作品タイトル不明
127.お尻はだめ
「こうしてはいられない! もっと何かがあるはずじゃ!」
爺さんはそういって、部屋から飛び出していった。
それにびっくりしたのか反応したのか、ブルーゴブリンの子がまた炎をはきだした。
部屋の中で拡散して消える炎をみて、俺はちょっと苦笑いした。
「おじい様……すごく意気込んでる」
「大旦那様はかねてより色々収集しておられたそうです」
「やっぱりそうなの?」
爺さんの行動を説明する様にいってきたローラにききかえした。
「はい。ですので探しに行ったと言うよりは、選びに行ったのだと思われます」
「そっか……すごい宝物もいいけど、ローラさん」
「はい、なんでしょうか」
「まずはこの子に着せる服がほしいな。赤ちゃんの服、この屋敷にある?」
「もうしわけございません」
ローラは言葉通り、もうしわけなさそうな顔で頭を下げた。
「ううん、やっぱりそうなんだね。哺乳瓶と同じことだもんね」
「本当に申し訳ございません」
「じゃああらためて用意して、みたとおり人間の赤ちゃんの服でいけそうだから、お願い」
「かしこまりました」
ローラはそういって、部屋から出て行った。
ブルーゴブリンの子はたまごから孵った直後のままの、文字通りの「生まれたままの姿」でいる。
人間じゃなくて、愛らしいフォルムもあってぬいぐるみっぽさはあるけど、炎を吹くようになってから一気に動きが増えたので、さすがにちゃんと着せた方がいいと思っての命令だ。
爺さんもローラも出て行ったあと、部屋の中には俺とブルーゴブリンの子、そしてノワールの三人になった。
そんな中、ブルーゴブリンの子が更に炎を吹いた。
それがソファーに燃え移ったせいで、俺は慌てて水をぶっかけてひをけした。
「こらっ! ダメじゃないか」
さすがにこれは、と思ってちょっと強めに叱ってみた。
俺に――親と思ってる相手に叱られたからか、ブルーゴブリンの子は言葉を発せないが、その分わかりやすくシュンとうなだれてしまった。
「恐れながら申し上げますと」
「なに?」
「その子は産まれた直後の、いわば真っ白な状態。今のうちにしつけをなさった方がよろしいかと」
「あ、そうだね……」
子供だと思えば、確かにやっていいことと悪い事をしつけるのは大事な事だ。
特に今、ブルーゴブリンの子はオーバードライブした炎の石を食べた事で炎をだせるという力を手に入れた。
その力の使い方、使う対象やタイミングはしっかりしつけないとダメだと思った。
このあたり――。
「エヴァはすぐにいう事が聞けたから初めての経験かも」
と思った。
俺は昔やっていた、畑とか牛舎とか、村の大事な財産を見回りするための番犬のしつけ方を思い出しつつ、やってみた。
丁度、ブルーゴブリンの子がおそるおそるとした感じでまた炎を吐こうとしていたので。
「だーめ」
と、優しい口調だが、しっかりとした力で口を塞いだ。
ブルーゴブリンの子は一瞬きょとんとしたが、それはダメなんだと理解した様子で口を閉ざした。
分かってくれたのか――と思っていると、ブルーゴブリンの子はおもむろに手をすっぅと上げた。
指を伸ばすと、指先から炎を放った。
「わわっ! そんなのも出来るの?」
「完全に手足のように扱えるようですね。このあたりはさすがブルーゴブリンと言ったところでしょうか」
「そういうものなんだ……あっ、それもだーめ」
ブルーゴブリンの子がまた指先で炎を放とうとしたが、その指先にそっと手の平を当てて止めた。
ブルーゴブリンの子はまた、分かったように手を下ろした。
「さてつぎは何かな」
俺はそうつぶやいた。
番犬のしつけも大体こんな感じだった。
やったらだめな事を、柔らかい口調と有無を言わせない体の動きで一つずつ「つぶして」いく。それを何回か繰り返すと、犬の方でやっちゃダメな事を覚えてくれる。
今もそうで、ブルーゴブリンの子が口とか手から炎をだした、俺はそれを止めた。
これを何回も繰り返せば覚えるはずだと思った。
そうして次は? と思っていた所に、ブルーゴブリンの子はおもむろに四つん這いになって、お尻を突き出した――。
「それは一番ダメーー!」
俺は慌てて、口調までも慌ててブルーゴブリンの子を止めた。
既に炎がちょっと 漏れて(、、、) いたのでスンでの所で止めてほっとした。
「ふぅ……あぶなかったよ」
「僭越ですが、ブルーゴブリンは犬猫よりも知能が高いように見えます」
「え、あ、うん」
番犬のしつけと一言もいってないんだけど、ノワールはみただけでそれを察していたみたいだ。
「ですので、してはダメ、の他にもしていい、も同時進行で教えればよりはやく覚えるのではないかと思われます」
「なるほど」
そうかもしれない、と俺は思った。
そう思いながら、「していい」をどういう感じに決めようかと思った。
ブルーゴブリンの子をみた、まだまだ子供というか赤ん坊そのものだった。
当面は俺の「管理」にあった方がいいのかもと思った。
そう思って、やり方を頭の中でまとめた。
「じゃあね……ここに吐いて」
そういって、右手の人差し指と中指の二本をつかって、部屋の空中というか何もない空間をさした。
差す手つきは人差し指と中指の二本という、日常生活ではまず使わないであろうジェスチャーだ。
それをみて、きょとんとするブルーゴブリンの子。
俺は更に火から炎を、を表すジェスチャーを左手でした。
ブルーゴブリンの子は少し考えて、俺の二本指が差した所に向かって火を噴いた。
「うん、それ。いいこだね」
俺はそういい、ブルーゴブリンの子を褒めて、頭を撫でてやった。
ブルーゴブリンの子は嬉しそうにした。
「もう一回、出来るかな」
そういって、今度はまだ部屋の中に置かれたままのたまごの殻を二本指でさした。
ブルーゴブリンの子は少し考えて、指から炎をだした。
炎がたまごの殻をやいた。
さすがの殻で、炎上したが焦げる様子さえもないほどに頑丈だった。
たまごのからはどうもしなかったが、それは問題ではない。
俺が二本指で差した所に炎をだした――ということで。
「そうそう、いい子いい子」
と、またブルーゴブリンの子の頭をなでて、盛大に褒めてあげた。
そして三度、今度は二本指で俺自身を差した。
こういうのって、命令の優先順位をはっきりするためにやることだ。
例え相手が俺でも、「二本指でさした」のが優先される事だと教えるために、俺を差した。
「さすがでご主人様です」
それも一瞬で理解したノワールは俺を称賛した。
ノワールに褒められたことでこのやり方が正しいと思った。
――その、次の瞬間だった。
ブルーゴブリンの子が少し考えたあと、おもむろに背中を向けてきて、四つん這いになって俺にお尻をむけてきて――。
「わー、だめだめだめ!」
俺は慌ててそれを止めた。
ブルーゴブリンの子はきょとんとした、すごく困った顔をした。
本当はいいんだけど。
今まで見てきたから、ブルーゴブリンの子が出す炎くらいならそれを受けてもまったく大丈夫だったけど。
「お尻から出されるのはちょっと……」
と止めざるをえなかった。
そこで止めてしまったせいでブルーゴブリンの子はかなり困って。
結果、二本指で差す時だけ出すのと、お尻で出すのはやめて、というのを。
両方覚え込ませるのに、予想以上の時間がかかってしまうのだった。