作品タイトル不明
128.「全部」をいみするもの
部屋の中、俺とローラとブルーゴブリンの子。
ローラが急遽用意し、持ってきた子供服をブルーゴブリンの子に着せた。
それは赤ん坊が着るようなもこもことした服で、着せられているブルーゴブリンの子は「???」と状況が分からないような顔できょとんとしていたが。
「か……」
「か?」
「かわいい……」
子供服を着せたブルーゴブリンの子、その愛らしさに、服を持ってきた当の本人が目をきらきらさせていた。
「あっ、す、すみません。つい」
「ううん。ローラさん、子供好きなの?」
「はい……実は、その……兄と姉の子供をいつも猫かわいがりしてて……いい加減にしろっていつも怒られるんです」
「そうなんだ」
なんだか目に浮かぶようだった。
子供はいないが、親戚や友人の子供をめちゃくちゃ可愛がる人は珍しくない。
ローラがそういうタイプだったみたいだ。
「じゃあ……もっとこの子の服用意したいんだけど、お願いしてもいいかな」
「――っ! はい!」
「えっと、たぶんヤンチャな子だから」
俺はブルーゴブリンの子が火を噴いたりしてた光景を思い出しながら、いった。
「可愛いのもいいけど、乱暴に着回しても大丈夫なのがいいのかもね」
「あ、あの」
「うん?」
「数を多く用意することではダメでしょうか」
「数を多く……」
俺は少し考えて、ローラの言いたいことを理解した。
「破けても新しいのに替えればいいや、って事」
「はい。その、そっちの方が、可愛くできますので」
「あはは、うん、いいよ。じゃあ丈夫さとか一切無視して、数をたくさん用意して」
「分かりました!!」
ローラはそう言い、目を思いっきり輝かせながら部屋から飛び出していった。
このあたり、俺の感覚がいまいち貴族になりきれていない気がする。
貴族はいちいち服に丈夫さを求めない、ダメになったらさっさと新しいのにかえるだけ。
同じ服を二度着ないなんて貴族も決して珍しくない。
貴族ではないが、貴族の屋敷に仕えているメイド長のローラは、転生者で元村人の俺よりもその辺の感覚ができあがっている。
なんにせよ、ローラに任せておけば服は大丈夫だろうと思った。
俺はもう一度ブルーゴブリンの子に目を向けた。
「いつまでも『ブルーゴブリンの子』って訳にもいかないよな」
ブルーゴブリンの子は可愛らしい子供服を着て、床に座ったままきょとんとおれを見あげている。
ぬいぐるみのよう愛らしい顔は、ゴブリンでありながら人間の赤ん坊のように可愛いかった。
そんな子が服を着るようになった以上、ますます名前がないことの不自然さが浮き彫りになった。
どんな名前をつけようか――と思ったその時。
「マテオ!」
ドアが乱暴に開け放たれた。
目を向けると、少し前に部屋から飛び出したイシュタルの姿がみえた。
イシュタルは肩で息をしながら部屋に入ってきた。
「えっと……お帰り?」
「待たせたなマテオ!」
「何か持ってきたの?」
既に爺さんがそれをやっているから、イシュタルはいつものように爺さんと張り合っているんだろうなというが想像出来た。
だからそれを聞くと。
「ああ!」
おれの前までやってきたイシュタルが瞳を輝かせたまま懐から何かを取り出した。
取り出されたものをよく見てみると、それは黄金色をした羽だった。
はねペンにも使われるような形のザ・羽だったが、完全に黄金で出来ているのか綺麗な黄金色だった。
「これは?」
何かのアイテムだろうとおもい、その正体を聞いたつもりだったが、イシュタルは違うことを答えた。
「ふふっ、ロックウェル卿がやったことは報告を受けている」
「おじい様の?」
「そうだ。なんでもかんでも、いつも最速であればいいというわけではない。こうして先にやらせた後に同じ方向性でよりよいものを用意することも勝利への道筋だ」
「えっと……」
少し考えて、理解した。
同じタイミングで飛びだしていったイシュタルと爺さん。
同じことをしにいったのだと思ったけど、イシュタルは飛び出したあと誰かに爺さんの動向を探らせたんだろう。
そして爺さんがやったことをみて、その上位互換? となる物を持ってきた
