軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

101.死者が眠らない夜

「わわっ!」

エクリプスが俺に近づき、体を押しつけてきた。

デジャブがした。

エクリプスがニュクスだった時の、あの球体だったときと同じで、全身を使って体を押しつけての愛情表現、大型犬のようなじゃれ合いをまたしてきた。

今回はちょっとこまった、見た目が変わりすぎているからだ。

サイズはほぼ同じながら、その球体がちょっと変化した巨大な岩作りのような顔。

その顔が逆さまになってて、耳のあたりから左右に鳥のような白い翼が生えている。

俺の美意識じゃちょっとキツい感じの見た目でじゃれてきた。

「まってまって」

『ろうしてまつのれす?』

「いいからちょっとまって――あっ、今の君が喋ったの?」

『はいれす』

「そっか、喋れる様になったのか。……よかったな」

俺は少し押しのけてしまったエクリプスに手を伸ばして、撫でてやった。

俺より図体が大きいからポンポンと軽く叩くようななで方になった。

『はいれす、ごしゅじんさまのおかげなのれす』

「ちなみに――オノドリム?」

「うーん、あたしには聞こえてないね」

水を向けたオノドリムは耳を突き出すような仕草をした後、首を振ってこたえた。

「ってことは、僕だけに聞こえてる、ってことになるのかな」

『ごしゅじんさまらけなのれす』

「そっか、ごめんねこんなことしかできなくて」

『ぜんぜんれす、ごしゅじんさまとおはなしれきてしあわせれす』

さっきまでとはまるでちがった。

体の一部をむりやり変化させる形ではなく、普通に言葉として、耳が聞き取れるような形での会話が出来た。

ちょっと舌足らずな感じの喋り方だが、会話にはまったく不都合はない。

「よかったな」

『はいれす』

エクリプスが嬉しそうにしてるのをみて、俺までうれしくなってくるようだった。

『ごしゅじんさま』

「うん? なんだい」

『おんがえし、させてほしいれす』

またそれかと、俺は微苦笑した。

恩返しなんてしてもらわなくてもいいんだけど、さっきよりもちゃんとした、その上で楽に会話が出来る様になったのもあって、エクリプスがよりいっそう恩返ししたくなったというのは分かる。

それはわかるんだが。

「恩返しなんて難しく考えなくていいんだよ?」

『おんがえししたいれす』

「うーん」

「ねえ、あんたの言葉は聞こえてないけど、あたしの言葉は聞こえてるよね」

『はいれす?』

「聞こえてるみたいだ」

「じゃあ一方的に喋るから聞いてて。あたしもね、彼に恩返ししようってしてたの。彼が喜ぶタイプの恩返しをおしえたげる」

「オノドリム!?」

『おしえてなのれす!』

エクリプスはオノドリムに詰め寄った。

言葉は伝わっていないようだが、この行動が百の言葉よりもの雄弁となっている。

「あたしは埋蔵金の場所をおしえたげたの。あたしは大地の精霊、大地に埋まってるものは全部分かる。それを彼に教えても、あたしにはなにも損しない」

「そうだったね」

埋蔵金のことは確かにそうだった。

埋められたあと忘れ去られた埋蔵金。

たしかにあれは、オノドリムを始め、まわりの人の「溺愛」の中で一番うけいれやすいものだった。

「あんた、夜の太陽だったんでしょ。あんたが知ってることで、あるいは持ってる力で。彼に教えるとか分けてあげるとか、そういうのをしても自分がまったく損しないものってある? あったらそういうのが彼喜ぶから」

俺は微苦笑したまま、黙り込んでしまった。

ここで俺が「そうだ」っていうのもなんか違うような気がした。

同時に、そういう話になるのなら、穏便に話が済むともおもった。

ニュクスが恩返しを言い出したときは、自分の体を切り取って黄金にした。

ああいう、自分の体を切り取っての恩返しはいやだった。

オノドリムの説得がもし上手くいって、エクリプスが損をしないやり方があるんならそれでいいと思う。

だから口を挟まないで、少しだけ傍観することにした。

「どう? 心あたりはある?」

『……うまってるものれいいの?』

「埋まってるもの? 土の中にってこと?」

『はいれす』

「それは……いいんじゃ……ない、かな?」

よく分からないから、曖昧な返事になった。

大地の精霊オノドリムなら「埋まってるもの」は大地と関連があるからわかるが、夜の太陽エクリプスで「埋まってるもの」はどういうことなんだろうと思った。

『わかったれす。…………こっちなのれす』

エクリプスはそういって、部屋から飛び出した。

あまりにも目的に夢中になりすぎたせいか、ドアはおろか窓すら使うことなく、壁を体当たりで突き破って外に飛び出した。

「あはは、心あたりがあるみたいだね」

「そうらしいね」

オノドリムには言葉は伝わっていないが、やはり行動でほぼ全て伝わったようだ。

まあ、今の流れは俺でも分かる。

俺とオノドリムは追いかけて、外に飛び出した。

顔に翼が生えた見た目のエクリプスはその翼をはためかせて空を飛んでいた。

海神ボディになった俺と精霊オノドリムは同じように飛んで後を追いかけた。

夜の空を飛んで、しばし、郊外にある開けた場所にやってきた。

エクリプスが先に着地して、俺とオノドリムは少し遅れてそのちかくに着地した。

「ここは……墓地?」

『たくさんあるれす』

「たくさんって……まさか」

一瞬、いやな想像が頭をよぎった。

なぜ一瞬なのかというと、すぐに想像とおりの現実が目の前に出現したからだ。

エクリプスが体を震わせ、翼をはためかせた直後、墓地中から次々と「這い出て」きた。

死体が――遺体が這い出てきた。

半数以上が土に還り かけて(、、、) て、人間の原型を留めてないのもあった。

『これをごしゅじんさまにおんがえしれす』

「え、えっと? ごめん、もっとわかりやすく説明して」

「あー、たぶんあれだね」

「しってるのかオノドリム」

「ほら、夜って死者達の時間だから」

「あっ……」

いわれて、はっとした。

爺さんから大量に集めてもらった本の中にちょこちょこそういうのが出てくる。

死者達――死霊やゾンビ達が動き出すのは夜だという話だ。

そして、エクリプスは「夜の太陽」。

死者を操る能力があったということだ。

『ごしゅじんさま、きにいったれす?』

「えっと……うん、すごく気に入った」

『ほんとうれすか!?』

「ああ。まずは詳しい事を知りたいな。ゆっくり話したいから、みんなはいったんもとにもどしてあげて?」

『はいれす!』

エクリプスは嬉しそうに応じた。

再び体を震わせて、なにかアクションをとるやいなや、死者達――ゾンビ達が土の中にもどっていった。

俺はほっとした。

さすがにこんなに大量のゾンビは見てて、ちょっとだけ怖かった。

「よかったねマテオ」

「へ? なにが?」

「この力で世界征服も楽々よ」

「……なんで?」

「あたし大地の精霊だからわかるんだけど――や、あたしじゃなくてもわかるんだけど」

「?」

「世界中の死体って、世界中の生き物より数多いじゃん。兵力的な意味ですごい力だよこれ」

「……ああ、うんそうだね」

俺は少し困って、曖昧に頷いた。

それは確かにオノドリムじゃなくても分かる。

分かるけど……エクリプスが損しない能力なのも分かるけど。

すごい力でオノドリムのいうとおりその気になれば世界征服とか楽勝かもしれないけど、ちょっとだけこまってしまうのだった。