軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111.ダブルキャスト

「えっと……じゃあ」

俺は少し考えて、ノワールにいった。

「そのリストを作ってくれる?」

「承知致しました」

「あっ、リストを作ってもらったからといって絶対に選ぶってわけじゃないからね?」

「心得ております」

ノワールは怒るでも無く、むしろよりいっそうの笑顔になって、深々と腰をおった。

「なんかものわかりがいいね」

「商売になぞらえていえば、大口の顧客の一度や二度くらいの冷やかしで怒る商人はいません」

「……僕が最後に何か一回でも選べばいい、ってこと?」

「おっしゃる通りでございます。何度も申し上げますがご主人様の魂はたぐいまれなるもの。中途半端な満足で台無しにしてしまうのは私としても不本意でございます」

「う、うん」

「心のそこから望むものを提供し、人生を最高に満足して頂く。その一点に関しては嘘偽りはないと胸をはって申し上げられます」

俺は微苦笑した。

こうもあけすけに、不利益になる事も丸裸同然に打ち明けられるとちょっと対処にとまどう。

俺は戸惑ったまま、ノワールを送り出した。

そのノワールと入れ替わりにイシュタルが部屋から入ってきた。

「あら」

部屋に入ったイシュタルは何かに気づいた様子で振り向いた。

ドアの向こう、廊下にエクリプスの姿が見える。

エクリプスは体が大きくて部屋に入って来れずに立ち往生している。

「あはは、ちょっと待ってね」

俺は手をかざして、テーブルの上にある水差しから水を取り出した。

その水をまるで一つの固まりのようにして、エクリプスの方に飛ばしていった。

飛ばした水はエクリプスの足元(足はないけど)で広がって、下から上へと岩石のような体を吸い込んだ。

水間ワープ。

水を飛ばして、その水でドアをよけて部屋の中にワープさせた。

『ごしゅじんさま』

俺の前にワープしてきたエクリプスは昨晩のように、大型犬のようにじゃれついてきた。

人間よりも一回り大きい石像のような体は圧迫感があったけど――。

「なんかなれたかも」

「なんか犬みたいなのね」

「イシュタルもそう思う?」

「ええ。宮殿で飼っている子もそんな感じだわ」

「そうなんだ」

俺はエクリプスを撫でてやった。

すると自分から体をスリスリしてくるのより、撫でてもらう方がうれしいのか、エクリプスは撫でられやすいように気持ち距離をとった。

そんなエクリプスを撫でつつ、イシュタルに話しかける。

「それより二人で何を話してたの?」

「話は出来なかったわ。ただ、同じ使徒なんだってわかっただけ」

「そうなんだ」

相づちを打つと、イシュタルは大きくうなずいた。

「だから、その子も、あなたにすごく助けられたんだろうって、それがすごく分かった」

それだけで充分、と、イシュタルは言葉の最後に付け足した。

「じゃあ死者の話はまだ知らないんだ」

「死者のはなし?」

「うん。エクリプスは夜の太陽で、夜にまつわる力があったんだ」

「ええ」

頷くイシュタル。最低限の相づちをうちつつ、「それで?」と視線で先を促してきた。

「それがどうやら、死者を操る能力だったらしいんだ」

「……どういうこと? いえ、いくつかの想像はついたけど、そのどっちなんだろう、って」

「うん。言葉で説明するよりも実際に見てもらった方がはやいかな」

俺はそういい、ハンドベルを鳴らした。

するとノワールではなく、メイドのローラが部屋に入ってきた。

俺はローラに手招きして呼び寄せて、耳打ちしてお願いをした。

ローラは深々と一礼して、俺のお願いを受け取って一旦部屋から出て行った。

メイドに何か下準備をさせるというのを理解した皇帝イシュタル。

彼女は急かさずにそのまままった。

俺も準備が出来るまで、エクリプスをそのまま撫でてやった。

五分もしないうちに、ローラ率いるメイドが数人部屋の中に入ってきた。

