軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

114.道具だから

リビングの中、俺とヘカテーとオノドリムの三人。

オノドリムの返事を聞いて、俺は言葉を失い、そんな俺を見てヘカテーもまた苦笑いした。

「……」

「どうしたの? そんな変な顔をして」

オノドリムがきょとんとした表情で聞いてきた。

俺は微苦笑して答えた。

「ううん、そんなにあっさりあるよ、って言われるとは思ってなかったから」

「でも土に埋めた物でしょ?」

「うん」

「だったら分かるよ。よゆーよゆー」

オノドリムは実にあっけらかんと言い放った。

「っていうか、あたしだったら知ってるかもって思ったから聞いてきたんでしょ?」

「それはそうなんだけど……ね」

俺は苦笑いしたまま、ヘカテーにみずをむけた。

ヘカテーは頷き、俺とほとんど同じようににがわらいしたまま口を開いた。

「数百年前のことですし、限定的な事象でもありますので」

「関係ないって。あたしは大地の精霊だよ、大地のことであたしに分からない事なんてないない」

「そ、そう」

「で、どうすんの? そこに行きたいって事?」

オノドリムはこっちを向いて、聞き返してきた。

「うん、お願いできる?」

「まっかせなさいって」

オノドリムは胸を叩いて、自信たっぷりにいった。

若干不安になってくる安請け合いだった。

「どうしよっかな、ここからちょっと遠いよ?」

「空から行こう。空の上でも場所はわかる?」

「余裕だよ」

「じゃあちょっと待ってね」

俺はそういい、二人をひとまず待たせて、海神ボディに乗り換えてきた。

「じゃあいこう。ヘカテー」

俺はヘカテーに向かって手を差し伸べた。

俺が差しだした手を見て、ヘカテーは戸惑った。

「えっと……?」

「つかまって。ヘカテーをかかえて飛んでいくから」

「ええっ!? そ、そんな! 神の手を煩わせるなとど」

「大丈夫、煩わしくなんておもわないから。ほら」

まごまごするヘカテーの手を取って、そのまま引き寄せ、抱きしめるようにした。

海神ボディになった分、引き寄せたヘカテーの小柄な体が腕の中にすっぽり収まる形になった。

ヘカテーは体が硬直した。

「大丈夫?」

「だ、だだ、大丈夫、です」

「そう? じゃあつかまってて」

そういって、俺は背中に白い翼を展開した。

そしてオノドリムと視線を交換し、頷き合って、外にでて大空にとびあがった。

ヘカテーを抱いて、オノドリムの誘導に従って、大空を飛んでいく。

腕の中に収まっているヘカテーは石像かってくらいかっちこちに固まっていた。

「大丈夫ヘカテー」

「だ、大丈夫です!」

「そう? もうちょっと我慢してね。オノドリム、この調子ならどれくらいでつきそう?」

「空飛んでるしこの早さだったらすぐだよ」

オノドリムが言ったとおり、空の旅はすぐに終わった。

彼女に連れてこられたのは湖の真上だった。

「ここだよ」

オノドリムは湖面に視線を向けながら、いった。

「ここって、この下?」

「うん。真下、湖底よりも更にした」

「ねえヘカテー」

「は、はい!」

「埋葬……したんだよね」

「え? あ、はい! そうです」

「湖の下に埋葬したの?」

俺は当然の疑問を呈した。

世の中で「埋葬」の形はいろいろあるが、湖のした、湖底より更に下というのはあまり聞かない話だ。

だからヘカテーに聞き返した。

ヘカテーはさっきまであたふたしていたが、湖面を一度見て、俺が不思議に思っている状況なのに彼女は逆におちついた表情にかわった。

「湖なのはしりませんでしたが、埋葬をしたものは『決して掘り起こされない場所』に埋葬したということですので」

「ああ……なるほど」

ヘカテーが逆に落ち着いて――つまり納得した理由がわかった。

何をどうやったのかはわからないけど、「決して掘り起こされない場所」なら、湖底の更に下は状況的に納得がいく。

「ですが……これでは……」

「大丈夫だと思うよ。だって――ほら」

俺はそういって、湖面に向かって手をかざした。

一周するだけで一日かかりそうなくらい広い湖だったが、海神の力で真下の水が勝手に避けて、ぽっかりと空いた不思議な空間になった。

