軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1079話 セイレーンの悲劇(1)

「――――やっと見えてきたな」

オルテンシアとの戦いを終えてから、黒竜ガーヴィエラに乗ってレムリア海まで強行軍した甲斐はあったようだ。

遠目に見える連合艦隊はいまだ健在で、フィオナの力作である大結界『 太陽神殿結界(ヘリオスフィア) 』も赤と金の輝きを放ち続けている。ロンバルトとの勝負はまだ決していない。佳境を迎えるのは、これからのようだ。

「何とか間に合ったようで、良かったですわね」

俺の背中にギュっとしがみついているクリスが囁きかけると、距離が近いのでちょっとドキっとさせられる。

元々はクリスが騎手で、俺は後ろに乗って時間の限り休んでいた。

しかし戦闘海域にまで近づいた時に、騎手を交代し、俺がガーヴィエラで『 嵐の竜王(ドラゴン・オーバースカイ) 』を発動させてラストスパートをかけたというワケだ。

「ああ、急行するための準備もしておいて正解だった」

俺を乗せて次の戦場まで向かうのは、黒竜の中でも一番若く、実際にレーベリア会戦の後でも元気があったガーヴィエラの役としていた。だから移動のために、彼女とは『 嵐の竜王(ドラゴン・オーバースカイ) 』を発動させる訓練だけはしていた。

その分、ベルはワガママを言っていたが、機嫌を損ねてでも訓練した成果が、今正に発揮されている。

オルテンシアとの戦場からアヴァロン首都まで戻り、そこからオリジナルモノリスを通じてルーンへと転移。

そこからサンクレインの軍港から、俺達が移動するためだけに用意しておいた高速船に乗り込み、最低限の休息をしてから、再びガーヴィエラに乗ってここまで飛んできた。

戦闘開始前に到着できれば最善だったが、流石にロンバルトも動きは素早い。オルテンシアがアヴァロンに仕掛けるそのタイミングをしっかりと狙っていた。

それで翌日には艦隊決戦となったが、この一日分の猶予が、ギリギリで俺を間に合わせてくれた。

「ここまで来れば、もう十分だ。俺は艦隊と合流、クリスはプルガトリオに降りてくれ」

「了解。ですが、旗艦の方も何やら騒がしいご様子」

「六聖将が乗り込んできたらしい。悪いが、加勢してやってくれ」

「ええ、こちらの方はどうぞお任せを」

「頼んだ」

それだけ言い残し、俺は黒竜の背から飛び降りる。

『 暴君の鎧(マクシミリアン) 』のブースターを全開で吹かし、『 嵐の魔王(オーバースカイ) 』の勢いですっ飛んで行く。リリィやフィオナのように、自由自在に飛べるワケではないが、直線ならこれだけで飛行距離を稼げる。

激戦を繰り広げる艦隊は、もう目の前だ。

「こちらクロノ、これより戦艦『イオラ』に着艦する」

『了解! クロノ魔王陛下の御来訪、歓迎いたします!』

すでにここまで来れば、妖精通信も直通で届く。海上だと中継器がないので、どこでも受信できるワケではないのが難点だ。

だが一度、通じさせすれば、即座に情報のやり取りが出来る。ネルの下には俺が到着したことは伝わったし、俺の方にも現在の戦況情報が怒涛のように送信されて来ている。

俺が降りる『イオラ』はルーン海軍を象徴する戦艦だ。天空母艦プルガトリオがなければ、文句なしに連合艦隊の旗艦を務めた、ルーンが誇る最新鋭にして最大級の大戦艦である。

フィオナが開発、普及させた黒油式の魔力炉が吐き出す黒煙が立ち込める艦隊の上空に入った辺りで減速開始。スラスターを駆使して態勢を整え、着艦に向けて軌道を修正し、ここっ!

