軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

144.世界の真実

「それってどういう事なの?」

「歴代皇帝の陵墓は帝国全土に散在している事は知っているか?」

俺の疑問に、イシュタルは別の質問で返してきた。

なぜそんな事を――と疑問に思いつつも、陵墓つまりお墓、遺体つながりだから全くの無関係ではないだろうとと理解する。

理解して、考える。

歴代皇帝の墓があっちこっちにあるというのは――。

「うん、いろんなご本で読んだよ」

「表向きの理由は様々だ。その皇帝の思い入れ深い土地とか、神のお告げで聞いた土地だからとか。多岐多様にわたって存在する」

「そうなんだ。……じゃあ本当の理由は違うの?」

表向きの理由、とイシュタルは結構強めに、強調する様にいった。

それはわかりやすく話の流れを誘導したいがためだろうと俺は受け取った。

だからそれをストレートに聞いた。

「わが帝国では、陵墓の中に埋葬されているのは『マテリアルコーティング』された皇帝の遺体だ」

「マテリアルコーティング?」

初めて聞く言葉だ。

今度は先回りして頭の中からそれに関する知識はないかと探したが、ぴったり合致するものはなかった。

「一言で言えば超高度な防腐技術、だな」

「――あっ、腐らせないように……」

俺がはっとして、イシュタルが頷いた。

話の発端がエクリプスの力が通る「遺体」を腐らせないようにする話だから、ここで話が繋がった。

「そうだ。今でも各地の陵墓では、皇帝たちが生前の姿のまま静かに眠っている」

「どうしてそんな事をするの?」

「これまた表向きの理由が色々あってな」

さっきとまったく同じ言葉を、イシュタルは繰り返した。

今度はなぜか、ちょっとだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「一番の表向きの理由は権威付け、だな」

「権威付け?」

「うむ。権力者の遺体を保存し、偶像にして信仰の対象にする。このあたりはルイザン教もよくやっていることだな」

「あっ……」

さっきルイザン教が引き合いに出されたのはそういうことか、と俺は納得した。

「まあ、向こうはいろいろと雑だがな」

「雑?」

「うむ、聖遺物という形で様々なものを遺してあっちこっちの教会に分けて保存している。それ故のゆがみが生じている」

「ゆがみって例えば?」

「一番の喜劇は聖人カインの包皮、だな」

「包皮……がどうしたの?」

「現存するものを全部つなげれば10メートルは優に超える長さがある」

「……あはは」

なるほど、と思った。

ちょっとだけクスッときた。

「皇帝の遺体」が一つしかあり得ないというのに対して、「聖人の一部」はいくらでも分割がきく。

それを活用して各地の教会に配って信仰の対象にしたんだろうけど、やり過ぎだったということだな。

「話がそれたが、そういう権威付けや信仰の偶像にするのが表の理由だ」

「じゃあ本当の理由は?」

「戦略拠点にすることだ」

「戦略?」

まったく別ベクトルの話になって、俺はきょとんとなった。

「歴史をよく知っているマテオなら分かるだろうが、どんな強大な国でも、未来永劫外敵に侵略されないというのはあり得ない事だ」

「うん、そうだね」

「帝国が建国された頃にその対策として、皇帝の遺体を偶像化して各地に配置する事を決めた。文言は移り変わったが、信仰を捧げていれば苦難の時に復活して民を救う、という言い伝えをセットで配置した」

「あー……」

何となく分かった。

村人時代の感覚が、それがどうなるのかを教えてくれた。

「どんな侵略者が来ても、そういう復活伝承があれば、民は最後までそこに希望を持ってくれるよね」

「そういうことだ。そうなると侵略者は陵墓にも兵力を割かなくてはならなくなる。100年200年たっても姿が変わらない皇帝の遺体を引きずり出して、民の見える形で破壊しなくてはいけない」

「偉い人の陵墓ってちょっとした要塞だから、大変だね」

「うむ。死人とあらかじめ作っておいた仕掛けが、後の世の敵兵を拘束する手立てになる。いわば戦力の貯金という訳だな」

「すごいね、それ」

「ねっ、昇天の事は伝わってる?」

それまで黙ってイシュタルの説明を聞いていたオノドリムが会話に合流してきた。

「昇天?」

「うん! その反応って事は伝わってないんだね」

「……うむ、皆目見当もつかん」

イシュタルがそういい、オノドリムは胸を張って得意げな顔をした。

「ふふん、そっかそっか」

「どういう事なのオノドリム?」

「あたし、それに関わってたんだ。腐らない遺体作りに協力してくれって、最初の頃の皇帝が」

「そっか、オノドリムは帝国の守護精霊だったもんね」

「そっ!」

オノドリムは満面の笑みでそういい、ウインクまでしてくれた。

「で、あたしの協力で一つ仕掛けをしておいたの。製作の工程にさりげなく混ぜといてるから、子孫たちはしらないままそれを続けてるんじゃなかな」

「何をしたの?」

「うん。ねえマテオ、マテオはそういう遺体を侵略者が壊す時どうするって思う?」

「それは……たぶんというか、間違いなく燃やすんじゃないかな」

「うん、あの時もみんなそういってた」

「まあそうなるだろうな」

イシュタルも俺の推測を肯定してくれた。

「だからね、マテリアルコーティングした遺体が燃やされると、その姿がなんか昇天していくような、そういう見た目になるような仕掛けをいれといたの」

「そうか、それで神格化するわけだな」

「うん」

「偶像の神格化、二段構えということか」

イシュタルは素直に感心していた。

俺も感心した。

かつての皇帝の協力者と、今の皇帝がする答え合わせ。

世界の隠された一つの真実をしって、ちょっとだけ興奮してきたのだった。