軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

110.貢ぎ物リスト

「……」

俺はどう反応していいのか困ってしまった。

ノワールと目があう。

今の反応、自分から「何か思い当たる節がある」と認めてるも同然の反応だ。

普通の人間でもわかりそうなのに、ましてや目の前にいるのは超有能な悪魔だ。

下手をすると思い当たる節どころか、何から何まで見透かされている可能性がある。

まずい、なにかいってごまかさないと――と思っていたが。

ノワールは深々と腰を折って、慇懃な態度を崩さないまま、いった。

「ご安心を」

「え?」

「ご主人様の不利益になるような事は決して致しません」

「……そうなの?」

「はい。私は悪魔です」

顔を上げたノワールは、まるで子供のような、裏のない無邪気な笑顔をしていた。

「いい魂を手に入れる鉄則、それは相手の心からの望みを叶えること。ですので、不利益に繋がるような事は決して致しません。ご安心を」

「えっと……うん」

俺は困って、とりあえずって感じで頷いた。

ノワールの言い分には説得力があった。

あくまで自分の都合だが、その都合は相手にとっての利益になる。

一番秘密にしなければならないはずの事を開陳した上でのその言い分は説得力を感じてしまう。

「じゃあ、なにも気づかなかったことにして?」

「かしこまりました」

このやり取りも本当は余計だけど、ここはどうすれば一番良かったのか分からなくなって、ついつい余計な事を言ってしまった。

そうこうしているうちに、イシュタルが部屋の中に入ってきた。

ノワールが腰をおって部屋の隅っこにどいてくれた。

イシュタルも使徒で、ノワールの正体を見破っている。

事情も知っているから、一瞥するだけで放置して、まっすぐ俺の所に向かってきた。

「驚いたわ、まさかあんな事になってたなんて」

イシュタルは言葉とおり、驚きと感動がない交ぜになったような表情をした。

直前までエクリプスと向き合っていて、その感想がこれだ。

「僕も驚いてる。まさか夜の太陽がやってきて、その上こんな事になるなんて」

「夜の、というけどまったく太陽らしくなかったわ。顔だし、どちらかというと石像」

「あっ、うん。使徒になる前は大きくて丸い岩だったんだ。それこそ隕石みたいな」

「ああ……そういえば」

イシュタルは頷き、自分の体に視線を落として、納得したような表情を浮かべた。

彼女もそうだったからだ。

今のイシュタルは女の肉体だが、使徒化したことによって、海水と真水をかぶることで、男と女の姿を変える事ができる。

性別を、肉体そのもので変えてしまう。

いわば究極の変装というわけだ。

女から男に変わる事を考えれば、岩の球体から顔の石像に変わる事など大した変化ではないという事になるんだろう。

「イシュタルならわかるけど、エクリプスにとって、悩みは解決されたってかんじなんだよね」

「うん、わかる」

「だから昼夜の問題は解決したって思って大丈夫。エクリプスにも聞いたけど、少なくとも本人は大丈夫だといってた」

「そう……すごいわ、この感謝の気持ちをどう言葉にすればいいのか」

「ううん、気にしないで。解決出来て良かった」

「そう……あっ、こ、これは感謝とはちがうのだけどね」

「うん?」

いきなりなぜか慌てだしたイシュタル。

そして言い訳というか予防線を張ったというか。

そうしてから、部屋の外に聞こえるように手をたたいた。

するとドアが開き、屋敷のものではない、イシュタルが連れてきたらしき使用人が入ってきた。

使用人は10人ほど。

全員が二つ折りのバインダーの様なものを積み上げたものをかかえて部屋に入ってきた。

その二つ折りのバインダーの山をテーブルの上に置いて、イシュタルに頭を下げてから部屋から出て行った。

全員が出ていった後、俺はイシュタルに聞いた。

「これって?」

「か、勘違いしないでね。これは皇帝に送られてきた献上品のリストなの」

「献上品のリスト?」