「ふぅ……デカい甲板で助かった」

ちょっと勢い付きすぎたな。空から飛び込んだ俺は、かなりの距離を滑って行き、なんとか艦首の辺りで停止。もう少しスピードに乗ってたら、制御しきれず海に落ちていた。

折角、駆け付けたのに、そんな無様は晒さずにホッとしている内に、俺の下へと駆け付けてくる人影が一つ。

「陛下、ご無事で何よりでございます」

「ああ、オルテンシアは何とかなったよ。それで、アイン、準備はいいか?」

「すでに総員、出撃準備完了です」

機甲鎧を身に纏った暗黒騎士の副官たる、最古参の 人造人間(ホムンクルス) アインだ。彼に率いさせている暗黒騎士の部隊だけは、旗艦ではなく『イオラ』に乗艦させていた。

セリス筆頭に、こちらの戦場に配置した暗黒騎士は基本的にネルと旗艦の護衛。それとチャンスがあれば敵旗艦アスガルドに乗り込むための制圧部隊としての役目もある。

しかしアインの部隊だけは、役目が異なる。海の上を走る、いわゆる普通の艦に乗せているのは、彼らの戦場も海の上になるからだ。

俺の到着があともう少しだけ遅れていれば、アインは出撃していただろう。戦況はすでに、そこまで逼迫しているのだから。

先導するアインについて行った俺は、後部甲板へと向かう。

そこには、言葉通りに出撃準備を完了させた暗黒騎士の部隊が勢揃いしていた。

その身に纏うのは漆黒の機甲鎧『黒金鬼』。

しかし背にした大型バックパックと、脚部に増設されている裾が大きく広がるような形状のフロートユニット。この追加装備によって、地上戦用の機甲鎧でも、海上を走る海戦仕様となるのだ。

魔導戦艦という大砲を積んだ船がド派手な砲戦を繰り広げる現代の海戦において、いくら機甲鎧を着ているといっても歩兵を走らせるのは無茶な戦術である。敵は戦艦だけでなく、中型小型の随伴艦も多く、半端な戦力では接近したところで良い的になるだけ。

人間サイズの相手など、小型艦が搭載する兵器だけでも対処は十分である。

だがしかし、それでも俺達が出張って戦局を打開しなければ行けないほど、連合艦隊は追い詰められつつある。

けれど、まだ勝負は決していない。本当に、急いで飛んできて良かった。この程度の窮地なら、俺が頑張ればまだひっくり返せるのだから。

『――――『 水上軌道推進器(フローティングホバー) 』 接続完了(オンライン) 』

暗黒騎士が用意してくれていた海戦用追加装備を装着すれば、『 暴君の鎧(マクシミリアン) 』は素直に接続してくれる。リリィの『ルシフェル』と合体する時は絶対一回拒否するんだけど、好みがあるのだろうか。それとも、ミリアは自分専用の装備であることを分かっているのか。

ともかく、これで俺も出撃準備完了だ。

さぁ、ここから逆転して行こう。

「暗黒水雷戦隊、出るぞ!!」

◇◇◇

ロンバルト艦隊を守る要、劇場艦『セイレーン』のブリッジは、疲れた歌姫を癒すための設備で充実している。その美しくも華麗な内装は宮殿のようであり、ラグジュアリーな空間は一時的に戦場の喧噪を忘れさせてくれる。

しかし壁面の一角にかけられた大きなヴィジョンには、激しい艦隊決戦の様子がリアルタイムで映し出されており――――ただ一人、その前に座るエミリアは、休憩中であるにも関わらず、戦場で戦う兵士が如く険しい表情を浮かべていた。

「このままじゃ、埒が明かないわね」

喉を潤すドリンクを飲み干したボトルを傍らにドンと置きながら、エミリアは膠着状態の戦況を睨みながらそう呟く。

ロンバルトを発ってから、ここに至るまでの戦いは連戦連勝。同乗していた六聖将の出番もなく、聖歌隊の力だけで圧倒的な勝利を重ねてきた。所詮、相手は反抗的な都市国家の寄せ集めといった小勢に過ぎないが、それでもエミリアの実戦訓練としては非常に有意義であった。

歌の女神が授けた絶大な加護の力。この力があれば――――と、自信をもって挑んだレムリア海戦だが、戦況はいまだ五分。

いいや、これほどの人数と設備を整えた聖歌隊と、同等規模の大結界で連合艦隊を守り切っているのが、たった一人の御子であることを思えば、エミリアも己の実力がまだまだ未熟であることを痛感させられる。

