軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

100.使徒エクリプス

「使徒にしたら話せるようになるの?」

オノドリムが小首を傾げた。

彼女は大地の精霊、土地のことはよく知っているが、そうではない事に関しては全知全能とは行かない。

神と「尊き青き血の使徒」のことはよく知らないようだ。

「話せるってわけじゃないけど、頭の中にあることは伝わるんだ」

「頭の中にあること?」

「うん。例えばメーティスだとその日読んだ本の内容が全部ぼくに伝わるんだ。それでね、ただ伝えてくるだけじゃないんだ」

「何かあるの?」

「その日読んだものの中でより伝えたい知識はこれだ! っていうのも一緒に来るんだ。僕に教えたいこととか、共有したいこととかを、って感じだね」

「ああ! うん、人間ってそういう所あるよね。新しく知ったことを他の人に自慢したいみたいな」

「そうだね」

人間は、っていうオノドリムのいい方にちょっとクスッときた。

このあたり、彼女はやはり人ならざる者なんだ、という意識が垣間見えてちょっと面白い。

「そういうのがあるから、使徒にしたら意思の疎通も出来るんじゃ無いかって思ったんだ」

「いいじゃない君、面白いよそれ」

一通り説明をし終えると、俺の話を理解したオノドリムはノリノリな感じで言ってきた。

面白い、っていって後押ししてくれるのは有難い感じがした。

「でも使徒にするって……どうするの? 人間じゃない相手でも大丈夫?」

「人間じゃないってだけなら、エヴァも人間じゃないからね」

「あっ、レッドドラゴンか」

「うん」

俺ははっきりと頷いた。

第二使徒エヴァンジェリン、卵から孵った直後初めて見たのが俺だったから、俺の事を「パパ」とか「偉大なる父マテオ」とか、その時の姿に応じて呼び方は違うけど、父親として慕ってくれている女の子だ。

その子は人間ではなく、レッドドラゴンという種族だ。

そういう前例がある以上、人間かどうかというのは問題じゃない。

「そかそか。じゃあいけそうだね」

「うん! じゃあ準備してくれるから、ここを少しの間任せてもいいかな」

「オッケー、行ってらっしゃい」

オノドリムはノリノリで頷いて、俺を送り出してくれた。

俺は水間ワープを使って、海神ボディの所に行って、ボディチェンジをしてきた。

使徒にするのは神の力、海神のボディじゃないといけない。

だから体を「とりにいった」。

海神ボディになって再び戻ってくると、ニュクスが既に起きていた。

「お帰り、早かったね」

「うん、海神ボディにするだけだから」

「そかそか」

「えっと……僕のこと、分かる?」

俺は改めてニュクスと向き合って聞いた。

体を変えてきたから、もしかしたら分からないかも知れない。

そうなればまずは説明から――と思ったけど。

「はいだって」

オノドリムが笑いながら言った。

目を覚ましたニュクスが俺の問いかけに応じて、少し体を膨らませた「はい」という返事をした。

「よかった。えっと、じゃあ説明するね」

俺は宣言とおり、ニュクスに説明をした。

海神ボディの神の力をつかって、使徒化に挑戦する。

使徒にすればもっと気軽に会話ができるかも知れない、と伝えた。

「もちろんいやならいいんだ。その時は別の方法を考えるから、無理しないで気持ちを聞かせて?」

『なる』

今度ははい/いいえじゃなくて、体の一部を変形させた短い 文章(ことば) で返事をしてきた。

「ほんとうに?」

念押しで聞くと、今度は「はい」って答えた。

「じゃあ、試してみるね。先にいっておくけど、途中で調子が悪くなったとか有ったらすぐにいって」

『だいじょうぶ』

「うん、でも言って。方法はこれ一つって事はないし、無理はさせたくないから――わわっ!」

言い終えないうちに、ニュクスが再び俺に飛びかかってきた。

俺を押し倒して、俺の上で「コロコロ」する。

本当に人なつっこい大型犬だな、と、海神ボディになった分余裕をもってコロコロを受け止めてあげられた。

「はいはーい、その辺で。嬉しい気持ちはわかるけど、会話出来る様にしてもらった後の方がちゃんと伝わるでしょ」

オノドリムがいうと、ニュクスは名残惜しそうにしながらも俺の上から退いてくれた。

俺は起き上がって、ニュクスの「体」をポンポンと撫でてやった。

「じゃあ、やろうか」

『はい』

俺は頷き帰り、ニュクスを見つめた。

見つめながら、意識を集中。そして海神の力を一点に、意識の方に集中する。

別段、何かをするわけではない。

今までの使徒達と同じ。

神として――父として。

相手に最も相応しいと思う名前を、心を込めてつける事。

「君にエクリプスって名付けよう」

「エクリプス?」

横からオノドリムが聞いてきた。

俺は頷き、名前の意味を説明する。

「エクリプスは日蝕を意味する、転じて力を失った物に使われる」

『……』

「ねえ、それって――」

唖然とする気配が伝わってくるニュクス、そして眉をひそめるオノドリム。

俺は更に続けて、本当の意図を口にする。

「でも日蝕ってね、『絶対に元に戻る』って事でもあるんだ」

『――っ!!』

「未だかつて一度もなかった、日蝕から元に戻らなかったことって。いくら弱っても絶対に元に戻る――それがエクリプスに込められたもうひとつの意味」

名前の意味を最後まで告げた瞬間、光が溢れだした。

光は夜の太陽の球体を包み込む。

光の中で、夜の太陽は形を変えていく。

「やったの?」

「うん」

俺が頷いた直後、光が収まった。

それまで完全な球体だったニュクスは姿を変えた。

サイズはほぼ同じの、石の質感をした人の顔になった。

その顔は逆さまになっていて、耳のあるあたりに六枚の羽が生えている。

逆さまで巨大な人間の顔に鳥の翼が生えている。

それがニュクス改め――使徒エクリプスの新しい姿になった。

「えっと……これって」

「素敵じゃない!」

「え?」

びっくりして、オノドリムの方を向く。

彼女が本気で「素敵」だと言っているような顔をしていて。

夜の太陽を使徒化する、という大仕事をやり遂げたのに。

俺はその姿にちょっと戸惑ったのだった。