作品タイトル不明
152.雪と血
「マリンスノーを吸収してるってことなの?」
「たぶんそうだと思う」
「すっごーい。ねえねえ、吸収してどうなるの?」
「……うーん」
その質問には答えられなかった。
吸収してどうなるのかというのは、今の所変化を感じていないからだ。
「魔力ならなんでも吸収するのかな」
「やってみる?」
「うん! えっと……こう、かな」
俺はエクリプスの操作で、皮をこっちにむけた。
自分の皮を向き合ったまま、皮の手をこっちに差し出させた。
その手の上に自分の手をかざして、慎重に、そしてちょびっとだけ少量の魔力を放った。
魔力が固まりとして出て、皮の手と触れた――が。
吸収されずに拡散して、海の中に溶けていくかのように消えてしまった。
「吸収しなかったね」
「マリンスノーだからなのかな」
そういって、またエクリプスで皮を操作。
さっきと同じようにマリンスノーを手の平でキャッチしてみる。
すると、マリンスノーはまた手の平に吸収された。
「あっ、吸収したね」
「じゃあやっぱりマリンスノーだからだね。ねえ、マリンスノーってこうなるものなの?」
「ううん、初めて見た。まったく聞いた事もないよ」
「そうなんだ」
「マリンスノーと、マテオのこのお人形だからなのかもね」
「そうなるとこの皮だからって事だよね。この皮の特殊なところ……あっ!」
俺は声を上げた。
皮のことを少し考えただけで心あたりを思いついた。
「どうしたの?」
「ちょっと試してみたい事があるから、みてて」
「うん!」
サラはそういって、尾びれを器用に動かして、器用に後ずさって俺からちょっとだけ距離を開けた。
それで俺は同じように、皮も数歩後ずさらせて、同じように距離をあけた。
そうしてから、ナイフを取り出す。
何度かつかったナイフだから、まったく躊躇することなく自分の胸に突き立てた。
「マテオ!?」
俺にはもう慣れた行動だが、サラは初見だった。
驚きの声をあげるサラをみて、俺は説明不足だったなと動きをいったんとめた。
「大丈夫、これは普通のナイフじゃないから」
「そ、そうなの?」
「うん、そのままみてて」
「わかった」
俺の説明でひとまずは納得してくれたようで、サラは相変わらずハラハラした表情のままだったが、声を上げたり止めたりとか、そういうのはしないで見守ってくれた。
俺はナイフを使って、慣れた手つきで自分の皮を切り出した。
すぐにまた、俺の皮がもう一枚出来た。
深海の水圧の中だけど、「膨らんでいない」皮は押しつぶされるような構造になっていないからどうもしなかった。
一方、まるで脱皮したかのように皮を剥いだその姿にサラは驚き、ポカーンと口を開け放ってしまった。
「そ、それは?」
「それと同じものだよ」
俺はそういい、少し離れた所で立たせている皮をさした。
サラはそっちをみて、すこしずつ驚きが収まった。
「そうやって作ったんだ……」
「そういうこと」
厳密にはちょっと違うけど、その「違い」が今は必要だった。
俺は剥いだばかりの皮にもエクリプスの力を通した。
それまでヘニャヘニャだった皮は空気が満ちていくかのようにふくらんでいった。
「むっ……」
「どうしたの?」
「大丈夫」
膨らんでいく途中で深海の水圧を感じたが、力を強めに込める事でそれに対抗することが出来た。
「じゃあ、やってみるね」
「……あっ、つくったばかりので試してみるってことだね」
厳密にはちょっとちがう――けど、 どっちにしろ(、、、、、、) すぐに結果がでるだろうから、説明よりもまず試してみることにした。
新しい皮の手の平で、さっきとまったく同じようにして、マリンスノーをキャッチした。
手の平にマリンスノーがのった――が。
「あっ、消えない」
「きえないね」
驚くサラ、平然としている俺。
「マテオ、驚かないの?」
「たぶんこうなるって予想してたから、そのために試してみたんだ」
「そっか! えっと……出来たばかりなのはダメって事?」
「ううん、そうじゃないよ」
俺はゆっくりと首をふった。
元の皮と新しく出来た皮。両方ともエクリプスの力で動かして、俺とサラの前にならばせた。
こうしてならんでいるとまったく同じすがた、双子のような姿にみえる。
どこも違いなんてないように見える――が、二種類の皮には決定的な違いがあった。
「こっちのマリンスノーをキャッチ出来る方は処理をしてあるんだ」
「処理?」
「うん、長く使えるように、頑丈にする処理……って感じの」
「へえ」
「その処理っていうのがね、海神の血を塗り込むことなんだよ」
「えっ!?」
サラはますます驚いた。
当然だろう。
彼女にとって――いや彼女達人魚にとって、海神というのはそれほどの言葉、それほどの存在だ。
「海神の血って、どういうことなの?」
「文字通り海神の血をつかったんだ。血を魔力でオーバードライブして、皮――人形に塗り込んだんだよ。神の血だからそれで長持ちする様になるって技術なんだ」
「なるほど! うん、神の血だもんね!」
細かい技術や原理など何も伝わっていないしそもそも話してもいないが、サラは「神の血」という言葉だけで全て納得したようだ。
それもまた海神がいかに特別な存在であるのかという証拠だなとおもった。
「この二つの違いはそれだけだから、そのせいだと思うんだ」
「そっか、海神様の血を使ったから、マリンスノーを吸収出来たんだ」
「たぶんね」
サラとは違って、それだけで完全に納得する事は出来なかった。
状況的にみてそう判断するのが妥当――だとしてもそれだけで完全に納得は出来なかった。
だから。
「ちょっと待ってね」
サラを待たせて、海神ボディを水間ワープで取り寄せた。
前のと同じように、海神の血をもらって、それをオーバードライブして新しい皮に塗り込む。
海神の血をみて、俺が同じことをすると理解したサラは静かに、しかしワクワクした瞳で見守った。
オーバードライブによるマテリアルコーティングは上手くいった。
その、マテリアルコーティングが成功した新しい皮をエクリプスで操作して、まったく同じようにしてマリンスノーをキャッチする。
すると――。
「あっ!」
「吸収したね」
「うん!」
新しくマテリアルコーティングした皮もマリンスノーを「吸収したようにみえた」。
その光景に、俺とサラは大いに興奮したのだった。