ルーンの御子が展開している、『 太陽神殿結界(ヘリオスフィア) 』は強力だ。埒が明かない、とは実際に砲撃を撃ち合っている海兵達も同じ思いであろう。

ロンバルト艦隊と連合艦隊、どちらも非常に強固な結界に守られ決定打が入らない状況が続いている。無論、それを黙って見ているようなザメクではないとエミリアも分かっているが……それだけで、自分がただこのまま歌い続けるだけで良い理由にはならない。

「陛下、結界破りに曲を変えようと思います」

『ほう、勝負に出ようというのか? だが艦隊の守りはどうするつもりだ』

聖歌隊のトップエースにして総隊長も兼ねるエミリアには、ザメクに直接上申する権利がある。

従来の聖歌隊はザメクの指揮によって歌う曲は決まっていたし、アドリブでの変更は不可能だった。指揮系統の問題ではなく、それが加護の力の限界であるため。

決められた曲目を、決められた通りに歌うのが、聖歌隊の力を発揮する確実な方法だったが――――エミリアは自分の思うがままに、曲目を変更し、様々な効果を臨機応変に切り替えることが出来た。

それは聖歌隊という、何十人もの歌姫達が一体となって奏でる合唱形式を、たった一人の歌唱力によって打ち破り、ワンマンライブに仕立て上げるも同然。

それほど隔絶した実力と加護を持つからこそ、エミリアはザメクとの直通回線は常に開かれており、必要に応じて聖歌隊が発動させる能力の選択、すなわち曲目の変更を相談することが許されていた。

「守りは前面だけになります。結界を破るまでの間は、全てを守ることはできません」

『がら空きとなった側面と背面を、見逃してくれるような相手ではなさそうだが』

聖歌隊は開幕からずっと、とにかく艦隊防御を優先し、全方位を囲う形状の結界維持に務めていた。

正しく万全の防御であり、連合艦隊に付け入る隙は与えていない。

しかし、どこか一面でも結界が開けば、そこに竜騎士団や小型艦などが急襲をかけることができるし、思い切って艦隊の一部が回り込んでくる可能性もある。

聖歌隊の守りを外すということは、その分だけ味方に犠牲強いるということでもあるのだ。

「それでも、あの結界を破れば勝負はつきます。このまま守りを固めているだけでも、先に向こうの御子が力尽きると思いますが……きっと相手もそれは分かっている。今にも逆転の一手を仕掛けてくるかもしれない」

『だから先んじて結界を崩し、逆転の目も早々に潰そうというワケか。確かに一理あるが、エミリアよ、それに将兵の命を賭ける価値があると、心から信じられるか?』

「私は……私のために死んで、なんて言えないわ……でも、この勝負に自分の命は賭けられる」

エミリアは将軍でも何でもない。自分の思い付きで、数多の兵士が危険に晒されるのを当然だと言い切れるほど傲慢でもない。

エミリアは歌姫だ。自分の歌に、自分の命を賭けるのみ。

『そうだ、エミリアよ、お前はそれで良い。将兵の命を預かるは王たる余の務めであり、他の誰にも負わせることは出来ぬ』

ザメクはエミリアに、作戦の戦術的価値などハナから聞いてはいない。

歌姫として、歌い切る覚悟があるかどうかを問うたに過ぎない。

『思うがままに、歌え。ミクゥーの歌は万人に届けられ、また万人が奏でられたという。女神の歌声を独占することは誰にも出来ず、誰にも止められない』

だからこそ古代において、歌の女神足りえたのだと、古い記録に伝わっている。

果たして、万人が歌を聞くのみならず、自由に歌わせることもできた、というのは如何なる状態、現象なのかは今もって不明だが、そのあらゆる者に開かれた自由な在り方こそ、ミクゥーという女神なのだ。

