軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19.ロザリア様グッズ化計画!

「……これで満足?」

「はい! ありがとうございます!!」

どっと疲れているロザリア様と対照的に、私は元気よく答えた。

手に持っていた五枚のポストカードをかざす。そこには繊細なタッチで描かれた、美しいロザリア様の姿が並んでいた。

私の願い、それはロザリア様のグッズを手に入れることだった。

そのためロザリア様にはポージングをお願いし、絵画職人にポストカードを作ってもらったのだ。私はうっとりとしながら呟く。

「一枚は持ち歩き用にして、一枚は祭壇に飾って……」

「は? 祭壇?」

「ほっほっほ、もし無くされても印刷できるのでいつでもおっしゃってください」

「ありがとうございます!」

ヴァレンティーノ家お抱えの絵画職人は、気のよさそうな老絵師だった。

大変素晴らしい才能の持ち主で、ロザリア様の美しさや気品を完璧に表現してくれた。

さらにこの世界では、リトグリフという印刷技術が使われているらしい。平らの石に脂肪分の含んだインクで描画し、薬品を塗布する。そしてプレス機で紙に押しつけて印刷する技術らしい。

つまり──ロザリア様のポストカードがいくらでも手に入るのだ!

「はぁ……疲れたわ。少し休むわね」

「本当にありがとうございます!」

私が深々とお礼をすると、ロザリア様は部屋を出て行った。私はそのポストカードを宝物を見るようにいつまでも眺めていた。

ちなみにこのカードには、ある後日談がある。

後日、ロザリア様に頼まれ、昼ご飯を買ってルストレアの店舗へと戻ってきた。

扉の前で立ち止まり、胸元から一枚のカードを取り出す。

それは、ロザリア様の横顔が描かれたポストカードだった。紫色のアイシャドウを纏った真剣なまなざしは、威厳さえ感じられる。あぁ美しい……とため息交じりに眺めていると、聞き慣れた声が上から降ってきた。

「ソレイユ、何持ってるんだい?」

「こちらですか? 実はロザリア様のポストカードを作ってもらいまして!」

急なダミアンの声に驚きつつ応えると、「へぇ」と興味深そうに頷いた。

その瞬間、店舗の扉が勢いよく開かれた。中からロザリア様が現れ、眉を吊り上げて駆け寄ってくる。

「ソレイユ、それをしまいなさい!」

「す、すみません!」

「あの……」

すると一人の令嬢に声をかけられた。

振り返ると、そこには一人の令嬢が立っていた。ピンク色のふんわりとしたドレスを纏い、恥ずかしげに指先を遭わせている。

彼女はそっと私が持っているポストカードを指さし、遠慮がちに尋ねてくる。

「そちらはどこで買えるのですか……?」

「えっ」

「あの、私も欲しいのですが……」

また別の令嬢からも話しかけられる。

ヴァレンティーノ公爵家の令嬢、かつ圧倒的な美貌を持つロザリア様。さらに「ルストレア」という新たなブランドを立ち上げ、女性の憧れの的になっているのは肌で感じていた。だが、まさか私と同じようなファンまでできているとは思わなかった。

ロザリア様はにっこりと笑う。笑っているが、有無を言わさない笑みだった。

「こちらは商品ではありませんので」

そう言うと、令嬢たちは残念そうに去って行った。

残された私たち。ダミアンはぼそっと言う。

「こちらを商品化するのもアリかもしれませんね」

「なっ……!」

「素晴らしいアイデアです!」

ダミアンの提案に、両手を合わせて賛同する。

ロザリア様は絶句し、言葉が続いていない。ダミアンは大真面目な顔で商品展開を口にする。

「アイシャドウやパウダーの宣伝にもなりますし」

「はい!」

「真珠のアクセサリーをつけたロザリア様の絵もいいかもしれませんね」

「あ、持っています!」

胸元からポストカードを取り出す。

真珠のネックレスとイヤリングをつけたロザリア様が、こちらを向いて微笑んでいる。ダミアンは「いいですね」と頷いた。

その時、私は天才的アイデアが閃いた。

「このポストカードを袋で覆うのはいかがですか? 絵柄が分からないように販売すれば、コンプリートするまで購入する人が絶対いると思うんです!」

いわゆるブラインドグッズだ。

私は自信満々に提案したのだが、ダミアンとロザリア様は何だか引いている。

「ソレイユ、よくそんな悪魔的な発想ができるわね……」

「欲しい絵が出るまで買わせるとは……恐ろしいな」

「え? あれ?」

まさかの悪魔的発想と形容されてしまった。

二十四種類あるブラインドアクリルスタンドで、ロザリア様とダミアンを揃えるために何百個と買った私がおかしいのだろうか。

ひとまずロザリア様のポストカードの商品化は、保留に終わった。

私とロザリア様は馬車に揺られながら、ヴァレンティーノ家の屋敷へと戻っていた。

窓の外に広がる街並みを眺めながら、ロザリア様はぽつりと呟く。

「店も軌道に乗ってきたわね」

「はい! ロザリア様の素晴らしいアイデアのおかげです!」

「……私だけの力じゃないけどね」

風の音に紛れてしまいそうなほど小さな声。

私はその言葉がとても嬉しくて、だけどロザリア様は恥ずかしがり屋だから。聞こえないフリをして、にこりと微笑んだ。

馬車がゆっくりと屋敷の前に到着する。

私が先に降りて、転ばないように手を差し伸べる。ロザリア様がドレスの裾を小さく持ち上げながら、馬車を降り立つ──だが、ふいに動きが止まる。

彼女の視線が一点に注がれている。視線を追いかけると、屋敷の前に一人の女性の姿があった。

布を深くかぶっているため、最初は物乞いかと思った。しかし身に纏うワンピースは手入れが行き届いていて、佇まいの雰囲気からもそんな感じはしない。

(誰だろう……?)

すると女性がこちらを振り向き、近づいてきた。

二十代半ばだろうか。黒く艶のあるストレートヘアと、金色の瞳。顔には疲れが滲んでいるが、清楚そうな綺麗な人だ。

私はとっさにロザリア様の前に立ちはだかる。すると女性はびくりと肩をふるわせた。

「あの……ロザリア・ヴァレンティーノ様でしょうか」

「……何か御用でしょうか」

相手の問いに肯定せず問い返す。

すると彼女はスカートの裾を少し持ち上げ、頭を下げた。

「申し遅れました。私、マリエッタ・ヴィロスと申します」

そして顔を上げて、私たちをまっすぐに見据えた。

「ダミアン・サンベルクの──元妻です」