軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

115.器の人生

「そっか、君はそれができるんだったね」

その事を知っているオノドリムはニコニコ顔のまま納得していた。

そういえばヘカテーは――? と思って彼女の方をみると、ヘカテーはもう驚いていなかった。

むしろ目を輝かせていて、まるでオモチャを買ってもらう直前の少年のような目をしていた。

なんで? と疑問に思った。

「ヘカテー?」

「はい、なんでしょうか」

「えっと……ごめんね? おどろかせちゃって」

なんですぐに驚くのが収まったの? っていう質問もなんかちょっと違うって思ったから、俺はちょっとだけ遠回しに聞く事にした。

「とんでもございません。天使の御業オーバードライブ、知識としては存じ上げて降りましたが、初めて目にして驚きはしましたが、これがそのオーバードライブだとしりむしろ光栄です」

「そっか、天使の御業として言い伝えが残ってたんだっけ」

「はい。天使ではなく神ご自身が行ったのを見れて光栄です」

「そっか」

ヘカテーの返事に納得しつつ、彼女がすぐに驚きを収めた理由もわかった。

彼女は俺の事を神だと崇拝している。

「ホムンクルスが溶けた現象」に驚きはしたが、「神がオーバードライブを使う」という事はヘカテーにとっては驚きよりもむしろ興奮に繋がるのはよく分かる話だった。

「あー……なんかいるね。びみょーに」

オノドリムはさっきまでホムンクルスがあった空間に手を通したりしてみた。

俺も同じようにした。

「うん、何もないけどなにかあるね」

「そうなのですか?」

「なんていうんだろ……熱風とかそういう、分厚い空気の壁がここ二ある、って感じなんだ」

「なるほど」

ヘカテーは俺の説明に頷いた。

俺はその「熱風」の中に手を突っ込んだまま、力を調整する。

力を一気に持って行かれて、人形のホムンクルスは空気の層というレベルまで溶けてしまった。

それを再び人形の形に戻すため、オーバードライブの度合いを調整するため、力を調節した。

オーバードライブの調整は前からちょこちょこ練習してきた。

一番最初にやったのは剣で、その時はまったく刀身が見えなかった。

だけどまったく見えないのはそれはそれで問題もあって、ある程度は見えたほうがいい場面もある。そう思って、オーバードライブした刀身が半透明くらいに収まるように練習を繰り返してきた。

それと同じように、ホムンクルスのオーバードライブを調整した。

すると、完全に透明だったのがまた人形の形に戻ってきた。

オーバードライブ状態を維持しつつ人形の形に戻ってきて、ついでに――。

「君の顔じゃんこれ」

オノドリムが楽しげな口調でいった。

「オーバードライブを調整してみたんだ。見えてるけど、これで一応オーバードライブ中」

「へえこんなことも出来るんだ」

「それで――」

試しに、とオーバードライブ中のホムンクルス。

俺の顔をしたホムンクルスにエクリプスの力を行使してみる。

すると、オーバードライブホムンクルスがまぶたを開けて、まるで眠りから目覚めたかのようにむくりと起き上がった。

「わお、動いた。これ君が?」

「うん」

「オーバードライブで?」

「エクリプスで」

「え? なんで――」

「オーバードライブで道具としての性能を変えれば死者を操る能力が適用されるようになった――ということでございますか?」

率直に疑問を示すオノドリムと、思案顔で目の前の状況を言葉にするヘカテー。

俺はそんなヘカテーに頷いた。

「うん、そういうこと」

「さすが神でございます」

「理屈は……どっちなんだろうね。オーバードライブしたから『僕の道具』になったのか、こういう見た目だから『ちゃんとした死体』にみれるようになったのか」

オーバードライブホムンクルスは動いているが、どっちの理屈で動いているのか実はよく分かっていない。

「だったらもって帰ってゆっくり調べればいいじゃん」

「それもそうですね」

「このままもちかえっちゃっていいのかな」

「え? なんで。遺跡で発掘した伝説の武器とかとおなじじゃん」

「……道具、だもんね」

俺がいうと、オノドリムは「そういうこと」とウインクをして見せた。

オーバードライブで自分の顔にして、それで動いて「死体」ってイメージがついちゃったけど、元々は「人形」で「道具」だったホムンクルス。

オノドリムのいうように、発掘された古代の道具と同じ類のものだ。

ひとまずオーバードライブをといて、水の力もといた。

ぽっかりと空いた空間のようになっていた湖底に水がなだれこんで、波が立っているが普通の湖の光景にもどった。

「屋敷にもどるね。二人ともつかまって」

「うん」

「はい!」

俺はオノドリム、ヘカテー、そして再びのっぺらぼうな人形にもどったホムンクルスを連れて、湖で水間ワープをつかって屋敷にもどってきた。

最近はこういう移動が当たり前の様になった。

はじめて行く場所は普通に移動して、帰りはそこから何か水を見つけて知っている場所に直接とぶ。

単純計算で移動時間が最大でも2分の1だからいろいろと便利になった。

そうして戻ってきた屋敷のリビングのなか。

俺達三人はたっていて、ホムンクルスは何となくテーブルの上にひとまず寝かせている。

「さて、これをどうしようかな」

「ご希望とあらば、わたくしどもが一度調べる事も出来ます。現物こそ存在しませんでしたが、研究資料が断片的にはのこっておりますので、もしかして再生産する事もできるかもしれません」

ヘカテーは真顔で申し出てきた。

「本当に? それは有難いかも」

「――っ、ルイザン教の総力を集結し、必ずや量産させて見せます!」

「え? そんなに意気込むほどのことじゃないよ。ダメだったらだめで――」

「いえ! 期待には必ずや応えて見せます」

「あ、うん。無理はしないでね」

俺は微苦笑して、一応、とばかりにそんな事をいった。

こういう時のヘカテー――いやヘカテーだけじゃない。

イシュタルや爺さんもそうだけど、溺愛モードにはいって俺のために何かしたいってなると何をいっても止まらない感じになる。

止められないから、無理はするな、とだけ言っておいた。

「失礼します」

ドアがノックされて、ノワールが入ってきた。

ノワールは片手に山積みのバインダーをもって、部屋に入ってきた。

なんかちょっと見覚えのある光景だぞ、と俺は微苦笑した。

「お帰りなさいませご主人様」

「ただいま。えっと……資料というか、まとまったの?」

「はい。便宜上S~Fまでランク付けし、とりあえずSとAランクを持って参りました。好みもあるでしょうから、ご希望でしたらB以下ものちほど」

「うん、わかった。えっと、ちょっとまって、あとで読むから」

「かしこまりました――おや?」

バインダーを持ったまま、優雅に一礼するノワール。

顔をあげる、俺達三人の間にあるホムンクルスに遅まきながら気づいた様子だ。

「あ、これはね――」

「懐かしいですね」

「――え? しってるのノワール」

「ええ、命のない空虚なる器」

俺達とはまったく違う言い回しだけど、その言い回しでノワールは正しくホムンクルスの事を知っているんだとわかった。

「このものの妄執でしたね」

「えっ!?」

俺は驚いた。

ホムンクルスをしっている事は驚きにあたいしなかったのだが、ノワールは持っているバインダーの一つを抜きとって差しだしてきたから驚いた。

あのバインダーはたしか、ノワールが願いを叶えた人間の人生ダイジェスト――だったはずだ。