『曲目変更を許可する。エミリアよ、お前の歌でロンバルトに勝利をもたらして魅せよ!』

「ありがとうございます、陛下」

半ば己のワガママのような提案を、快く飲んでくれた王に、エミリアは心から感謝する。いつだって、寛容なスポンサーはありがたいものなのだ。

そしてその信頼には、必ず歌で応えてきた。

「セトリを変えるわ! みんな、急いで準備して!」

エミリアの号令によって、俄かに劇場艦は慌ただしくなる。

艦は結界干渉のために、艦隊中央から前方へと移動。その間に、ガラっと代わる 曲目(セットリスト) 変更のために、舞台演出から衣装、生演奏の楽団も配置が変ってゆく。

聖歌隊の力は、歌姫の歌唱だけでなく、舞台まで含めた総合力で決まる。エミリアの選んだ曲を最も魅力的に仕上げる準備は大急ぎで進み――――ついに聖歌隊は攻勢へと出る。

「この曲で、勝負を決めるわ」

満を持して舞台に上がったエミリアは、衣装も新たに堂々と中央へと歩みを進めて行く。

修道服のような全身を覆う白くゆったりした聖歌隊正装から、肩と腿が出る露出度の上がった衣装へと変っている。少々過激なデザインは、そのまま攻撃性を現したよう。だが聖職者のような正装よりも、カーラマーラ風の肌を見せるこの衣装の方が、エミリアには馴染む。

全てを守る大結界を維持するならば、協調性を重視して合唱の一員となるよう合わせるが、ここからはエミリア個人の天賦の才をもって歌われる。最も強く歌の女神の加護を宿した歌姫の歌唱を、敵の守りを破る鋭い切先とするのだ。

その成否は、全てエミリアの実力によって決まる。大海戦の真っ只中で、戦いの趨勢を決める決断を、自分一人が背負う重責を感じるが――――ステージに立てば、エミリアはアイドルだ。

恐れなど何もない。エミリアはただ、己の歌を声の限りに歌い上げるのみ。その旋律にこそ、女神の加護は宿る。

「天音神楽・神曲聖選――――『 炉心融解(メルト) 』」

純真な乙女の蕩けるような愛の歌が響くと、それは灼熱の熱波のように前方へと解き放たれて行った。

赤々と燃えるようなオーラとなって見えるほどの波動は、砲戦を交わす間合いを超えても衰えることなく、連合艦隊を守る結界へと到達。

その瞬間、赤字に金のラインが走る結界の表面が急激に泡立ち、術式を構成する強い魔力の結合が解除され――――まるで、溶けてゆくかのように、綻び始めた。

よし、効いている。

遠目だが目に見えて敵の結界に変化が生じたことで、エミリアは自分の歌が通用していることを確信した。

もしかすれば、こういった手段に対するカウンターが何かあるかもしれない、という懸念もあったが、どう見ても相手は『 炉心融解(メルト) 』の浸食に対抗できていなかった。

聖歌隊で『 炉心融解(メルト) 』が歌われた回数は少ない。それは広範囲の守りや強化といった、軍全体を底上げするような汎用的な効果ではなく、結界を破る能力に特化しているからだ。

特化能力であるが故に、使用される機会は限られる。まして選曲を固定化せざるを得ない過去の聖歌隊であれば尚更で、最初から相手が大結界で守られた要塞や都市に立て籠もっている場合でもなければ、この曲を選ぶことは無い。

数少ない実戦での運用実績だが、それでも効果は本物。情熱的に歌い上げる曲調は、どんなに硬い結界させも溶かし尽くすような威力を持って襲い掛かる。

熱波のように見える赤いオーラは、人や物に影響を及ぼさない半面、魔力的には強い反応を示す。一度これが放たれれば、単純に壁などで遮断することも出来ず、結界は融解効果をダイレクトに受けざるを得ない。

