軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

167.セラミック

「それじゃあ、まずは何をしたらいいかな」

俺はダガー先生に聞いた。

ダガー先生はすこしだけ考えてから、答えた。

「そうだな。歯を固定する方法はいくつか心あたりがあるが、肝心の歯の材質にはそれがない。だからそこだな」

「歯の材質? それって、何を材料で作るかってこと?」

「そういうこと」

ダガー先生ははっきりと頷いた。

「真っ先に思いつくのは動物の骨か歯を使うことだな。白いし、細工もそれなりに簡単にできるだろう」

「……それって、ダメだと思うよ」

「うむ? やけにはっきりと言い切ったものだな。なぜなんだ?」

俺は微苦笑してその質問に答える。

「動物の骨も歯も、口の中で次第に溶けていくから」

「溶ける?」

「うん」

俺ははっきりと頷いた。

これは貴族として得た知識じゃなくて、村人の記憶で得たものだ。

動物を食材にすると、当然の如く骨をどうするのかという話に行き着く。

貴族はほとんどといっていいほど食べないが、村人達は骨も食べる。

言葉通り、骨の髄までしゃぶり尽くす。

俺もその経験があるから、動物の骨とか歯って、口の中に入れてるとたぶん唾液にふやけるせいでどんどん溶けていくものだ。

「骨って、口の中に入れてるとどんどん溶けていくんだ」

「うん? ああ……そういえばそうだったな」

ダガー先生は少し考えて、納得した。

「歯――義歯と呼ぶが、それに使うと常に口の中に入れておく物だから、溶ける様なものではだめだな」

「うん、そう思う」

「ならそれはなしだな。それにしても――」

ダガー先生は意外そうな表情でこっちをみた。

「貴族なのによくそんな事まで知っているな」

「え? あっ……その、ご本で読んだんだ。そういうことが書かれててへえって思ってそれで覚えてたんだ」

「そうか」

苦しい言い訳だったが、ダガー先生はあっさり納得してくれた。

ヤバイヤバイとおもいつつ、もっと気をつけねばと思った。

「ならば……黄金だな」

「黄金?」

「黄金なら溶けない、しかも金属の中で形を作り替えやすい。高価だろうが公爵なら気にするほどのものではないだろう」

「うーん……」

「今度はどうした」

「その義歯って、ずっと口の中に入れておく物だよね」

「そうだ」

「黄金だと重くてあごが疲れちゃうと思うんだ」

一呼吸の間を空けて、マテオになってから初めて黄金を手にした時の記憶を思い出しつつ、さらに続けた。

「初めて黄金を持ってみた時の事を今でも覚えてる。黄金ってめちゃくちゃ重いんだ。きになって重さを計ってみたら、同じ大きさだと鉄の三倍重いんだ」

「へえ、そんなに重いのか」

「鉄でも重いのに、その三倍だもん。おじい様だと20~30本くらい作っていれるから、ずっと重いものを口の中に入れるのはつらいと思う」

「そうだな、老人には負担が大きすぎる」

ダガー先生はすんなり納得してくれた。

「それを考えると鉄もだめだな」

「鉄はだめだよ、錆びるもの」

「そうだな」

あーでもないこーでもないと、俺はダガー先生とあれこれ意見を出し合った。

「オノドリムはなにか知らない?」

「うーん、いろいろしってるけど、でも」

「でも?」

「人間の口の中にいれてどうなるのかはわからないんだよね」

「それはそうだよね」

俺は微苦笑した。

オノドリムは大地に存在する物質のことなら何でも知っているだろうけど、それぞれが人間の口の中に入れた場合――なんて。

人間がそもそもやっていなければ知るよしもない。

「ごめんねマテオ、役に立てなくて」

「そんな事ないよオノドリム。今まででもすごく助かってる。本当にオノドリムがいてくれて良かった」

「マテオ……」

オノドリムはジーン、と感動した様子で俺を見つめてきた。

「意外とむずかしいな」

ダガー先生はうなった。

「そこそこ軽くて、口の中に居続けても溶けない、形を作り替えるなど加工がしやすい……さて、それを全て満たすものはあるのだろうか」

「うーん……」

俺は腕組みして、天井を見あげた。

なんでものごとを考えるときって人は上の方を見るんだろう――と一瞬だけ今はどうでもいいような考えも頭をよぎったが、それがよぎってもやっぱり天井を見あげて考えた。

ダガー先生がいう条件をすべて満たすものはないかと、自分の知識と記憶の中から合う者をさがした。

「……あ」

「なにか思いついたのか?」

「えっと……うん、全部満たせると思う。重さも軽いものがあったはずだよ」

俺は思いついたものを頭の中で広げて考えてみた。

軽くて、溶けなくて、形を作りやすいもの。

ダガー先生がいう条件を全て満たすものを見つけた。

「君だけが分かっていてもしょうがない。教えてくれ」

「うん! えっとね……これ」

俺はそういい、来客のためにメイドが出してくれたティーカップや皿を手に取って、先生の目の前でカザして見せた。

「皿? いやカップ?」

「ううん、ちょっと違うよ。最初は瓦で思いついたんだけど――陶器」

「陶器……はっ!」

ダガー先生もはっとした。

俺は小さく頷いた。

「そう、陶器。焼く前は溶けるけど焼いた後はまるで溶けなくなる、で思い出したんだ」

「すごいぞ君、ナイスな発想だ」

ダガー先生の目が光って、表情や空気が前のめりになった。