軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忘れてた

俺たちはいつも通りの方法で戦うだけだ。

姫が分身を一体作り、同行する。もちろん、分身に身代わりの腕輪を持たせて装備させるのは忘れない。

〔あれ? ユニークスキルってそう簡単に手に入るものだったっけ?〕

〔金髪、忍者、影分身、ツインテール美少女……うっ、頭が〕

〔スキルの名前が気になる。忍者だから分身の術っぽいけど、ドッペルゲンガーって可能性も〕

〔双子芸人の『ドッペルゲンガー!』をリアルでできるわけだな〕

〔アルファ・ワンとアルファ・ツーって呼べばいいのか?〕

しかし、こいつら日本の危機だというのにかなり呑気だよな。

下手に緊張感を強要されるよりは、いまのところ気の抜けたコメントの方が助かるといえば助かるが。

姫は特に質問には答えない。

「でも、日本の危機にしてはコメントが少ないんだな。もっと山ほどコメント来てるかと思ったが」

俺が呟くと、

〔ここ、プレミアム会員の先行入場者100名以外コメントできないようになってるみたい〕

〔変なコメントした奴はBANされて入れ替わってるけどな〕

〔そっか、アルファさんたちこっちの状況わからないんだ〕

〔同接数は1000万超えてる。あと、世界中のダンジョン探索の様子も同時に配信されてる〕

〔D国とE国の探索者は一階層で脱落してた。あっちは死人も出てるくらい酷い状況。アルファちゃん、ガンマちゃん、デルタちゃんが無事で本当によかった〕

俺はっ!?

