軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

164.偉業

「つまり……そのアイスシガータにマンドレイクの種を食わせて、それを畑に植えればよいのじゃな?」

俺の話を一通り聞いてくれた爺さんが話をまとめた。

その話を俺は振り向き、背後にいるオノドリムとダガー先生のうち、オノドリムの報に確認した。

「それでいいんだよね? オノドリム」

「うん、それであってる」

「だって」

「わかった、わしに任せるのじゃ」

「お願いね、おじい様」

俺がそういうと、爺さんはにぱあ、といつもデレデレしているのを更にデレデレした。

「にしてもさすがはマテオじゃ。まさかマンドラゴラの養殖とはのう」

「ううん、僕はなにもしていないよ。それを教えてくれたオノドリムがすごいんだよ」

「そんなことはないぞ。いきさつはすべて聞かせてもらったが、今回の話での精霊殿は知識を明らかにしただけ、いわば古文書の類じゃ」

「そう……なるのかな?」

爺さんの言葉に納得してしまうような、そうでもないような感情を覚える。

たしかにオノドリムが大地の力を使ったとかじゃない、彼女が持っている知識を教えてくれただけと言えなくはない。

それは彼女にしか持っていない知識なんだけど――。

「特定の本にしか書かれていない知識をマテオが見つけだしたということなのじゃ」

「そういうことになるのかな」

「無論その知識は相当のもの。しかし、知識があるだけでは宝の持ち腐れ。マテオはその知識を最大限に活用する道筋を今たてようとしているのじゃ。それはまさに偉人の所業」

「もう! それは褒めすぎだよおじい様」

「何を言うか」

俺の抗議にも、爺さんは心外そうな顔をした。

「ならば聞くのじゃ。このマンドラゴラの養殖、マテオ以外の誰が実現まで持って来れたというのじゃ?」

「えっと――」

「いないよー」

俺が答えるよりも早く、オノドリムがものすごい軽い調子で代わりに答えた。

「それ、人間がまだ知らない事でしょ。あたし、他の誰かに聞かれても別に教えようって思わなかったし」

「そういうことじゃ。精霊殿から知識を引き出せたのはマテオだけ。そして――!」

爺さんはぱっ! と両手を広げて得意げな笑みを浮かべ。

「マテオの知識に人間と土地とそして金を用意出来るのがわしじゃ」

「そ、そうだね」

「こうしてはいられんのじゃ。さっそく作らせてくるのじゃ」

爺さんはそういって、全開にのりのりで部屋から飛び出していった。

新しい作物を作り始める時って結構お金も人も使うけど大丈夫なのか?

ほどほどにしてほしいけど、爺さんがあそこまでノリノリで止めようがない状況だった。

仕方ないから、爺さんの好きにさせるしかないと思った。

爺さんを見送ったあと、俺は振り向き、改めてオノドリムにお礼を言うことにした。

「ありがとう、オノドリム。オノドリムのおかげですごく助かったよ」

「えへへ……でも、ちょっと不満かな」

「え? どうして?」

お礼を言われて嬉しがったオノドリムだが、それも一瞬だけ。

すぐに自己申告の通りに不満そうな表情をして、唇を可愛らしく尖らせてしまう。

「だってあれ、農家だか荘園だかにマンドラゴラ畑を作らせてみるって、そういうはなしじゃん?」

「うん、そうだね。こういうことは皇帝陛下よりも、荘園を直接持っているおじい様の方が動きやすいって思ったから、おじい様にお願いしてみたんだ」

「それが不満。試しに作るにしても、あたしに言えば大地の恵みを与えて、一瞬でパパッと作っちゃうのに」

「あはは、ありがとうオノドリム。でも、それじゃだめなんだ」

「え? なんで?」

オノドリムは首をかしげた。

彼女からすれば俺の事を溺愛するためにパパッとやりたいんだろう。

大地の精霊の力を使えば一瞬で作物を生長させてしまう事はきっと難しくない。

いや、言葉通り「パパッと」やれてしまうだろうな。

だが、それじゃだめなんだ。

俺はダガー先生の方を見た。

ダガー先生――医者。

医者の事に関しては、村人時代に思っていたことがある。

「あのね、マンドラゴラってダガー先生が、つまり医者が使う物なんだ」

「それで?」

「医者とか薬師とか、人間を治す技術って、一人のすごい人が全部やっちゃだめなんだ。世界中の医者や薬師たちができる様にしなきゃ、結局助かる人は増えないから」

「君、よく分かっているじゃないか」

俺の言葉をきいたダガー先生が褒めてくれた。

爺さんを呼んでからはずっと黙って事の成り行きをみていたダガー先生は沈黙をやぶって口を開いた。

それで俺を褒めてくれた。

村人時代、村にすごい薬師がいた。

その人のところに行けばなんでも治るように薬をいろいろ調合してくれて、それが実際にものすごくきいた。

それはいいんだけど、その人が亡くなった後で、別の薬師がだしてくれた薬はそんなに効かなくて病気にかかっても中々治らなくなった。

その人は前の薬師の弟子だったが、師匠の調合がすごすぎて半分も理解できなかったと言った。

すごい医者とか薬師が一人いるよりも、医者と薬師全員が使える技術の方がいいとその時におもったものだ。

「その年齢でその考えに至るのはすごいな」

「あはは。でもごめんねダガー先生、おじい様に頼んじゃったから、マンドラゴラ、ちょっと待たせてしまう事になっちゃうけど」

「何を言うか」

ダガー先生は鼻白んだ。

「君はまだ自分の偉業を理解していない」

「え?」

「マンドラゴラの養殖など、医者の100人に聞いて99人には鼻で笑われるような与太話だ。それを試せる所まで一気に持ってきたというだけで既に偉業。百年分の進歩を一足飛びで飛び越えたようなものだ」

「そ、そうなのかな」

ダガー先生にも爺さんと同じような理屈で褒められて、しかもそれがあのダガー先生からだ。

俺はますますはずかしくなってしまうのだった。