかく、「考え方」だけで褒められるとかなりむずがゆい。

「それよりもおじい様、今日は何かご用? なんだか普段よりほんのちょっとテンションが高かったんだけど」

俺は思った事を聞いてみた。

さっき俺を抱き上げた時のテンション。

いつも通りといえばいつも通りだけど、普段よりちょっとだけテンションが高い様な気もした。

それが気になって爺さんに聞いてみた。

「おおっ! わかるかマテオ」

「あっ、やっぱり何かあったの?」

「うむ! マテオのおかげで久々に干し芋を食べたのじゃ」

「ほし、いも?」

俺はちょこんと、首をかしげてしまった。

いっちゃなんだが爺さんはかなり偉い人、公爵の中でもかなり上の位の偉い人だ。

当然もっているお金もかなりあって、元村人感覚だといくらでも好きな物を好きなだけ食べれる人間だ。

そんな爺さんが干し芋を食べた。

しかもそれを「俺のおかげ」だと嬉しそうにいってくる。

どういうことなんだろうかと疑問が高まる。

「もう二十年前にもなるかのう」

「へ?」

爺さんが懐かしむような、それでいて芝居がかったような口調でいいだした。

違う意味できょとんとなった。

「ある日、わしは大好物の干し芋を食べていたのじゃが、それまではなんの問題もなく食べられていた干し芋に歯を持って行かれたのじゃ」

「歯をもっていかれた、って……」

「言葉通りの意味じゃ。くっついってもっていかれ、それで歯がとれてしまったのじゃ」

「あっ……」

爺さんの言う通りの、「言葉通りの意味」がちょっとお間抜けで、そのちょっとお間抜けなだけに余計にかなしかった。

干し芋に歯を持って行かれた。

格好いいんだかかっこ悪いんだかよく分からない感じが余計に悲しさに拍車がかかる。

「そこでじゃ!」

「うわっ」

前兆のない爺さんの力説にちょっとびっくりした。

「マテオに歯を作ってもらったからリベンジに食べたのじゃ。まったく取れる気配がなくて最高だったのじゃ」

「そうなんだ。よかった」

「これもマテオのおかげじゃ。また好きな物を好きなだけ食べられると思ったらわしは嬉しくて嬉しくて」

「あはは。うん、オノドリムもきっとそれだから寿命が延びるっていってくれたんだろうね」

爺さんの喜びようをみて、歯をなんとかして本当に良かったと思う。

爺さん婆さんってのは元気そうにみえてても、生きる気力を失った瞬間にぽっくりいくもんで、逆に生きる気力がみなぎってる老人は本当にいつまでも行き続けることが多い。

爺さんがこうしてテンション上がってくれたのが本当に良かったと思う。

「でも、干し芋で歯をもっていかれてたなんて」

「うむ! あれには行き場のない怒りがほとばしったのじゃ」

「そりゃ行き場もないよね……」

俺は苦笑いした。

歯を持っていったのがほしいもじゃ本当に誰におこっていいのか分からなくなってしまう。

「本当にそうじゃ! もっていくのは歯の汚れだけでよい! とか、いまにして思えば行き場のない怒りで変な事を思っていたのじゃ」

爺さんはそういい、かっかっかと笑った。

俺もわらった。

「あはは、そうだよね。食べる度に歯の汚れをくっついてもってってくれるなら、食べるだけで歯磨きができるって事だから楽だ……よ、ね……」

「うむ? どうしたのじゃマテオ」

最後のあたりで、脳裏に白い雷が突き抜けていくような何かをひらめいたせいで、言葉が尻すぼみになっていった。

それを爺さんが不思議そうにまた顔をのぞきこんできた。

俺は考えた。

脳裏のひらめきを形にして、言葉にまとめて。

まずは、上手く説明できる様にまとめた。

「おじい様のいうとおりだとおもったんだ」

「うむ? わしの言う通り? マテオがかっこかわいいことか?」

「ちがうよ!? そうじゃなくて」

声が裏返ってしまうほどの勢いで突っ込んでから、落ち着いて説明する。

「何かを食べて、ついでに歯の汚れをとるものを作れないかなって」

歯ブラシを大量につくってもしない人はしない。

それよりも「食べるだけで」歯の汚れが取れるのならそうした方がいい。

何々するだけで――という形にできるのが一番だとおもった。