軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150.破裂する皮

水間ワープで海の底にきていた。

普通、人間の体では息することはもちろん、まわりが暗くて何も見えないし、水中だからあらゆる行動に制限がかかる。

だけど俺は海神ボディに何度も乗り移ったり、海中に住む人魚の加護を受けているから、水中でも地上とまったく変わらない過ごし方が出来る。

それどころか、普段は海底を地上のように歩けるのに、その気になれば水中を泳ぎ出す事も出来る。

海神と人魚の加護でいいどこ取りが出来て、ともすれば地上よりも過ごしやすいかもしれないと思う事がよくある。

が、それは俺だけのこと。

海神の力も人魚の加護を受けているのも俺だけ。

俺以外のものは普通に海の中の、当たり前の制約を受けたりする。

「えっと」

俺は手をかざして、水間ワープを使う。

水間ワープで、屋敷に置いてきた小さなタルを取り寄せた。

職人に作らせた、完全に密封している小さな木造のタル。

それは水間ワープで手元――つまり海底に取り寄せた瞬間、壊れた。

密封して、中身が空になっているタルは、海底の圧力に一瞬たりとも耐えられずに押しつぶされてしまったのだ。

「だよね」

「何してんの?」

「わっ、サラさん」

真横からニュッ、って感じで顔を出してきたのは人魚のサラ。

いや、人魚姫のサラだ。

彼女は海中を支配する人魚の女王の娘で、出会ってからずっと仲良くさせてもらっている。

そんな彼女は真横から顔をだして、水圧で押しつぶされて、水中だからプカプカ浮かんでいるタルの破片をみた。

「どうしてここに?」

「マテオの気配を感じたの。長めにいるみたいだから会いに来た」

「そうなんだ」

「それよりも、これなにしてんの?」

サラは破片を指さし、聞いた。

「ちょっと試したい事があって、それの前確認……っていうのかな。それをやってたんだ」

「試したい事?」

「うん。ほら、地上のものって、普通は海底だとすごい圧力かかっちゃうじゃない」

「うん。こんな風に粉々だもんね」

「それで、最近使うようになったものが大丈夫かなって」

「そういうことね。使う様になったのって何?」

「これだよ」

俺はポケットの中から皮の金貨を二枚取り出した。

一枚はエクリプスにあげたけど、いろいろ考えた結果やっぱり「1」と「複数」は大分違うから、まだ色々と試す段階もあってもう一枚追加して 二枚(複数) にした。

それをサラに見せた。

サラは俺の手の平にのっている皮の金貨をまじまじと見つめた。

「それって人間のお金? でもそういう形のものは押しつぶされないよ?」

「うん、ここからなんだ」

俺はそういい、皮の金貨を指で弾いた。

グルグルと回りながら放物線を描いて飛んでいく皮の金貨、水中と言うこともあって、その軌道は地上にいるときに比べて遙かに緩やかだ。

それもちょっと面白いと思いつつ、そこにエクリプスの力を通した。

皮の金貨がみるみるうちに膨らみ、ちょっとデフォルメされた俺になった。

これが試したくて海底にきた。

皮と言えば中身はスカスカだ。

マテリアルコーティングされているけど、水中だとどうなのか。

腐るのかどうか、膨らむのを維持し続けられるどうか。

その辺りをテストしたくて、海底にやってきた。

「うん、とりあえず元の形には戻せるみたいだ」

「……」

「サラさん?」

「……」

実験の第一段階が成功して満足する一方で、サラが俺の皮をじっと見つめている事に気づいた。

目を見開き、ものすごく真剣な顔で見つめている。

「サラさん? 一体――」

「か」

「――か?」

「か、かわいい!!」

「えっと……」

「可愛い可愛いきゃああああ可愛いいいいい!」

「ちょ、ちょっとちょっとサラさん?」

サラはめちゃくちゃ興奮しだした。

「ねえマテオ、これ何?」

「えっと、僕の……人形、っていうか」

僕の皮、と言いかけたけどとっさに言い換えた。

「誰が作ったの?」

「僕……かな?」

「すごい! マテオそんな才能もあったんだね!」

「う、うん」

「ねえ、これすごく可愛い! 一個あたしに頂戴?」

サラはそう言って、おねだりしてきた。

「それはいいんだけど……」

「ダメなの?」

「だめっていうか……どこから話せばいいのかな。これ、今僕の力で形を保ててるんだけど」

「そうなの?」

「うん、たぶん……力をぬくと、ほら」

説明しながら、エクリプスの力を止めた。

すると人の形をしていた俺の皮が、みるみる膨らんでいった。

もともとがデフォルメされているような、やや丸っこい感じのフォルムだったが、今はそれ以上に膨らんでいる。

「なんかフグみたい」

「中は空洞なんだ。だから力を抜くとこんな風に膨らんじゃうんだ」

「そっか……マテオの力がないとだめならだめだね……残念」

サラは言葉通り残念がった。

かたをがっくりと落とすくらいの気の落ちようで、ここまで残念がってくれるのならどうにかしてあげたいとちょっとだけ思ってしまう。

それにはまずテストを、と思い再び皮の方をみた。

皮は二体あって、今は一体だけエクリプスの力を通している。

通していない方はぷく――と膨らんでいるが、はじけ飛ぶほどではない。

もう一体の方にかけているエクリプスの力をけした。

するとこっちもみるみるうちに膨らみ――やがてはじけ飛んでしまった。

「ああっ! ど、どうしたの?」

「ごめんね。こっちはマテリアルコーティングって言うのをしてなくて、こっちに比べて頑丈じゃないんだ」

「そうなんだ……」

エクリプスにあげたあと、新しく作った方は比較のためにマテリアルコーティングをしないで持ってきたけど、やっぱりダメだったようだ。

「マテリアルコーティングなしはまったくダメで、ありなら影響出るけど持ちこたえられる、ってことだね」

「水中ならお母様に頼めば大丈夫にしてくれるよ! あたしちょっと行ってくる!」

サラはそういって、止めるよりも早く 泳ぎだした(、、、、、) 。

見え方を地上にいるときと同じようにしてくれた事もあって、泳いでる姿はまるで空中を飛んでいるようにみえる。

人魚姫サラのその姿は綺麗なものだった。

俺は残った、最初のマテリアルコーティングありの皮に再びエクリプスの力を通した。

マテリアルコーティングとエクリプスありだと地上と同じくらいの見た目になる――が。

「動きはちょっと鈍いか……」

動きまではカバー出来なかったようだ。

操作している皮の動きは鈍く、言葉通り水中にいるような重さだ。

サラは女王に頼んでくれるっていうけど、当面はいろいろ試すし、消耗品として使うかもしれないし。

とりあえず一枚だけなんとかしてもらおうかなっておもった。

「あれ?」

ふと、空――じゃなくて上をみあげた。

空ではない水面の方から何かが降ってきた。

「……雪?」

それはまるで雪のような、白いそれなりの大きさの粒だった。

海で雪……?

始めて見る光景に、俺はちょっと困惑した。