軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

113.埋葬したものを

「ホムンクルスって……なに?」

イシュタルに聞き返した。

彼女の口から出てきたのはまったく聞いた事の無い言葉で、それがなんなのかまったく見当もつかなかった。

唯一、予想を立てられるとしたら――

「何かの動物?」

と、それをストレートに口に出して聞いてみた。

話の流れから、料理する前の魚や蝉の抜け殻という話の流れから、それが何か聞いた事の無いような動物の死体――と推測は出来た。

が――。

「少し違う。なんと言えばいいのだろうか……」

イシュタルは困った顔で考え込んだ。

であった時から女の身でありながら、性別を隠して皇帝の座についていた彼女は長年染みついた二面性をもっている。

こうして真面目な話をする時は、例え困り顔でもどこか凜々しくて息を飲むほど美しく見える。

それに見とれながら、彼女の言葉に耳をかたむけた。

「ゴーレム……は、しっているか?」

「石の人形の事?」

「そう、ゴーレムは石の人形に、魂 のようなもの(、、、、、、) を吹き込んだ存在。それと同じでホムンクルスは『肉の人形』に魂のようなものを吹き込んだ存在だ」

「そんなものがあったんだ?」

「ああ、あった」

「……あった?」

イシュタルの語気は読み違える余地がないほど、そこに強調されていた。

「大昔の研究だ。時の権力者の肝いりですすめられたもの」

「権力者の肝いり? どうして?」

「マテオは歴史も詳しかったはずだな?」

「うん、おじい様とイシュタルがくれた本をたくさん読んだ」

「であれば、時の権力者が共通して執着するものもわかるだろう?」

「……不老不死?」

そう答えると、イシュタルは小さく、しかしはっきりと頷いた。

「そう、不老不死。常にそれを求める権力者がいて、ホムンクルスはその目的のため、発想の転換から生まれたもの。生まれついた肉体での延命が不可能なら、新しい肉体を作って魂をうつせばいいのでは、と」

「そっか……」

なるほどな、と思った。

確かに発想の転換だし、そっちの方が「俺」には納得が行く話だ。

ただの村人から貴族の孫に転生して、今も二つの体に魂を行き来させる俺には良く分かるはっそうだ。

だが。

「研究は成功しなかったんだね」

イシュタルは小さく頷いた。

「だよね……、成功してたらすくなくとも皇帝、最高権力者の皇帝はそれをしてなきゃおかしいもんね」

「そうだ。記録はもはや散逸しているため詳細はわからぬが、何をどうやっても権力者の魂を写すことは出来なかったらしい。最終的に出来たのはゴーレム同様に疑似的な魂を入れた肉人形でしかなかった」

「それがホムンクルス……そっか、石の人形とちがって、人間と同じならわざわざ作る理由もないもんね」

「そういうことだ――でも、それならマテオも抵抗なくつかえるんじゃない かな(、、) 」

「うん、もしも――な想像が何個かあるけど、たぶんいけると思う」

俺はそういい、イシュタルも頷いた。

もしもな想像の内容を彼女もはっきり理解している意みたいだ。

「ただ」

「ただ?」

「これ以上詳しい事はわからないの。私もどこかで知って、出所が本なのかも分からないくらい曖昧に『どこかで』しった知識で、それ以上のことは知らないの」

「そっか。じゃあヘカテーたちに頼もう」

次の日の昼、俺に呼び出されたヘカテーと二人っきりで向き合っていた。

リビングの中、二人ッきりで向き合っている。

イシュタルは皇帝として、夜の太陽の一件を全て聞いてから、まずは一段落したと王宮に戻っていった。

そのため、イシュタルが出所の話だが、彼女はここにいなくて俺はヘカテーと二人っきりで向き合っている。

そのヘカテーに、イシュタルと話したことを、そのいきさつも含めて全て話した。

ヘカテーは敬虔な表情のまま、神とあがめる俺の言葉を真剣に最後まで聞き終えてから、静かに口を開いた。

「ホムンクルス、はい、知っています」

「どこまでしっているの?」

「皇帝陛下よりやや詳しい、程度でしかありません。しかも……」

「しかも?」

「結論から申し上げます。研究の結末まで知っています」

「……そっか」

なるほど、と俺は首を縦にふった。

ヘカテーは申し訳なさそうにいってきた。

それは事のいきさつを聞かされたからで、俺がエクリプスの力を活用するためにホムンクルスの事を知りたがっているのを今聞かされたから。

なのに、自分が持っている知識は「研究の結末」、つまりは失敗してたぶん終わったところまで知っているというのだ。

だからそんな風に申し訳なさそうな顔をした。

「申し訳ございません」

「ううん、ヘカテーは何も悪くないよ。だって昔のことだもん」

「ありがとうございます。神がお望みなら痕跡を漏らさず探し出すといいたいのですが……その」

「その?」

「記録では、最後の研究者が研究に関する資料を全て焼却し、実験体であるホムンクルスも全て埋葬したとあります」

「燃やしたんだ」

「はい……これが、また」

「うん?」

「研究資料をすべて切り裂いて、その上で火をつけてすべて灰にし、その上で豚のエサにしたとか」

「やりすぎじゃないの!?」

「すべてを鵜呑みにするというわけではありませんが、それほど念入りに消し去ろうとした、と最初に知ったときに感じました。その……」

「今度は何?」

「大聖女も、その、寿命には……」

ヘカテーは申し訳なさそうに、もじもじしながら言いよどんだ。

「そっか、ヘカテーも317歳だったもんね」

今はもう幼い少女の姿をしているのでよくわすれてしまうが、俺と出会ったときの彼女はまさしく枯れ木のような老婆だった。

そしてルイザン教という最大の宗教の最高権力者だ。

だったらやっぱり、不老不死のことをなにか考えたり探したりしたこともあったんだろうな、とおもった。

その事をヘカテーは申し訳なく思っているのが明らかだった。

神と崇める者を前にして、自分が不老不死に目が眩んだことがある、というのが恥ずかしくてしかたがないのだろう。

俺は話を逸らそうとした。

「じゃあもう手がかりは一切ないってことだね」

「おっしゃる通りでございます」

「だったらしょうがない。念入りに破棄されたんじゃね」

「おそらくですが、ホムンクルスに感情移入をしたのだとおもいます」

「感情移入?」

「はい。目にした資料をよんだのですが、行間から後悔や自責の念がにじみでるようなぶんしょうでした。資料をすべて念入りに破壊したのにもかかわらず、ホムンクルスはきちんと葬って、弔ったともあります」

「……うん」

それも分かる、と今なら思う。

ホムンクルスの話がでたのは、そもそも俺が「死体と遺体の違い」で困っている事から来ている。

死体ならエクリプスの力をつかっても気分悪くならないが、遺体では抵抗感がある。

それと同じで、それをやった人はホムンクルスに そういうの(、、、、、) を感じたんだろうな。って思った。

「どういう物か、いっかいみてみたかったんだけど、しょうがないよね」

「申し訳ございません。当然の如く、どこに埋葬したという情報は残っておりませんので」

「あはは、それはあたりまえだよ。あそこまで念入りにやって埋葬した場所を残すわけないよね」

「はい……ですので、ゴーレムと同様に土の中で朽ちぬ何かであったとしても見つけるすべはございません」

「だよね、土の中に埋葬したといっても……いっても?」

「神?」

「土の……中に……もしかして!」

もしかして、と思った。

藁をも掴む思い程度のものだった。

だけど、それは実にあっさり。

「知ってるよ」

呼び出した大地の精霊は、あっけらかんといいきったのだった。