軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145.オノドリムだけが知っている

「ありがとう、オノドリム」

俺はストレートに感謝の気持ちを口にした。

「え? なにが?」

「その事を教えてくれてありがとう。もうオノドリムだけが知ってる真実だもんね」

「うむ、マテオは知識欲が旺盛だからな」

お礼の理由を説明すると、イシュタルが横から補足説明を加えてくれた。

「そっか、いつもマテオにたくさんの本を持ってきてるもんね」

「うむ。マテオの無数にある美点の中でも上位に入るものだ」

無数って――と、俺は苦笑いした。

イシュタルと爺さんのよくある光景、競って俺を溺愛するあの光景。

それで一番よく目にするのが俺にたくさんの本を持ってくることだ。

知識は財産だし、本は高価なものでそれだけでも一財産。

財産と財産のかけ算で、ちゃんとした知識が記されている本の価値は計り知れないものがある。

そういうものだというのをイシュタルと爺さんは知っていてなお惜しげもなく持ってくる。

それは俺じゃなくても普通に嬉しいものだ。

なのに「無数にある美点」にいれられると、いつにもまして恥ずかしくなってしまう。

「そんなのでいいのならもっといっぱいあるよ!」

イシュタルの言葉にオノドリムが反応した。

予想外に強く反応した。

「もっといっぱいって?」

「うん! 今はもう誰も知らない本当の真実だよね」

「えっと……まあ、そういうことだけど……」

オノドリムのハイテンションとは裏腹に俺は落ち着いていた。

このあたりイシュタルと爺さんに 慣らされた(、、、、、) というべきなんだろうか。

相手のテンションが上がれば上がるほど、こっちは身構えて冷静になってしまう不思議な現象。

そんな風に思っているのをしってか知らずか、オノドリムはハイテンションのまま更に続ける。

「じゃあ帝国の皇帝、最初のカレ」

「始帝のことか?」

イシュタルが眉間を少し寄せて、首をかしげた。

自分の先祖がどうしたのだ? という心境が手に取るように分かった。

「彼、出身はどういう風になってる?」

「え? たしかご本では大地主の跡取り……だったよね」

初代皇帝の事はよく知っている。

様々な書物で良くでてくる人物だし、ちゃんと知っていた方がいい人物でもある。

その知識はすぐに頭からでたが、念の為にイシュタルに確認した。

「うむ。さすがだマテオ」

「それちがうよー」

イシュタルが俺を褒めたところで、オノドリムが速攻で否定した。

二人で一緒に「え?」ってなってオノドリムの方を向くと、彼女は大いばりで得意げな表情をしていた。

「彼、ただの村のチンピラだったよ」

「なに!?」

「そうなの?」

「うん! 最初のどさくさに紛れて大地主の家を略奪して家ごと乗っ取ったんだ。あっ、理由はその家の奥さんが美人だったから自分のものにしたかった、だよ」

「なんという……」

イシュタルは言葉を失っていた。

俺はオノドリムに聞き返した。

「本当なの? それ」

「うん、本当だよ」

「……始帝が人妻を特に好むというのも本当か?」

「うんうん、それも本当。略奪愛大好きっ子だったよ」

「そうか……」

イシュタルは重々しいながらも頷いた。

今度は心あたりあり、って顔をしていた。

それらは初めて聞く話だった。

どれもこれも「建国の初代皇帝」には不都合な話ばっかりだから、完全に闇に葬り去られた情報なんだろうな、というのは想像に難くない。

「ねえねえ、今のも嬉しい? 嬉しい?」

オノドリムは更に聞いてきた。

これももう、オノドリムしか知らない真実で、それを俺が嬉しいからという理由だけで彼女は教えてくれた。

「えっと……うん、ありがとう、オノドリム」

イシュタルの先祖のメンツに関わる話だから、素直に嬉しいとは言えなかったけど、お礼は言うことにした。

「やたっ! 他になにがあったかな? うーん、ありすぎてこまっちゃう!」

また俺にお礼を言われたから、オノドリムは次の真実を語ろうと頭の中の引き出しを必死に開けているようなかんじになった。

ありすぎて困る――というのも、大地の精霊たる彼女のことを考えれば決して大げさではないんだろうなと思った。

それは放っておけばずっとその話になってしまう、という事でもあった。

「ねえ、まずはこれの事を教えて」

俺はそういい、自分の皮を動かして、オノドリムにアピールした。

「そかそか、そっちが先だね」

「うん。お願い」

「オッケー。でも簡単だよ、マテオなら」

「僕なら簡単なの?」

「うん! 一応確認だけど、昇天の仕掛けはいらないよね」

「うん、いらない」

「じゃあ一番簡単な方法を教えてあげる。片手にその皮をもって」

「うん」

俺は頷き、指示された通りに皮を右手で持った。

持った、というよりは手をつないだ、と言う方が正しい表現かもしれない。何しろ俺の皮、文字通り等身大の物体だからだ。

「でね、これを空いてる方の手で持って」

そういって、オノドリムは髪の毛を一本引き抜いて、俺に手渡した。

俺はそれを受け取って、不思議そうに彼女を見つめ返した。

「オノドリムの髪?」

「うん。別に髪じゃなくても、爪とかでもいいよ。――あっ!」

「な、なに?」

「そっか、マテオは海神のあの体もってるんだっけ」

「え、あ、うん」

それがどうしたんだろう、って不思議がった。

「あれでもいいんだ。アレの髪とか皮膚とか血とか」

「えっと……つまり?」

どういうことなんだろうか? とオノドリムを見つめ返した。

俺が不思議がっている横から、イシュタルが思案顔でぼそりと口を開く。

「人間を超越した存在の体の一部を使う、ということか?」

「それでもいいけど、それだけじゃダメな場合もあるんだ」

「例えば?」

「例えば彼」

オノドリムはほとんど即答に近い形で、これまで離れた所で会話を見守っていたノワールを差した。

「生まれついての、じゃないとダメなんだよね」

「…………」

生まれついてのじゃない――後天的な。

それをいきなり暴露されたノワールは、珍しく表情が固まっていた。

笑顔のまま、かたまっていたのだった。