作品タイトル不明
170.手術の魔法
数日後、屋敷のリビング。
俺とダガー先生がまっているそこへ、話があるっていって呼んだ爺さんがやってきた。
「おおっ、マテオや、今日も凜々しくてかっこいいのじゃ」
爺さんは部屋に入ってくるなり、 ジジバカ(、、、、) を遺憾なく発揮してきた。
そのまま俺に近づいてきて、有無を言わさず脇の下に手を入れて抱き上げた。
「おおっ、これはまたすこし成長したのではないか?」
「う、うん。たぶんちょっとだけ。ねえおじい様、本当に腰をいためちゃうから下ろしてよ」
それに恥ずかしい――は、腹の底に飲み込んで言わない事にした。
「フォッフォッフォ、これしきの事どうということはないのじゃ。それにわしもきたえておるのじゃぞ? マテオを抱っこできるようにこっそりとな」
「ええっ! そうなの!?」
俺はめちゃくちゃびっくりした。
というか本当にそんな事をしてたのか爺さんは。
よく見ると、俺を抱き上げている腕は前にみたときよりもちょっとだけ筋肉がついている――かもしれない?
「うむ、このまま高い高いもできるぞ?」
「そ、それはやめておじい様。というか今日は大事な話があるから、まずはおろして」
「ふむ? そうなのか? それならば仕方がないのじゃ」
じいさんは心底口惜しげな表情になりながらも俺を下ろしてくれた。
俺の「大事な話がある」というのがかなり効いたみたいだ。
「それでマテオや、なんの話じゃ?」
「えっとね、おじい様の歯を作ってきたんだ」
「は?」
「うん、歯」
「は……?」
「歯」
なんとなく言葉が伝わっていないような気がしたから、俺は口を「ニッ」と笑う形につくって、自分の歯を指さした。
「なんだ、歯か。……わしの歯を作ってきたとはどういう事なのじゃ?」
言葉は伝わったが、今度は話の意味、展開が理解できないという表情になった爺さん。
それは予想通りだから俺は話を続けた。
「おじい様って、歯がほとんどとれちゃってるじゃない?」
「そうじゃな」
「でね、オノドリムから聞いたんだけど、人間って歯が残ってた方が長生きするみたいなんだ」
「なんと、精霊様がそのような事を?」
「うん」
「でもわしはピンピンしておるのじゃ」
「おじい様だからね。でも、オノドリムの言う通りだったら歯があった方がもっと長生きできるって事じゃない?」
「うむ……精霊様がマテオに嘘をつくとは思えんし、そうなのじゃろうな。しかし」
爺さんはそこで一旦言葉をきって残念そうな顔をした。
「こうなると口惜しい、長生きできればもっとマテオのいいところをずっとみていられるというに」
「あはは。だからね、僕、ダガー先生に協力してもらって、おじい様の歯を作ってきたんだ」
「うむ? ふむ、そういえばそういう話じゃったか」
ここで俺が最初に言ったことを思い出して、話が繋がったと得心顔になる爺さん。
「ダガー先生」
「ああ」
ダガー先生は頷き、俺達の横に準備してあった、布を被せたワゴンを引き寄せた。
そしてその布をとると、普段は食事を運ぶのによく使われるワゴンの上に、人間の口の中をかたどった木製の台があった。
その台の上にハリミミズの土で焼いた白い歯が二十数本ずらっとならんでいた。
「おお、確かにこれは歯じゃ」
「これをおじい様につけてほしいんだ。不安かもしれないけど――」
「これはジジイ冥利につきるのじゃ」
「え?」
不安だけどお願い――って言おうとしたけど、爺さんの顔からは不安とかそういったものはまったく感じられなくて、むしろ親にオモチャをかってもらった子供買って言うくらいめちゃくちゃ嬉しそうだった。
「ジジイ冥利……って?」
「孫からのプレゼントじゃ。しかも手作り。これ以上のプレゼントなどこの世に存在しようか。いやないのじゃ」
「あ、うん」
なるほどと思いつつも、ちょっとだけ恥ずかしがった。
いつもの爺さんだが、やっぱりそれをやられる度にちょっとというか大分恥ずかしくなってしまう。
「しかもこの歯……みた感じ陶器じゃが表面が明らかにただ者ではない。釉薬がちがうのか?」
「うん、釉薬はつかってないよ。ぼくたちが探してきた、今回のための土を使ったからこんなにつるつるなんだ」
「なんと! マテオが見つけてきた新しい土というわけか! これはすごいのじゃ!!」
「えっと、そんなにすごいってほどの事じゃ――」
「さあ早くつけてくれなのじゃ。マテオ土のマテオ歯、一刻も早くつけたくてわしうずうずなのじゃ!」
最初はどう爺さんを説得しようかといろいろ考えていた。
しかしその心配とは裏腹に、爺さんは俺の想像していたのより数倍は乗り気になっていた。
「う、うん。じゃあ、その、ダガー先生にお願いして、手術をしてもらう事になるけど……」
「手術か、わかったのじゃ。ならば術者を今すぐに――」
「それなら手配ずみだ」
ダガー先生は爺さんの言葉を遮ってそう言った。
爺さんとダガー先生がいう「術者」というのは手術に特化した魔法をつかう魔法使いのことだ。
もっといえば、ほとんどが最上位の睡眠魔法をつかう人の事を指す。
例えば矢傷を受けて、矢は抜いたけど矢尻が体の中に残ってしまった場合。
その矢尻を取り出さないと行けないが、上手く取り出すにはそのまわりをちょっと切った方が取り出しやすい。
そうすると更にいたい思いをさせてしまうし、何よりも暴れて危険になる事がおおい。
そこで睡眠魔法の出番だ。
高等な睡眠魔法をかけられると、寝てる間何をしても起きなくなってしまう。
何をされても反応しないし動かないから、その間に治療をしてしまうという訳だ。
「私も驚いたのだが、この子は回復魔法? というものが使えるそうなのだな」
「……はっ! そうか」
爺さんは数秒間きょとんとしたが、すぐにその言葉の意味を理解した。
「そうか! マテオは失われた回復魔法を復活させておる。手術のあとの傷口を直ぐに塞げるというわけじゃな!」
「うん、そうだよ」
「さすがマテオじゃ! ならばさあ、今すぐに始めるのじゃ!」
爺さんはますます乗り気になって、手術の開始を言ってきたのだった。