水が避けて、湖底がはっきりと見える。

「こうしたら……オノドリムならなんとか出来そう?」

「もっちろん」

オノドリムはノリノリで手をかざし、指をパチン、とならした。

すると開いた湖底の「地面」が割れて、奥から何かがゆっくりと浮かび上がってきた。

やがてそれは完全に地上にでて、湖面よりも上に浮かび上がってきた。

俺達の目の前に現われたのは大人の男と同じくらいのサイズをした人形だった。

人形は一切の着衣をしていなくて、その上目も鼻も口も耳もない。

あるべき器官はなくて、長い間地中にあったはずなのにまったく腐ったりもしていなかった。

「これが……ホムンクルス」

「完全に人形だね。顔のパーツがまったくないや。それにまったく原形を保ってる」

「よくわかんないけど、これ土に還らないやつだね」

「そうなのオノドリム?」

「うん、このまま千年二千年埋まってても土に還られないんじゃないかなあ」

「へえ……そうなんだ」

「おそらくですが、永遠の命のために作られた代物だからだと思います。あらゆる意味で頑丈なのだと思います」

「なるほど、うん、ヘカテーのいうとおりかもしれない」

俺とヘカテーとオノドリム、三人は掘り起こしたホムンクルスを前に、ちょっとした品評会のような事をしていた。

顔のパーツが一切なくて、明らかに人間ではない人形。永遠の命のために作られたからか、地中に数百年埋められていても一切の腐敗や損傷はない。

「これ、どうするの?」

「エクリプスの力を試してみる」

俺はそういい、意識して力を行使するために、ホムンクルスに向かって手をかざした。

そしてエクリプスから授かった、「死体を操作する」力をこうしした。

――しーん、となった。

湖の上空を冷たい風が吹き抜けていった。

「え、えっと……」

「何も起こらないね」

ヘカテーは気まずそうにしていて、オノドリムは割とストレートに状況を言葉にした。

「うごかないね」

「だめなの?」

「うん、ウンともスンとも言わない。たぶん何をどうやってもダメなんだと思う。ただの体感だけどたぶんそう」

「そっかー」

オノドリムは割と気楽な感じで残念がった。

一方で、ヘカテーはめちゃくちゃ真顔でホムンクルスを見つめた。

「死体ではないから、ということなのでしょうか」

「そういうことかもしれないね。命として生まれてきたものじゃないから死体じゃない、だからエクリプスの力の範疇外――かな」

「なんとかならないものでしょうか」

「しょうがないよ、こればかりは」

「まっ、話を聞く限り人間が作り出した道具みたいなもんだしね。実際、あたしの感覚でもこれ生き物じゃないし」

「それはわかるんだ」

「うん、土の中に埋まってるときの感覚だとね。ほら、埋蔵金とかと同じ」

「埋蔵金と?」

「うん。生き物って大体死んだ後は土に還るから、動物なのか植物なのか、そもそも生き物なのかどうかがわかるんだ」

「そっか」

俺ははっきりと頷いた。

生き物は大地にかえる、だから帰るかどうかでわかる。

大地の精霊オノドリムが言うのならその通りなんだろう。

「……」

「ヘカテー、そんなに考え込まないで。オノドリムがそういうんだから考えてもどうしようもないって思うよ」

「はい……申し訳ございません神。お役に立てずに」

「ヘカテーに責任はまったくないよ」

「はい……」

ヘカテーはひとまず頷いて見せたが、口惜しさがこれでもかってくらいでていた。

こうなってくると、逆に何とかしてうごかして、ヘカテーの落ち込みを解消してやりたいなって思ってしまう。

とはいってもなにも出来そうにない。

直にさわったらもっと力とどくのかな、とか思ったけどそんなこともないだろうなともおもう。

そう思いつつ、何となくホムンクルスの体に手を触れた――瞬間。

「むっ!?」

「神?」

「力が……吸われる」

「え?」

驚くヘカテー、眉をひそめる俺。

触れた瞬間、ホムンクルスに力が流れていくのを感じた。

そしてあっという間に、ホムンクルスの姿が消えて見えなくなった。

「こ、これは!?」

「……オーバードライブ」

驚愕するヘカテーに、俺の頭の中にオノドリムの「道具」という言葉がリフレインしたのだった。