軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163.マンドラゴラの正体

屋敷のリビングで向き合う俺とオノドリム、そしてダガー先生。

オノドリムはとても彼女らしい、快活で嫌みのないどや顔をしていた。

「それは本当なのか?」

「もちろん、大地の事であたしに知らないことなんてないんだから」

「さすがだねオノドリム、大地の精霊はだてじゃないね」

「えー……えへへ、マテオもそう思う?」

そう思うもなにも、大地の精霊がすごい存在なのはその通りだし、彼女自身もそういってダガー先生にどや顔を向けている。

なのに何故か俺に同じことを言われたら急に照れだしてしまった。わからん。

「うん! オノドリムの事本当にすごいって思う! いつもすっごく助かってる」

「そうなんだ……えへへ、よかった」

「そんな事よりもマンドラゴラの事を詳しく教えてくれ」

「えー、今いいところなのにぃ」

オノドリムは可愛らしく頬を膨らませた。

このあたりも彼女の魅力の一つなんだなと思った。

彼女と知り合う前なら、「大地の精霊」と聞いてもっと威厳のある存在だと思った事だろう。

けど現実の彼女は感情がハキハキしている可愛らしい女の子で、威厳とは程遠い存在だった。

それも可愛いと思っていたが、拗ねるオノドリムにダガー先生のイライラが加速しそうだったから、俺が取りなすことにした。

「ごめんねオノドリム、でも教えてくれると嬉しいな」

「うん! マテオにならなんでも教えちゃう!」

からりと態度を変えたオノドリム。

ダガー先生の感情を逆なでしてないかなと心配になりつつ、更に話を聞いた。

「マンドラゴラの種? それとも果実? って、どういうものなの?」

「ふふん、ないんだよね、それ」

「ない? どういうことなんだ?」

「ない」という言葉にダガー先生が勢いよく食いついた――いや、食ってかかった。

「マンドレイク、って植物があるの」

「それはしってるが、名前が似ているだけで姿形も、そもそも種としてにても似つかないものだぞ」

「焦らないでってば。そんなに簡単な話なら人間がとっくに解明してるじゃんか」

「むっ……」

その言葉には説得力があったようで、ダガー先生はぐっとたじろいだ。

そもそもまったく見当もつかないから大地の精霊に聞きに来たんだから、それをピンポイントにつかれると黙らざるを得なかった。

「でね、アイスシガータって虫がいるの」

「虫?」

「その虫ってね、幼虫が3年くらい土の中で暮らすんだ」

「へえ、3年も土の中だなんて大変だね」

「そのアイスシガータの幼虫が偶然マンドレイクの種を食べて、土の中に潜ったままでいると、なんとね、種がお腹の中で消化されずに徐々に芽をだすの」

「え? じゃあ食い破っちゃうって事?」

子供のころ――前世での本当の子供の頃に、スイカを食べると腹の中から種が芽を出して腹を突き破るという、大人のたちの悪い冗談に怯えていた事を何となく思い出してしまった。

「ううん、もっと怖い話」

「もっと怖い話?」

「なんとね、種の時って硬い皮に覆われてるじゃない? でも、芽を出したらそれがなくなるから無防備なの。でも完全に無防備でもなくて、それでなんと幼虫とマンドレイクが徐々に同化をし始めちゃうんだ」

「同化だと!?」

「もっと厳密にいっちゃうと、脳みそをのっとちゃうんだけど、でも完全にはのっとれなくて。喧嘩両成敗!! って感じでアイスシガータともマンドレイクとも違う別の生き物になっちゃう、って感じ」

「そんなすごい事が起きるんだ」

「うん、おきちゃうの」

「……それは本当なのか?」

突飛すぎる話だからなのか、ダガー先生は疑わしげに眉をひそめながらオノドリムを半ばにらむようにみた。

ダガー先生のにらみはかなりの迫力があったが、オノドリムはそんな眼光などどこ吹く風って感じで。

「マテオに嘘はつかないもん。ねっ、マテオ」

「えっ? あ、うん。オノドリムは嘘をつかないと思うよ、ダガー先生」

俺はそう、ダガー先生にいった。

それはまったくの本心で、オノドリムは快活な女の子だが、いたずら好きなタイプという訳ではない。

たしかに突飛過ぎる話だけど、だからこそ大地の精霊の口からしか聞けなかった話だとも言える。

「そうか……それは大変なことだぞ」

「そうなの?」

「その話が本当なら、人間はよほどの幸運と偶然が重ならない限り、向こう数百年にわたって解明することは不可能だっただろう」

「うん、そうだよね」

ダガー先生の言葉に俺は同意をした。

虫の幼虫が種を食って、それで消化しきれずに発芽したが、さらに脳みそを乗っ取り切れずに共倒れした結果――なんて。

ダガー先生の言うとおり、よほどの偶然が重ならない限りは分かりっこないもんな。

それを考えると――。

「ありがとうオノドリム、すっごく助かったよ!」

俺はオノドリムに心からのお礼を言った。

それをきいたオノドリムはじーん、と感動した様子で、その場でピョンピョン飛び跳ねた。

「やったー、うれしい! そっか、知識もマテオにどんどん上げちゃえばいいんだ。埋蔵金とかそういうのしかいらないっておもってたよ」

「ううん、知識の方がよっぽどすごい財産になるよ。本当にありがとうオノドリム」

そういって、にっこりと笑ってまたお礼をいった。

すると今度は「きゅーん」という音が聞こえたような気がして、オノドリムはさっき以上に感動している様子になった。

「だったらもっとあげちゃう! なんでもあげちゃう! ねえマテオ、もっと知りたい事ない?」

「えっと……そうだね……」

そう聞かれて、俺は困った。

オノドリムは溺愛モードにはいった、俺の知らない事、いや人間が知らない事をどんどんなんでもかんでも教えてくれるという事なのだが。

……知らない事だとなにが知らないのかも分からないから、何を教えてほしいかも分からず、ちょっと困ってしまうのだった。