軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

151.吸収する皮

俺は空――いや、海底だから「水面を見あげた」。

降ってくる白い物は完全に雪にしか見えなかった。

粒の大きさも、降ってくる速さも。

完全に雪にしか見えなかった。

手を出して、雪が降った時によくするように、手の平に雪を載せるようにキャッチする。

手に乗った雪っぽいそれはずっとそのままで、溶けそうな気配はまったくなかった。

「冷たくもないし……なんだろこれ」

不思議がって、それをつんつんしてみた。

余りにも小さいということもあってか、感触らしい感触はほとんどない。

白いこともあって、小麦粉のちょっとでっかいヤツ、という感じがしてきた。

「もどったよー、ってマテオなにしてんの?」

「え? あっ、これなにかなって」

サラが戻ってきたが、俺がまじまじと手の平を見つめているのが気になったのかそれを聞いてきた。

それはそういって、手の平に載せた白っぽいやつをサラによく見えるように差しだした。

サラは俺の手の平をのぞきこんで、ちょっと不思議そうな顔をした。

「マリンスノーの事?」

「マリンスノー?」

「うん!たまに降ってくるよ、地上から」

「地上から降ってくるの?」

「そっか、人間にはこれの事あまり知らないのかな」

「うん」

俺はそういって、はっきりと頷いた。

マリンスノーと言う言葉を聞いてから、頭の中でその言葉を探したが、該当する言葉はなかった。

それよりも前から「海底に降ってくる白い物」で知識の引き出しを片っ端から開けていたけど、それもやっぱりなかった。

爺さんとイシュタルにたくさんの本を集めてもらって、それを片っ端から読んで知識量が増えたという自負はあったけど、その知識の中に一致するものはまったくなかった。

「しょうがないっか。これ、海底まで来ないと見れないし、あたし達と同じ 目(、) じゃないと見れないし」

「そっか……」

サラの言葉に納得した。

まず人間が海底まで来る事はほとんどなくて、例え来れたとしても海底は真っ暗な世界で何も見えない。

俺は人魚の加護と海神の力で普通にものを見れているけど、普通はまったく見れないもんな。

「えっとね、確か土地にたまった魔力――みたいなものだってお母様がいってた」

「魔力なの?」

「みたいなもの」

サラは半分肯定、半分否定みたいな感じで答えた。

「どういう事なの?」

「あたしもよく分からない。お母様ならもうちょっと詳しいと思うけど。でも普通の魔力じゃないっていってたのは覚えてる」

「そうなんだ」

「その魔力っぽい何って、地上のあらゆるところにあるみたいなの。で、雨が降った後とか、それが地面の下に溶け込んで、地下水までいった後、海に流れ込んでくるんだって」

「へえ、面白いね」

「でね、土地にまんべんなくうすーくあるけど、溶けてあつまって、最終的に海にたどりつく頃にはこうしてまとまった大きな粒になるってお母様が言ってた」

「なんだか川の流れみたいだね。小さな川がどんどん流れてどんどんあつまって、やがて一本の広い川になるみたいな」

「どっちも水だからね」

「そうだね」

このマリンスノー自体なんなのかは未だに分からないけど、その来し方行く末みたいなのが何となくわかった。

「これって何か害はないの?」

「ないよ。ずっとあるものだし、それでなんか起きたって事も聞いたことないしね」

「そっか、じゃあ気にしなくてもよさそうだね」

そういって、マリンスノーの事は忘れることにした。

具体的な事は何もわからないけど、分からなくても大丈夫な事はわかったからそれでいいやと思った。

「というかマテオ、なんでそれを手の平の乗せてたの? こんな感じ?」

サラはそう言って、両手を広げて見せた。

さっきまでのおれと同じように、その手の平にマリンスノーを載せた。

「特に意味はないよ。地上の雪は冷たいから、何となくこうやって雪をキャッチする事があるんだ。なんだろ……風情? かな」

言われてみたら何でだろうと思った。

雨を降る時もするけど、雪が降ったときは特にこれをやる。

雨の時は雨が降ったって確認したらすぐにやめるけど、雪の時は雪が降ったと確認――手の平の乗った後もしばらくじっと見つめる事がある。

なんでそうしたのかよく分からないから、とりあえず「風情のため」というふわっとした答え方をした。

「風情なんだ」

「うん」

「へえー」

サラは興味津々って感じの顔で再び手を広げて、マリンスノーをキャッチした。

俺はさっきやって、冷たさを感じなかったことから風情も感じなかったけど、サラがやっているから俺も同じようにした。

手の平に載せてもやっぱり何も感じなくて、当然風情も感じられない。

でもサラがやっているからとりあえずつきあった。

なんと無しに、すぐ側にいる俺の皮にも同じような事をさせた。

ちょっとだけまん丸くなったフォルムの俺の皮が両手を広げた光景はちょっとコミカルだった。

そんな皮の手にもマリンスノーがのった――その瞬間。

「え?」

「どうしたの?」

「マリンスノーが溶けた?」

俺の目に映ったのは、皮の手の平にのった瞬間、マリンスノーが消えてしまったという光景だった。

俺の手でもサラの手でも何も起きなかったのが、皮の手の平に乗った瞬間すっと溶けてしまった。

「本当だ、溶けてるね」

「これは一体……あっ」

更に変化が起きて、それにはすぐに気づいた。

手の平の中でマリンスノーが溶けた俺の皮は、ぼんやりとした光を放ちだした。

まだ確実な事は何一つわかっていないけど。

「吸収……してるの?」

俺の皮が魔力の集まりを吸収している。

何となくそうなんじゃないかと、俺は思ったのだった。