結界が崩壊を始めた異常は、術者たる御子も即座に気づいただろうが、

「無駄よ、何か手を打つよりも先に――――私の歌が溶かし尽くすわ!」

そう一気に勝負を決める必勝の心意気で、『 炉心融解(メルト) 』を文字通りに熱唱するエミリア。

最もミクゥーに愛された歌姫の魂が籠った熱い旋律は、早くても『 太陽神殿結界(ヘリオスフィア) 』に穴を開け始めた。

ほどなくすれば、大穴にまで広がり、そこからこちらの砲撃も飛び込んで行くだろう。

さらに時間が経てば、結界そのものの維持も不可能となる。

もう少し。あともう少しで、ロンバルトの圧倒的な勝利が決まる――――そんな思いが過った時、

ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオン……

ロンバルト艦隊の一角から、轟音と共に火の手が上がった。

当初の懸念の通り、曲を切り替えたことで結界の守りが消えた側面から、敵が攻撃を仕掛けたのだろう。しかし、その損害をザメクは織り込み済みで許可を出した。

多少の被害は受けるが、エミリアの『 炉心融解(メルト) 』は止められない。敵が捨て身の突撃を仕掛けてこようが、劇場艦『セイレーン』まで攻撃を届かせることは決して艦隊が許さない。

その上、結界の崩壊までそう時間もかからない。敵が『セイレーン』に手をかけるよりも先に、『 太陽神殿結界(ヘリオスフィア) 』が溶けて消える――――はずだった。

「何これ、早すぎる! 艦隊の中をそのまま突っ切ってきてる!?」

ステージの上で歌い続けながらも、敵の侵攻があまりにも早いことが嫌でも目に入る。屋外舞台であり、巨大な劇場艦に設置された高いステージの上からは、周囲の様子はよく見える。

つい先ほど、艦隊側面の外縁で火の手が上がったのを見たが、それからあっという間に爆音が連続的に轟き、すでに艦隊の半ばまで迫っているのが一目で分かった。

しかしロンバルト艦隊を切り裂くように突っ込んできた敵の姿は見えない。

濛々と煙る黒煙が敵の先鋒から発せられており、その中に入り混じって閃光と爆炎が垣間見えるだけ。

突き進む敵は見えないが、決して大きくはない。いや、ここまでの短時間で艦隊の中まで切り込んでくるのは、小型艦の集団でも不可能だ。

まるで飛び切り凶悪なドラゴンが単独で暴れているかのよう。

エミリアのそんな直感は、いよいよ現実のものとなる。

「間違いなく『セイレーン』を狙ってる……」

並み居るロンバルトの軍艦をものともせず、一直線に向かってくる。エミリアでなくとも、すでに誰もがその目的に気づいている。だが、分かっていても止められない。

刻一刻と近づいてくる破壊の轟音。そして、絶望的な重さを感じさせる、魔力の気配。

漆黒の闇を思わせる濃密な死の気配が、煌びやかな劇場艦の目前まで迫り来る。

「けど、ここから先は通さないわよ!」

『 炉心融解(メルト) 』は結界破りの特化能力だが、最低限の防御として結界を展開する力もある。正確には結界を使えるよう、コーラスや演奏、演出などで調整していると言うべきだが。

それだけの防御力は維持できるからこそ、ザメクも思い切ってエミリアの提案を受け入れたのだ。

今、ロンバルト艦隊を守る結界は敵の砲撃を防ぐ前面の巨大な一枚と、『セイレーン』の周囲だけを守る結界の二枚構成である。

迫り来る敵は前面を迂回して艦隊に突入し、今まさに『セイレーン』を守る結界の目前まで辿り着いている。

だが、ここまでだ。この限られた空間だけを守る結界ならば、強度はこれまでと同等。戦艦の主砲を至近距離で当てられても耐えられる。

まして相手は艦隊の深くまで切り込んでいける小勢。御大層な大砲など持ちえない。

艦隊に守られた劇場艦『セイレーン』にここまで迫ったのは凄まじい突破力だが、もうこれ以上は進ませない。

そして足が止まれば、速度と勢いが重要な小勢の突撃部隊など、あっという間に集中攻撃を受け沈められる

「歌え――――『 天使の歌声(ワイス) 』」

その美しくも背筋が凍り付くような声音が響いた瞬間、エミリアは理解した。

相手もまた、結界破りを仕掛けてきたのだと――――だがそれ以上に、どうしようもなく気づいてしまった。

魔王が来た。

かつて愛した男が、自分を殺しにやって来たのだと。