軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

153.離れていても

「ねえねえ! これでどうなるの?」

サラは興奮したまま聞いてきた。

それにはちょっとだけ困った。

「まだ分からないけど、もうちょっと様子見しよっか」

「そだね!」

俺はサラとならんだまま、一緒になって皮達がマリンスノーを取り込んでいくのを見守った。

「ねえねえ、これって他にどういう事ができるの? もしかしてお使いに出したりできる?」

「お使いは……ちょっと難しいかもしれない」

「そうなの?」

「うん、ちょっと試してみるね」

俺はそういって、水間ワープでその場からはなれた。

屋敷の自分の部屋に飛んで、部屋の中でしばらくじっとした。

数分間そうしてから、また水間ワープでサラの所にもどった。

「ただいま」

「お帰り! すっごくわかりやすかった」

サラはそういって、興奮したまま真横に視線をむけた。

そこには布かなんかのように、しぼんで海中をゆらゆらしている皮達のすがたがあった。

「マテオがいなくなったらすぐに動かなくなったんだ」

「だよね。僕の力が及ばない範囲にでちゃうとうごかなくなっちゃうんだ。今回はぼくの方から離れたけど」

そういいながら、再び皮にエクリプスの力を通して、マリンスノーの取り込みを再開させる。

サラが疑問に思ったそれは、彼女がそうだったように、俺もこの力をエクリプスからももらった時に真っ先に思った事だ。

その時にはまだ皮はなかったから、魚とかで試したりしてみた。

調理する前の魚も、ガイコツも、そしてこの皮も。

全部が同じで、俺から離れると力が及ばなくなる。

それは純粋な距離次第で、開けた場所で体そのものがまだみえてても、指のしている形が分からなくなるくらいの距離で力が届かなくなる。

今みたいに、屋敷までもどっていたらなおさら力が届かない。

「僕がいなくなっても動けるのなら便利なんだけど」

「出来ないの?」

「そうみたい」

「そっかー。しょうがないね」

サラは言葉通り、大して残念がることなく引き下がった。

「でも、マテオって本当すごい」

「え?」

「だってこれ、マテオじゃなかったら出来なかったことだよね。海神様の血を使うなんて、マテオ以外には絶対無理だもん」

「でも、偶然だよ。僕だって狙ってやったわけじゃ無いんだから。オノドリムに進められたまま彼女の力を借りてたらこうはならなかったし」

「へえ」

サラはそういって、ちょこんと小首を傾げ、少しの間思案顔をしたあとに。

「それってでも、もっとすごいよ」

「え? それってどういうこと?」

「だってそれって、海神様と大地の精霊の力を選べたから、だよね」

「う、うん」

「あたしってタダの人魚だから、タダの人間と同じことなんだけど。海神様も大地の精霊も、どっちも片方だけでもすごいのに、それをどっちでもいいって『選べる』ことがすごいんだよ」

「う、うん。そうだよね」

ちょっととまどったけど、それはサラの言うとおりだと思った。

海神ボディをまるで自分の体のように使わせてもらってるから気づかなかったけど、そもそもが海「神」のボディだ。

それの力と、大地の精霊の力。

両方を好きにどっちも選べるなんて、確かにすごく贅沢な話だ。

言われて、改めてすごいなと俺自身も思った。

「ねえ! 海神様の代わりに大地の精霊に今のをしてもらったら、マリンスノーはどうなるのかな」

「そっか! それは気になるよね」

これまたサラの言うとおりだと思った。

もともとオノドリムにやってもらうのが申し訳ないから、「俺自身」でやれる海神の血でオーバードライブして、マテリアルコーティングをした。

これまではそれで良かった、けど、海神の血でマリンスノーを取り込めているとなったら、オノドリムにマテリアルコーティングをやってもらったらどうなるのか、という新しい疑問が生まれる。

そうなると、いてもたてもいられなくなった。

「ちょっといってくる!」

「うん!」

サラに見送られて、俺は再び水間ワープで屋敷にもどった。

その場にサラと皮を残して屋敷に戻った。

「オノドリム、いる?」

「はーい」

俺が呼びかけた途端、オノドリムが目の前に現われた。

呼んですぐに現われた事にちょっとびっくりした。

「近くにいたの?」

「ううん。でも、君が呼んでくれたときはすぐに駆けつけるから。いつでも、どこにいても」

「そ、そうなの?」

「うん! だって命の恩人だもん、命の恩人の声を聞き逃すわけがないじゃん」

オノドリムはそういい、屈託のない、満面の笑顔を見せた。

さらっといってるけど、大地の精霊にとっても「常に耳を立てている」状態は普通の子とじゃないはずだ。

それだけこっちに意識を向けてくれていることは有難い事だと思った。

そう思いながら、オノドリムにむかって本題を切り出した。

「あのねオノドリム、一つお願いがあるんだ」

「やった! なんでもいって」

こっちからお願いをするはずなのに、オノドリムは「やったー」と喜んだ。

「あのね、改めてなんだけど、僕の新しい皮にオノドリムのマテリアルコーティングをしてほしいんだけど……お願い、できる?」

「もっちろん!」

オノドリムは即答した。

大喜びで即答し、小躍りしそうな勢いだ。

「ありがとう」

まずお礼を言ってから、ウキウキ顔のオノドリムのまえでナイフを取り出し、いつものように自分に突き立てた。

そしてもはや慣れてきた手順で、自分の皮をはいた。

手順は慣れてきたけど、皮を一枚剥いだのに、自分の見た目は何も変わらないという点はまだちょっとだけ違和感が残っている。

そんな違和感をおくびにも出さずにして、ナイフをしまって、両手で皮をもってオノドリムに差し出す。

「おねがい」

「うん!」

オノドリムはそういい、俺の皮をうけとって、大事そうに抱きかかえた。

まるでプレゼントにドレスをもらった女の子のような仕草で俺の皮を抱きかかえてから、そっと皮の唇に口つけた。

「オノドリム?」

「えへへ……あっ、ちがうのよ、精霊の祝福だから、こっちのやり方もあるの」

「へえ、そうなんだ」

一瞬不思議にはおもったけど、「精霊の祝福」という言葉で口づけという行動に納得した。

オノドリムはちょっとだけ照れて、しかし嬉しそうな顔はそのままで更に俺の皮に口づけした。

今度は止めなかったから、俺の皮がぼんやりと光り出した。

それをみて、マテリアルコーティングにもいろいろやり方があるんだなあ、とちょっとだけ感心した。

オノドリムの口づけが10秒ほどつづいた所で、光がゆっくりと収まっていった。

それが完全に収まったあと。

「……えへへ」

オノドリムは口づけをやめた。

笑顔のままだが、何故かちょっとだけ名残惜しそうに見えた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうオノドリム。すぐに試したいから、今度ちゃんとお礼をするね」

「うん! いってらっしゃい!」

オノドリムは笑顔で手をふって、俺を送り出してくれた。

俺はオノドリムにマテリアルコーティングしてもらった新しい皮をもったまま、水間ワープでサラの所に戻ってきた。

「あっ、マテオ!」

俺が戻ってきたのをみたサラは何故かちょっと驚いているように見えた。

「ただいま――って、どうしたの?」

「あのねマテオ! 動いてたんだ」

「動いてた?」

「うん! あれ」

サラはそういって、真横にいる俺の皮――さっきおいてきた海神コーティングの皮をさした。

「マテオがいなくなった後もちょっとだけの間動いてたんだ」

「えっ!?」

今度は俺が驚かされることとなった。

俺がいなくなった後も……?

それは、まったく予想外のできごとだった。