しかし、他の国はとんでもないことになってるな。

バイトウルフリーダーは俺たちにとっては雑魚だけど、しっかり鍛えていないと嗅覚を使ってどこまでも追って来る強敵だからな。

レベル20くらいだったら死んでいたのは俺たちだったということか。

「この先、曲がったところに敵の気配が三つ。待ち構えている」

「了解。私が先に行くわ」

姫の分身が向かっていく。

と今度はバイトウルフリーダー三体が一斉に飛び掛かってきた。

しかし、姫の分身はそれを綺麗に躱していく。

そして姫が避けたところで――

「必中剣」

「「狙い斬り」」

俺と姫二人による攻撃でバイトウルフリーダーを仕留める。

まぁ、普段20階層で戦ってる俺たちにとって、9階層の魔物は雑魚だな。

三体は魔石に変わり、俺が落としたバイトウルフリーダーだけ、何か玉を落とした。

それを拾う。

鑑定をしようとしたら、

〔導き玉だな。火を点けると出口に向かって煙が流れていく便利アイテム〕

〔なんで狼がドロップするの?〕

〔狼煙は狼の糞が使われていたから〕

〔つまり、ベータが持ってるのはバイトウルフリーダーの糞の塊か〕

鑑定しなくても教えてくれてるが、糞の塊って。

苦笑してインベントリに入れた。

さらに魔物を倒していくが、いまのところ9階層か10階層程度の魔物しか出てきていないな。

おっと、またバイトウルフリーダーが出てきた。

今度は俺一人で倒す。

今度落ちたのは魔石だけだ。

〔導き玉落ちなかったね〕

〔導き玉:最低幸運値40、ドロップ率20%。幸運値推測100前後のベータだと50%くらいでしょ〕

と俺の幸運値を予想しているコメントが。

実際はインベントリが持っている自動収納機能を駆使して周囲から気付かれないようにしているだけで、きっちり導き玉は手に入っている。

PDにいる間、姫に言われて、アイテムごとに自動収納する、しないのON/OFF切り替え訓練した甲斐があった。

前までは自動収納をONにしていたら、全部収納していたせいで、他人に見られたら魔物を倒しているのにDコインが出ていないって変な状態になっていたもんな。

それがいまでは、魔石だけをちゃんと残している。

前回の調査で俺の幸運値は100前後だと予想されているので、初回ドロップは仕方ないにしても二回目以降は調整しないとな。

二階層に続く階段を見つけた。

調査ではないので見つけたら即階段を降りる。

出てきたのはゾンビだった。

「ゾンビか……噛まれたらゾンビになるのか?」

「私、こういうのってあまり好きじゃないのよ……」

姫が露骨に嫌な顔をする。

まぁ、こういうのが好きって女の子はいないと思うが。

結構臭いのであまり近付きたくない。

〔ゾンビじゃなくて食屍鬼――グールだ。噛まれてもゾンビにはならないが、猛毒状態になる〕

〔グールって日本だと珍しいな……〕

〔日本は火葬文化が根付いてるから、ゾンビ系の発生は難しい〕

〔SNSのインプレゾンビは湧きっぱなしなのにな〕

〔日本の危機なのにふざけてる場合じゃないと思う〕

〔それ思ってた。この戦いは遊びじゃない〕

〔場を和ますのも大事だぞ〕

「リスナーさんたち喧嘩しないでください。まぁ、この辺りはまだ余裕だけど、深い階層に行けば絡んでる余裕ないと思うから、必要な情報だけ伝えてくれると助かります」

俺がそう言って、とりあえずゾンビ――じゃなくてグールを倒そうかと思ったが、

「解放: 風連射矢(ウィンドラピッドショット) 」

アヤメの風の矢がまるでガトリング銃みたいに連続で放たれて、グールをずたずたに切り裂いた。

〔ツエーっ!! ガンマちゃんって前回も地味目なのにさらっと強力な魔法使ってたけど、さらに強くなってる〕

〔グロっ……モザイクプリーズ〕

〔ただのミンチ肉と思えば気持ち悪くないよ(´゜Д゜`)ゲロロロロロロロロ〕

〔俺、今台湾混ぜそば食べてるのに……〕

〔ふっ、俺はこの程度(´゜Д゜`)ゲロロロロロロロロ……平気だ〕

〔残酷な描写ありタグ入れておいてよ〕

〔ガンマちゃんの容赦のなさに惚れた。投げ銭したい〕

〔ガンマさん魔力大丈夫ですか? 魔力切れに気を付けてくださいね〕

〔投げ銭しても、この生配信者ダンプルだからそっちに行くだけだぞ〕

〔そうだった!?〕

うん、確かにグロい。

てか、あんなズタズタになってるのに魔石に変わらな……あ、いま魔石に変わった。

んー、グールは中々死なないな。

これって剣とかだと倒すのが面倒そうだな。

「銃で急所を狙っても効果なさそうだよね」

「ゾンビは頭を潰せば死ぬっていうのも作品によっては変わりますから」

「よくゾンビ映画で言うよな。頭を狙うな。脚を狙え! それで足止めできる!」

「わ、私ゾンビ映画とかあまり見ないからわからない。ここは三人に任せたわ」

今までは先頭を歩いていた二人の姫が、俺たちの後ろに移動する。

〔ゾンビ苦手なアルファちゃんカワイイ〕

〔グールは頑丈。体力ゼロになっても少しの間は動き続ける。死者の執念ってスキルがある〕

〔死者の執念は破邪の攻撃でトドメを差したら無効化できる〕

破邪の攻撃か。

そういえば、俺の持っている布都斯魂剣には破邪の効果があったはずだ。

それを使うか?

しかし、グールを斬ったら腐食しそうで嫌なんだよな。

と思っていたら、リスナーがアドバイスをくれた。

〔グール相手ならデルタさんの聖水で無双できるんじゃないですか?〕

その思わぬ一言に、

「あ、最近使ってないから忘れてた」

ミルクがそう言った。

そして、忘れていたのは俺たち三人も同じだった。

完全に忘れていたのではなく、咄嗟に出てこなかったって感じで。

きっと、普通のゾンビとかだったら銃で撃ったり魔法で潰した方が楽だし、魔力の消費も少ないからな。

〔本当にこいつらに任せて大丈夫か?〕

〔緊張感持って行こうぜ!〕

いや、そうは言っても、日下遊園地跡Dでの探索は俺たちにとっては体感何ヵ月も前の話だ。

ダンジョンの中でミルクの攻撃といえば銃によるものばかりで、聖水は全く出していなかった。

薬魔法も強化されていろいろな薬を出せるようになったが、魔法っていうものは、スキルを覚えるとなんとなくこんなものを使えるなってわかるだけで、ステータスを見たところでリストが見えるわけじゃないからね。

そりゃ咄嗟には出てこないよ。