作品タイトル不明
168.土いじり
深い森の中、少し開けた所にある足首まで浸かる程度の小川。
その川の所に、オノドリムに案内されてやってきた。
「ここだよ」
オノドリムは目の前にある段差を指さした。
それは崖ほどではない、人間一人分の高さの段差。
川の直ぐ横にあるから、人間からみれば段差だけど、小動物視点だとちょっとした崖に見えてしまう、そんな場所だ。
「ちょっとまってね」
俺はそういい、段差の方にむかった。
木の根っこに支えられているような段差の所を素手で「掘って」みて、その土を手に取ってみる。
そこから取れたのは、白と灰色の間くらいにある、普段ではあまりみないような色の土だった。
「うん、ありがとうオノドリム」
「その土でよかった」
「うん!」
「やた!」
俺が笑顔で頷くと、オノドリムはそれ以上の嬉しそうな笑みを浮かべた。
「本当にありがとうオノドリム。この土って中々まとまった量を見つけるのが難しかったんだ」
「土の事なんて楽勝だよ!」
オノドリムは嬉しさを維持したまま、ちょっとだけ得意げな顔をした。
俺は手の中の土と、段差の方にまだある、まとまったその土の塊に視線を向けた。
白っぽい土。
村人時代に良く「使ってた」土だけど、昔は何も考えずに使っていた。
でも今は、貴族の孫に転生した今は、いろんな本を読ませてもらったこともあって――。
「なんでこの土はしろっぽいんだろ」
と、昔に比べて知識欲が出てきた。
「それはハリミミズのせいだよ」
「ハリミミズ?」
「うん! ハリミミズが穴を掘るとき、えっと……人間でいうツバかな、それと混ざった土が白っぽくなるんだ」
「へえ、そうなんだ。でもどうしてハリミミズなの? 普通のミミズより細いから?」
「んーん、後ろに穴がついてるから」
「へえ」
オノドリムから聞いた話は興味深かった――が、今はそれよりも大事な事がある。
「じゃあこれをもって帰ろう」
「うん! 手伝う!」
大地の中に眠っているハリミミズの土。
大地の精霊の協力で、それを大量に持って帰れた。
☆
屋敷の庭、景観のための作りがほとんどない、開けた場所。
その場所で、俺はダガー先生とオノドリムとの三人といた。
俺達の前に、持ち帰ったハリミミズの白い土が山盛りになっている。
そのさらに横に小さな「釜」があった。
見た目は「煙突しかない」みたいな感じの釜で、煙突の頂部から炎の舌が絶えずチロチロと顔をだしている。
「もう一回薪を足せば焼けるかな」
俺はそういい、煙突の底につくった穴を薪でつっついて灰のつまりをとって、頂部からまとめて薪を投げ入れた。
それで炎がさらに勢いを増していく。
「おどろいたな……」
ダガー先生が言葉通り、なにやらものすごく驚いた顔をしていってきた。
「え? なにが?」
「君が 焼き物(、、、) まで出来るとは思いもしなかった」
「あはは、えっと……ご本で読んだんだ」
俺は適当にごまかした。
これは本でよんだ知識じゃなくて、前世の村人時代に身につけた生活の知恵だ。
村人にとって、皿とかお椀とか、様々な容器は買うものじゃなくて自分で作るものだ。
特に水を長い間貯蔵して漏れないようにする水がめとかは自分達で焼いてつくるものだ。
それと、うちの村の「税」の都合もあった。
領主に上納する税は現金の他に、収穫物の物納やいざという時の労働力などがある。
住んでいた村の近くに良質の粘土が固まっていたから、天災人災の度に屋根瓦を作って領主のところに上納していた。
その時に身についた技術だ。
この煙突しかないような形だと、煙突の長さと下の穴と合わさって、煽ぐとか吹くとか一切必要なくて、勝手に風が送られて炎が育つ形だ。
煙突自体も土をこねて長い筒状に作るだけだから、簡単に作れて終わったあとは崩せばいいというもの。
転生してから十年ぶりくらいにやったけど、昔取った杵柄がまだちゃんと残っててちょっとホッとした。
「だとしても驚き、いや感心だ。君のことを誤解していた」
「え? 誤解って?」
「君は魔法と加護にあぐらをかいている少年だとおもっていたのでね」
「ひどい! マテオはそんなダメッコじゃないもん!」
俺よりも先に、オノドリムがダガー先生に抗議した。
「そうだな、考えをもう少し改めることにする」
ダガー先生がそういったあと、俺達はもうしばらく煙突をみまもった。
やがて追加投入した薪も燃え尽きて、炎の高さがどんどん下がって煙突の中に引っ込んでいくかたちになった。
下の方の穴からのぞきこんで、底の炎も大体消えかけた所で、道具を使って「それ」をかきだした。
それは「白い粒」だった。
小さいものは豆粒くらいで、大きいものは小指の関節から先くらいのものだ。
そんな白い粒が都合10個くらい「焼き上がった」。
「……うん、みてダガー先生」
「ふむ……なるほど」
「この土をつかって焼き物をすると、白くてつるつるしたものになるんだ。それに焼き物だから、水の中につけても絶対に溶けないし」
「確かにこれなら歯――義歯を作るのに向いている。すごいな少年、よくこんなのをしっていたな」
ハリミミズの土でやいた白い粒にダガー先生は大いに満足したようだった。