作品タイトル不明
161.君は賢い
俺はダガー先生を連れて、屋敷の庭にある池の所にやってきた。
「よかった、こっちの池はなにも何もなくて」
「何もない?」
ダガー先生は不思議そうに俺を見た。
「池は何もないものなのだろう?」
「ううん、違うよ。貴族の庭園って、大きく分けて二パターンあるんだ」
「二パターン?」
「一つは真ん中に島があるような池。そういう時って島に四阿を建てて、お客さんをもてなしたり、密談したりするために使われるんだ」
「そうなのか。……なるほど、池の中央にある島なら聞き耳を立てられることもないのか」
「うん! それでもうひとつはこれみたいに、何もなくてただの池の場合。その場合もお魚を飼っている事があるんだけど、この池にはお魚もなくて丁度いいなって」
「ということは水草の類なのか?」
「あたり、さすがダガー先生だ」
ダガー先生の連想の速さを称賛した。
村人の時から普通に思ってた事だけど、やっぱり医者ってのは頭のいい人が成ってるんだなとおもった。
「お魚がいるとこれからふやす水草を食べられちゃうからね」
「そうだな」
「じゃあちょっととってくるから、すこしここで待っててくれる?」
「わかった」
ダガー先生をその場に待たせて、俺は目の前の池を使って水間ワープでいろんな所にとんだ。
水間ワープはいったことのあるところ、かつ水のあるところに飛ぶ魔法だ。
俺は水間ワープで、いったことのあるいろんな所の池を探して回った。
水間ワープの迅速さもあって、考え無しに当てずっぽうでまわっても良かった。
それで四カ所目の、ちょっと山の中にある池で「それ」のまとまったのを見つけたから、それをもって屋敷の庭に戻った。
「ただいま、ダガー先生」
「早かったな。それはどういうものなんだ?」
「えっとね、正式名称は分からないけど、僕の――じゃなくて、とある地方では浮き草って呼ばれているんだ」
「浮き草、か」
「こんな感じにね」
俺はかかえるようにもってきた浮き草を池に放り込んだ。
まったく無造作に、適当に放り込んだ。
放り込んだ浮き草で水面は一時波がたって大きく揺れたが、小さい池の中で起きたことだからそれはすぐに収まった。
収まった後、浮き草は綺麗に水面の上に浮かんでいた。
その独特な形で、自然と根っこは水中に、葉っぱの部分は水の上にでていた。
「まるで釣りに使われるウキみたいだ」
「うん、そういう使われ方もあるよ。農家の子供とか、これとミミズをとっていけでつりをするのが、農閑期の大事な仕事だよ」
「そうか」
ダガー先生は納得しつつ、俺に視線を向けてきた。
その視線は「で?」と聞いてきていた。
「この浮き草ってね、ものすごーく、増えるのが早いんだ」
「へえ?」
「今って、池の大体半分くらいだよね」
「そうだな」
「大体丸二日で、池を全部覆うくらいに増えるんだ」
「二日で倍か、それは中々に早いな」
「うん! 実はこれって……結構悲劇もあったりするんだ」
「ほう? どんな悲劇だ?」
「ものすごく速く増えるから、水害とか、嵐とかで作物流れて食べ物がなくなった後だと、これが大量に増えちゃって、他に食べ物がないからこれを食べる人もいるんだけど……」
「腹を下して死ぬんだな」
ダガー先生の反応は当然のものだった。
大きな災害のあとって、餓死するよりも先に、食べ物がなくなって、代わりに普段食べない物を食べて、それで 当って(、、、) 死ぬことの方が多い。
その一番のパターンが腹下しだ。
だが、これはそうじゃない。
「ちがうよ、この浮き草って食べても腹を下さないんだ。毒もない」
「ほう? じゃあなんだ?」
「何故か分からないけど、食べれば食べるほど急に痩せていくんだ」
「食べるほど痩せる食物か。それはそれで毒だな」
「そうかもね」
俺は苦笑いした。
貴族は違うけど、村人だと食べる事は生きるためにする事だ。
何かを食べて、生きるため、動くためのエネルギーにする。
食べ過ぎると太って脂肪に蓄えるし、食べずにいたら脂肪を消費していってどんどん痩せる。
村人だと太 れ(、) る人間はいないけど、身近にいる野生動物が越冬のために脂肪を蓄えるのをみてて、それをほどよいところで狩りとる事をしているから、その辺りの事はみんな分かっている。
だから食べれば食べるほど痩せる浮き草は普段食べないし。
「畑を食い荒らす鹿でも食べないことから、鹿跨ぎって呼ばれることもあるんだ」
「なるほど。それはともかく、二日で倍増えるということは、とりあえずは一昼夜待つという事だな?」
「うん! そういうこと」
ここでもやっぱり、ダガー先生の理解は素早かった。
「ごめんね、ダガー先生」
「なんだ? 藪から棒に」
「たぶんもう少し早められると思うけど、まずは何もしないで現状を確認したいんだ。だから、ダガー先生は忙しいと思うけど、まずは一日まって――」
「なんだ、そんな事か」
ダガー先生は俺の言葉を最後まで待たずに、彼女らしいシニカルな笑みを浮かべた。
「それが正しいやり方だ。君は、かしこいな」
不快になると思ったけどそうはならずに、逆にダガー先生に褒められてしまったのだった。