四人くらいで大きないけすを台車つきで運んできて、ローラは布を被せたトレイを持っている。

いけすはなみなみと水が入っている。

「お待たせしましたご主人様。これでよろしいでしょうか」

ローラはそういい、トレイを持ったまま近づいてくる。

俺は布をとっぱらった。

そこにあったのは魚だった。

食材用の魚で、まだ包丁とか入っていないけど動きもしない、死んでいる魚だ。

「いろんなのをかんがえたんだけどね」

俺はそういい、イシュタルに向かって苦笑いを浮かべた。

「いわゆる『死体』のなかだと、調理前の魚がなんとか怖いとか気持ち悪いとかにならなかったんだ」

「……ええ、そうね」

イシュタルは静かにうなずいた。

彼女は「いくつかの想像はついた」といっていた。

たぶんその中に正解があるんだろうなと思った。

だから俺の言葉にもいち早く共感出来た、と俺はおもった。

俺は魚を両手で持ち上げて、いけすの真上に持っていって――いけすの中におとした。

魚は一度沈んでから、まったく動かずに逆さまになって浮かび上がってきた。

俺は手をかざした。

エクリプスから授かった能力を魚にかけた。

すると魚は動き出した。

逆さまだったのが上下 正しく(、、、) なって、いけすの中を泳ぎだした。

「こ、これって!?」

「泳いでる……え? その魚もう締めたはずよね」

「これをご主人様が……?」

メイド達は一斉に驚いた。

食材の「死んでいる」はずの魚がいけすの中で泳ぎだしたことに驚きだした。

同時に、一部始終を目の当たりにしているからか、「俺がやったこと」だって分かっている彼女達はすぐさま驚きを感動と尊敬で上書きして、そんな顔で俺を見つめてきた。

メイド達は驚いているが、イシュタルは冷静だった。

彼女はいけすに近づき、それ越しに泳いでいる魚をみた。

「瞳が濁ったままね」

「うん、だって死体だから」

「あくまで死体として動かせる、ということなのね」

「そういうこと。いろいろ考えたけど、身近にあるいわゆる死体で、魚がいちばん気分悪くならないかなって」

「私もそうおもうわ」

イシュタルは俺の意見に同意してくれた。

「これ……どこまで操れるの?」

「まだわからないんだ、実は。死体を操るって言われても、そんな気軽に試せるものでもないからね」

「用意させましょうか?」

「用意? 死体を?」

「ええ――まったくおかしな話でもないのよ? 死刑が執行された後の死体とか、よほどの貴顕でもない限りは医師などに下げ渡すのが一般的よ」

「……研究に使われるんだ?」

「ええ」

「そっか……」

なるほど、と、俺は頷いた。

そういう考え方をすれば、確かに死体を使っての研究はおかしい話ではなくなる。

そして皇帝であるイシュタルなら そういうの(、、、、、) いくらでも用意できるだろう。

そんなイシュタルはまっすぐ俺を見つめてきた。熱烈な視線だ。

俺はあのバインダーの山を思い出した。

一言「うん」っていうだけで死体が山ほど持ってこられそうな、それくらいの熱量だった。

「えっと、うん。必要になったときはお願いしようかな」

「今は良いの?」

イシュタルはちょっと残念がった様子で聞いてくる。

「まずは心あたりがあるからね、基礎の練習というか」

「基礎?」

「うん」

俺はそういい、見せた方が早いだろうと、そう思って水間ワープをつかって、海神ボディを召喚した。

「これは……海神の……」

「えっとね……ちょっとまって」

俺は意識して、頭のなかで考えていた事を更にはっきりとイメージしてから、力をこうしした。

「「こんな感じでね」」

と、マテオと海神、両方で同じ言葉をしゃべった。

声は喉から出るもの、肉体の操作ができるのなら魂が入っていなくてもしゃべれるはず――。

その考えは当っていて、成功した。

「ど、どういうこと!?」

さっきから驚きっぱなしのメイド達につづいて、イシュタルも目の前の光景におどろいたのだった。