作品タイトル不明
126.能力を受ける器
俺は水飴のようになった殻をぐにぐにした。
魔力の配分を抑えて、完全には溶かさない、かといって戻しもしない。
そんな微妙なバランスをとってのオーバードライブを続けた。
というか……オーバードライブなのか? これ。
そんな疑問を持ち始めていると、ブルーゴブリンの子が「あー、うー」と赤ん坊そのままの声をあげ、手を水飴化した殻にのばした。
「あ、うん」
そういえば元は食べさせるためだった、ということを思い出して、それをブルーゴブリンの子の口元に近づけた。
すると――パクッ。
ブルーゴブリンの子はまったくためらうことなく、俺の指ごと水飴化したたまごの殻を口に入れた。
そのままムニュムニュと、指先で感じるくらいの勢いで溶かすように舐めて、それをたべた。
「食べたね」
「おめでとうございます、さすがご主人様です」
ノワールはいつもの慇懃な調子のままいった。
その間にブルーゴブリンの子は最初の分を全部食べきったから、俺はまた、新たにたまごの欠片を手に取って、オーバードライブで水飴化させて、更に食べた。
それを三回繰り返すと、ブルーゴブリンの子は満腹になったのか、それ以上は食べようとしなかった。
そして――。
「あっ」
「ねちゃい……ました?」
ローラが不思議そうに小首を傾げて、ブルーゴブリンの子の顔をのぞきこんだ。
完璧な寝顔だった。
食べたら寝る、まるっきり人間の子供だった。
「寝てるね。ベッドとかに寝かせた方がいいのかな」
「準備いたいます」
「うん、お願い」
にこりと微笑みながら頷き、それを受け取ってローラは部屋の外に出て行った。
子供の寝床は大人のとは違うから、改めて用意しに行ったようだ。
その間、俺はブルーゴブリンの子を抱っこする。
エヴァ……に引き合わせるのはあとでいいか。
起きてない時に引き合わせてもしょうがないしな。
「それにしても……こういう食べ方なんて、オーバードライブが出来る人がいなかったらどうなってたんだろ」
「通常生まれる形では、孵化とともにたまごが食せる状態になっていたと思われます」
「通常?」
「今回の場合、ご主人様が孵化を促進しましたので」
「……あっ」
なるほど、と俺は思った。
俺が魔力をそそいで孵るのをショートカットしたから、赤ん坊自体は出てきたけど、たまごの殻が食べれる状態になってなかった、ってことか。
「通常、時間の変化はあらゆる事に対して等しく訪れますが、魔力による変化は限定的でございますので」
「たしかに」
俺ははっきりと頷いた。
最初に魔力をそそいで、ブルーゴブリンの子を孵化させた。その後また魔力をつかって、殻を食べれる状態にした。
ノワールがいう、時間はあらゆる事に対して等しく、でも魔力は対象が限定的というのに納得した。
「あっ」
腕の中でブルーゴブリンの子が起きた。
ぱちくりと、つぶらで可愛らしい目を開けて、こっちを見ている。
「もう起きたのか?」
「ブルーゴブリンはほとんど睡眠を必要せず、成体ともなればまったくと言っていいほど眠らないと言われています」
「へえ」
俺は指でブルーゴブリンの子のほっぺをツンツンとついてみた。
柔らかいほっぺを突っつかれて、ブルーゴブリンの子は嬉しそうにキャッキャと笑った。
この辺もやっぱり人間の子供とよく似ていた。
「人間の子供と似てるね」
「はい」
「って事はすぐまだお腹がすくんだろうね」
「おっしゃる通りでございます」
「だったらしばらくは殻の側かな」
俺は微笑んで、近くにあるイスに座った。
ブルーゴブリンの子がまたぐずりだしたらすぐにたまごの殻をとって水飴化できるように待機した。
「おおっ、まだここに居ったのかマテオ」
すると、爺さんが戻ってきた。
息を切らせて、俺の所に向かってきた。
「どこにいってたのおじい様」
「うむ! これを取りに行ってたのじゃ」
「これって……石。ううん、赤い……宝石?」
爺さんが取り出したものをまじまじと見つめた。
しわくちゃの手のひらにのっていたのは、真紅の色合いをした、石と宝石の中間くらいの見た目の代物だった。
俺は顔を上げて、爺さんに聞いた。
「これは?」
「炎の石じゃ」
「炎の石?」
「うむ、まわりの熱を蓄えてまとめて放出する代物じゃ。天然物ではなく人間が作ったものなのじゃ」
「へえ」
「マテオのオーバードライブに色々集めておるがこれが今の所一番希少なものじゃ」
「あっ、そうなんだ」
なるほど、と思った。
爺さんが飛び出していったのは――ついでにイシュタルが飛び出していったのは。
いつものように俺への溺愛を競うために、オーバードライブに使う何かを取りに行ったって事か。
俺はなるほどと思い、それを受け取った。
炎の石を受け取って、魔力を込めてオーバードライブした。
すると、石と宝石の中間だった見た目がみるみるうちに形が崩壊していき――。
「ばぶっ!」
「ああっ!」
思わず声がでた。
オーバードライブで溶けかかった炎の石を、起きていたブルーゴブリンの子がいきなりパクついた。
水飴化したたまごの殻と同じ状態になった瞬間にたべてしまったのだ。
「なんと!」
「だ、大丈夫なの?」
驚く俺と爺さん。それとは裏腹にブルーゴブリンの子はいたって普通に溶けかけの炎の石をたべて、それを完食した。
ーーそして。
「ばぶっ!」
「うわっ」
赤ん坊特有の笑顔で、ブルーゴブリンは俺に向かって炎をはいた。
とっさに避けたが――。
「今のを食べたから?」
と、俺は驚き、戸惑った。
そこにノワールがいつものように、慇懃かつ冷静な口調でいってきた。
「さすがご主人様」
「え?」
「ブルーゴブリンは様々な能力を受け入れられる『器』の性質を持っていると聞きます。ご主人様のオーバードライブがその後押しとなったのです」
「むむっ! そうなのか、さすがマテオじゃ!」
ノワールの説明をうけ、爺さんは大興奮し、ブルーゴブリンのよりも俺の事を称賛したのだった。