軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

165.心の栄養

「先生はこれからどうするの?」

屋敷の応接間に移動して、メイドにお茶とかお菓子をだして一服しながら、ダガー先生に聞いた。

応接間の中では俺とダガー先生がソファーで向かい合って座っていて、オノドリムは俺の背後で宙に浮いた状態で首に腕を回している。

そんな状態で、ダガー先生は出した紅茶を一口すすって、いった。

「色々と考えを改めているところだ」

「考えを? どういう事なの?」

「心拍数の件しかり、マンドラゴラの件しかりだ。君と上手く付き合えば医療技術が大きく発展するようなのでね」

「そうかな」

「結果的にはそうなっている」

「えっと、うん」

結果的にって言われると否定のしようがなかった。

「だからもっと君を活用出来るような事はなにかと考えていてね。あれほどの奇跡を引き起こせる者ならもっとちゃんとした所で活用した方がいいと思ってね」

「なにか思いついたの?」

「いいや」

ダガー先生は首をふった。

「今までは地道に一つずつ課題を解決していったのでね、まっさきに思いつくものといえば全てがただの人間でも時間をかければそれなりに解決出来るものばかりだ。君を活用するのならもっと2~3歩先、なおかつ要になるところがいいと思ってね」

「そうなんだ……ダガー先生ってすごい人だね」

「うん? なんの話だ?」

「ずっと医療の事を考えてるから、すごいなって」

俺は本心からの言葉を口にした。

であった時は無愛想だったし、今もやろうとしている事は俺の活用、あるいは利用だけど、それは医療技術の進歩のためにという理由でやっている。

その技術の進歩にした所で、話を聞く限り何かを開発して名を上げたいとかそういうことじゃなくて、これが出来れば患者はもっと健康でいられるというのが理由だ。

そういう事をするダガー先生をとても好ましくかんじた。

「そんなことか」

さっきの俺とは違って、ダガー先生は恥ずかしがったりせずに、これまたやや鼻白んだ様子で言い返してきた。

「技術の進歩を目の前にして平然としていられる方がどうかしている」

「そういうものなんだね」

そうかもしれないと納得しつつ、そこまで振り切れるダガー先生はすごいと思った。

「ねえねえ、マテオはそれでいいの?」

背後からオノドリムが聞いてきた。

「それでいいのって、何が?」

「利用されてるっていわれて、そのままでいいのってこと」

「あ、うん。ダガー先生のその考え方立派だから、僕に協力できることがあったらしようって思ってる」

「そうなんだ」

「それに、協力した方がより多くの人を救えるかもしれないって思ったから」

「うーん、マテオがいいっていいのならあたしも別にいいけど」

背後から俺の首に腕を回したまま、しぶしぶ、といった感じで引き下がるオノドリム。

言葉通り本当はいやだけど俺がそういうのなら、って感じだ。

だから俺は話を逸らすことにした。

「オノドリムは病気とかしないの?」

「病気? ならないよー」

一瞬きょとんとしたあと、いつものようにあっけらかんと答えるオノドリム。

「そうなんだ」

「そもそも人間と作りが違うからね、病気っていう状態は無いね。消滅はあるけど……それも人間でいう死とはちょっと違うしね」

「そうなの?」

「うん。人間は死んでも魂になって生まれ変わるじゃん?」

「えっと……そうだね」

一瞬どきっとしたが、俺は平然を装って相づちをうった。

魂になって転生する――俺は一瞬今の状況を言い当てられたかのように感じて、めちゃくちゃどきっとしてしまった。

「でもあたしは消滅したら完全に無になるから。転生とかないんだ」

「そうなの!?」

「うん。あっ、人間に転生して、死んだらまた大地の精霊にもどるのはあるけどね。でも今消滅したら完全に無」

はっきりとそう言い放つオノドリム。

死とはまた違う「無」という言葉は、説明を経て内容がはっきりして行くにつれ重みをましていった。

「だからマテオにはすっっっっっっっっ――ごく!」

オノドリムは一旦俺の首から腕をはなして、真っ正面にきて、めちゃくちゃ 溜めて(、、、) から。

「感謝してるんだよ!! 命の恩人なんだよ!!」

と力説した。

「うん、僕も助けられて良かった。でも、僕とか、人間に認識されるのがオノドリムの生きる力になってるんだよね」

「うん!」

「それって人間の何に相当するの?」

「人間の?」

「うん。あるのかなって。オノドリムのそれを人間に例えてぴったりなものがあるのかなって」

「うーん……そうだね……」

オノドリムは頬に指をあてて、斜め上に視線を向けながらの思案顔をした。

かなり難しいのだろうか、オノドリムはたっぷり考え込んだ後。

「あっ!」

と、何か思いついたのか、手をポンと叩いた。

「食べる事」

「食べ物ってこと?」

「ううん、ちょっと違う。あっでもちょっとあってる」

「えっと?」

どういう事だ? と俺は首をかしげた。

「もちろん食べ物もそうだけど、『食べる事』もこみで」

「食べる事?」

「ほら、おじいちゃんおばあちゃんになったら歯がなくなってまともにものをたべられなくなるじゃん? そうなると『食べる事』での楽しみがへって、それで体までよわっちゃうんだ」

「へえ、そう――」

「そうなのか!?」

オノドリムの言葉に感心した俺だが、それ以上にダガー先生が食いついた。

「な、なに?」

「その話本当なのか? 『食べる事』も寿命に関わるって」

「え? うん、そうだよ。食べられるっていうのも人間にはかなり大事だよ」

「……」

「ダガー先生?」

「君、すごいぞ!」

「え?」

「君はすごい事を暴いて、いや引き出してくれた。歯だ」

「歯?」

ダガー先生はものすごく興奮していた。

正直俺はまだちょっと理解が追いついていないけど。

ダガー先生がそこまで言うのなら、それはきっとまた、すごい事なんだろうなとおもったのだった。