「あはは、すごいねイシュタル」
「無論だ、負けられない戦いはある、これくらいの事はせねばな」
「負けられない戦いって、大げさだなあ」
「それよりもマテオ、これをそのブルーゴブリンの子に食わせてみるがいい」
「食べれるのかな」
「うむ! いや、マテオのオーバードライブに耐えられる代物なのは間違いない。あとはその子が偏食でなければなにも問題はない」
「そっか」
なるほど、と俺は頷いた。
オーバードライブに確実に耐えうる代物。
イシュタルはこれまでも、なんかいも俺のオーバードライブのために色々持ってきた。
オーバードライブ出来るものなのかどうかは経験上判断がつく、という訳か。
俺は黄金の羽を受け取って、魔力をそそぐ。
完全に溶かしきるだけじゃなく、半溶けになるようにゆっくりと魔力を調整していく。
やがて、黄金色の羽が徐々に半透明になっていき、輝きを保ったままの――。
「黄金の羽というか、光の羽だね、これ」
「うむ! さすがマテオだ!」
手の中にある黄金の羽は光の羽になった。
まるで透明のガラスのような、それでいてそのガラスが自ら発光するかのような。
そんな、「光の羽」。
それをブルーゴブリンの子に差しだしてみた。
「どう? たべれそう?」
ブルーゴブリンの子はすこしそれをじっと見つめてから、両手を出してまず俺の手をつかんでから、光の羽に口をつけた。
「おおっ! 食べたぞマテオ!」
「うん。たべたね」
ブルーゴブリンの子はそれを食べた。
光の羽は一分もしないうちに、完全にブルーゴブリンの子の腹の中に消えていった。
「これでどんなちからがついたのだろうか」
「えっと……じゃあ、はい」
俺は二本指で――時間をかけて教え込んだ合図ををブルーゴブリンの子におくった。
ブルーゴブリンの子は俺がさした先、テーブルの上にある丸太へむいた。
炎をはくのをしつけるために持ってこさせたただの丸太。
ブルーゴブリンの子はそれにむかって手をふった。
すると――「見えない何か」がとんでいって、丸太に深い切り傷がついた。
まるで鉄の斧でおもいっきり叩きつけたような、深いくぼみの切り傷。
「これは……」
「かまいたち……風かな」
「おお、炎ではなく風か!」
「ただの風じゃなくて、物を切り裂くことが出来るすごい風だ。すごいよイシュタル」
「ふふん! そうだろうそうだろう。余の戦術勝ちというわけだ、ロックウェル卿の悔しがる顔が見れるぞお」
「あはは」
俺は笑った。
イシュタルが勝ち誇ってと爺さんが悔しがる。
そんな、二人の仲いい姿がすぐに想像出来て楽しかった。
一方で、ブルーゴブリンの子をみる。
ブルーゴブリンの子はじっと俺をみつめた。俺は頭をなでてやった。
合図にそって風をはなったご褒美に、頭を撫でてやった。
ブルーゴブリンの子は嬉しそうに目をほそめた。
「やっぱり名前がないとね」
「名前? そういえばつけてないのだったな」
「うん、心の中でブルーゴブリンの子って呼んでるけど、そろそろつけなきゃっっておもってたところなんだ」
「なにかいい案はあるのか?」
イシュタルはド直球に聞いてきた。
彼女の「イシュタル」という名前も俺がつけたもので、同じく名付けに興味津々って顔をしている。
「うん――オフィーリア、かな」
「オフィーリア……聞いた事が無いが、何か由来があるのか?」
「とある地方――」
俺が村人だった時代にいた地方だ。
「――の土地神。何を司っているのか、どんな御利益があるのか、ときかれるけどその地方の人は『全部』って答えてるんだ」
「ふむ、土着の信仰らしいおおらかさだ」
イシュタルはオフィーリアという名前はきいたことなかったけど、その仕組みは理解できたみたいだ。
「この子は食べた物で力をつける。なんでも、全部、そういうのを込めて――オフィーリア」
そう言って、俺はブルーゴブリンの子を再び撫でながら。
「いいかな、オフィーリア」
ブルーゴブリンの子はきょとんとして、俺を見あげてくる。
名付けとか理解できてないようだし、とりあえずはオフィーリアということにしようと、俺はおもったのだった。