「そうよ! 皇帝なんだから、何もしなくても国内外から献上品とか、貢ぎ物が送られてくるの」

「あー……」

なるほど、と俺は納得した。

「しょ、正直こういう 物(、) は何でももってるし、今更もらって嬉しい 物(、) はもうなにもないのっ。だから――そう、お裾分け」

「うん」

「欲しいものがあったら持ってって、何でもいいわよ」

「そっか……おじい様もたまにあったなあ、こういうの」

イシュタルは何故か必死に言い訳めいた口調になっていたけど、俺は普通に納得していた。

俺が言ったように、爺さんもよくこういうのをもってくるからだ。

公爵である爺さんのところには定期的にいろんな贈り物が届けられる。

爺さんはそういうのがたまると俺の所に持ってきて、欲しい物はないかと言ってくる。

公爵でさえあんなんだから、帝国の皇帝なら贈り物だけじゃなくて、イシュタル本人がいうように「貢ぎ物」という形もあるから、もっとすごいんだろうなと普通になっとくした。

実際――と、俺はバインダーの一つを手に取って、二つ折りなのを開いて中をみた。

初っ端から「純金の鳳凰像」というめちゃくちゃ高そうな物の名前が見えて――

「さすが皇帝陛下だね」

「ま、まあね。別にもう嬉しくもなんともないけど」

「あはは、そうなっちゃうよね」

いくらすごくても、これだけの量をたぶん定期的にあっちこっちから送られてくるんだから、そりゃあ嬉しさも薄れてしまうよなと思った。

いくつか手に取って、パラパラめくる。

大半は高価そうな金銀財宝で、俺もそんなに興味はわかなかったが。

「あっ」

「なにか気に入った物があったの?」

「うん、古代遺跡から発掘した書物だって。これ、どういうのか気になるな」

「やっぱり本なのね。わかったわ、いま持ってこさせる」

「いま!?」

「ええ。さすがに屋敷まで持ってくると邪魔さから、荷馬車の隊列は全部街の外でまたせてるの」

「そ、そうなんだ……」

ちょっとだけ苦笑いした。

だけどそれも皇帝らしいなと思った。

俺が気に入ったのをしってから届けさせるのではなく、近くまで全部もってきて、気に入ったのがあれば「取り出す」感じなんだろうな。

うん、さすが皇帝陛下だ、と思った。

「ちょっと行ってくるわ。あなたが指定した物だから、変なミスがあってはいけないわ」

「うん、えっと、ありがとう」

俺が礼を言うと、イシュタルは微かに頬を染めて、その本を受け取りに行くために部屋からでていった。

「あっ……他に本があったら、まいっか」

その間に他のリストも一通り目を通して、次でまとめてとってもらえるようにまとめておこうと思った。

「なるほど、その手がありましたか」

「え? どういう事なのノワール」

イシュタルがいる間は、本当に執事のように壁際にひかえて一言も発さずにいたノワールだけど、得心顔になってそんな事をいいだした。

「私もリストを用意するべきでしたと、己が不明を恥じていた次第です」

「リスト?」

「ええ、今までの実績と申しましょうか。こういった夢を叶えてきた、というリストです。私も、一度叶えたものなら自信をもって再現できると、それでオススメできるのです」

「えっと……ああ」

少し考えて、ハッとした。

悪魔は相手の心からの望みを叶える、それを叶える代わりに、死後の魂をもらうという話を聞いた。

その叶えた望みを「人生」といってるんだ。

こわいしそれを希望するするつもりはまったくないけど。

「そんなリストにするほどたくさん叶えてきたの?」

「ええ、ある種の食事と申し上げました」

「うん、いってたね。そっか、食事だと数も当然増えていくよね」

「ご明察でございます。リストは急ぎ作りますが、さしあたっては――」

ノワールはドアの方をみた。

イシュタルが出て行ったドアにちらっと視線を向けて。

「美女がお好みであれば、12000人のハーレムを築いて、かつ全員から好かれていた人生、などはいかがでしょうか」

「そんなすごい人生があったの……?」

俺は思わず舌を巻いた。

してもらうつもりはやっぱりないけど、人生もすごいしそれを叶えさせたノワールもすごいなと、心から思ったのだった。