作品タイトル不明
169.千載一遇のチャンス
「これなら相当のものが作れる」
「本当に?」
「ああ、君のおかげでな」
そういってくれたダガー先生は、褒め言葉もさることながら、目が輝いてて興奮しているようだった。
「ダガー先生、なんか嬉しそう?」
「当然だ、これほどのチャンスは二度と訪れないかもしれないからな」
「チャンス?」
俺はきょとん、と首をかしげてしまった。
今回の件を思い返してみる。
オノドリムから偶然知った、歯は健康ひいては寿命に影響するという話から、年取って歯のほとんどが抜けてしまった爺さんのために歯を作ってやろう。
そこでダガー先生がどう関わっているのかというと、医者としてこっちが協力を頼んでいる状態。
簡単にまとめると今回はそういう話だ。
一通り話をまとめてみた。
うん、やっぱりダガー先生が「これほどのチャンス」と話す理由がまったく分からない。
分からないから、ストレートに聞く事にした。
「チャンスってどういうことなの?」
「どう見てもチャンスじゃないか」
ダガー先生は「何を言ってる」と、意外そうな表情をした。
「君との付き合いはまだそんなに長くない、場面も限定的だ。君と関わった事柄の全てが治療よりも健康維持の方法を模索していたと記憶している」
「うん、そうだね」
もう一度ダガー先生と出会ったときの事を思い出した。
ダガー先生は睡眠の事を研究していた。
睡眠の質が健康と寿命に影響するからというのが理由で、説明された後は少しは納得したが、それでもまだ時々、本当にこの人は医者なんだろうかと思ってしまう事がちょっとだけある。
「そんな私が偶然にも大地の精霊からの知識を得た。それだけではない、新しい医療技術を発展させるときにいつもぶち当たるのが資金面の難題だ」
「そうなんだ」
「が、今回は君が祖父に作ってあげたいという目的で進めている。公爵家で孫が祖父にプレゼントするともなれば、予算度外視で事を進めることが出来そうだ」
「あっ……」
「資金とか経費とか、そういった事に煩わされずにすむ機会なんてそう何度もあるものではない。だから千載一遇のチャンスなのだよ」
「そっか……」
密かに大変なんだな、と思ったが、それを実際言葉にしてしまうのもよくないなと思って言葉をぐっと飲み込んだ。
「……あのね、ダガー先生」
少し考えて、いう事にした。
この先の事は「 俺(マテオ) 」の口から出すのはかわいげがないからあまり言いたくないけど、オノドリムの知識とダガー先生の実績。
この二つが上手くピタッと合致したらたぶんものすごい数の人が助かる。
そう考えたらいう事にした。
「これ、僕の想像なんだけどね。もしダガー先生が作った歯の出来がすごく良くて、おじい様が気に入ったらね」
「うん、それでどうなるんだ?」
「おじい様、絶対自慢したがると思うんだ」
「孫からのプレゼント、あの手の老人なら自慢したがるだろうね」
「ううん、ごめん、言葉が足りなかった。おじい様の自慢って、ぼくたちが作った歯を他人に見せびらかすとかじゃないんだ」
「うん? じゃあどうするんだ?」
ダガー先生は眉をひそめて、聞き返してきた。
俺は心の中で密かに苦笑いしながら答える。
「その歯を作ったのが僕だって宣伝するために、歯の作り方とか、そもそもその作り方で作った歯に僕の名前をつけて、世界中に広げてアピールすると思うんだ」
「そんな事をするのか」
「今までも何回かそういうのがあったしね」
心の中でだけ――と思っていたけど、苦笑いが表に出てきてしまった。
これからするであろう事の予想だけだったらまだ我慢も出来たけど、実際にあったことを思い返すとどうしても苦笑いするのを抑えられなくなってしまう。
「なるほど、孫への溺愛度が私の想像を遙か上をいってるのだな」
「そうだと思う、だからねダガー先生」
俺はダガー先生をまっすぐ見つめた。
まっすぐと、真剣な眼差しで見つめた。
ダガー先生は「うん?」と首をかしげた。
「成功したら、おじい様が世界中に広めるためにもっとお金を出しちゃうと思うよ」
「……おおっ」
それまでは「なんでこんな話をしているんだ?」的な顔をしていたダガー先生だったけど、最後の一言で全てが繋がったかのような感じではっとした。
「それは素晴らしい」
「もっとたくさんの人が助かる、というか、長生きできる様になるよね」
「そういうことだな」
ダガー先生はにわかに興奮しだした。
それは俺が恥ずかしくなるのを抑えて彼女にこの話をした理由でもある。
爺さんは俺の事になると、ちょっと我を忘れるくらいの勢いで、世界中に広める勢いで宣伝する事が多い。
今までのそれはただただ「恥ずかしいだけ」の事が多かったが、今回は結果的にものすごく多くの人の健康に役立つはずだから、恥ずかしいなんていってられないと思ってダガー先生にそれを教えた。
想像通り、ダガー先生は「千載一遇のチャンス」といった時よりも遙かに目の輝きが増して、やる気になったのだった。