軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強行脱出

「スタンピ――っ!?」

思わず叫びそうになり、周囲にクラスメートたちがいることを思い出した俺は思わず口を噤み、念話で尋ねる。

『スタンピードって魔物の大量発生ってことですよねっ!?』

『てんしばダンジョンのブロンズゴブリンみたいなものですか?』

話を聞いていたアヤメが尋ねる。

あそこは二十一階層以降が工場のようなダンジョンで、大量生産されたブロンズゴブリンに襲われる。

出現率を十倍とかに設定していたら、それこそ通路全体を埋め吐くす量のブロンズゴブリンが生み出される。

『未管理ダンジョンの魔物の出現データを記録しているのだが、他のダンジョンと違い、大きな波があることに気付いた。昨日までその波のデータを記録していたんだ。そして――』

『今日、それがピークに達するの?』

『しかも、魔物の出現率が高いほど、狂暴な魔物が生まれやすくなる』

ミルクの問いを閑さんは肯定した。

マジかよ。

もしかして、トゥーナのダンジョン行きの許可が遅くなったのも、そのスタンピードのせいか?

せめてデータが出そろうまでは行かせられない……みたいな?

そりゃ、閑さんも連日ダンジョンでデータ集めさせられるよ。

いま魔物があまりいないのも、嵐の前の静けさ――波でいうと引き潮の状態らしい。

これから大きなスタンピードが発生する兆候なのだとか。

魔物の大量発生の対処か。

俺一人だったら問題ないが、みんなを守りながら戦うのは難しいな。

姫みたいに分身ができたり、アヤメやミルクみたいな遠距離攻撃が得意ならまた違ってきたのだろうが。

遠距離攻撃ができるとすればトゥーナか。

『トゥーナ、いざとなったら魔法で援護を頼む』

『……ん、任せて』

『私も協力するよ。怖いって言ってられないもんね』

水野さんが嬉しいことを言ってくれる。

でも、鍛冶師の覚醒者は防御力が低いからあまり無茶はしないでほしい。

あと戦えるのは青木か。

青木は念話が使えないのでこっちの事情はわかっていない。

青木の奴は、なんか、スマホでクラスメート全員で記念撮影していた。

本来はダンジョンの入り口の結界で弾かれるはずのスマホも一緒に持って入れてしまったから、他にも撮影したり好き勝手してる奴らが多いな。

まぁ、電波が入らないのでSNSにアップされることはないだろうけど。

PDとか普通のダンジョンでもWi-Fiが届くのはロビーまでだもんな。

「みんな、注目! これから全員で脱出する!」

「閑ちゃん! 壱野くんが外に出て助けを求めに行った方がよくないですか?」

「いや、ここはどうもかなり田舎のダンジョンらしい。仮にちの太くんが脱出できてもそこから救助を呼んでここまで戻ってくるとなるとかなりの時間がかかってしまう。それに、ダンジョンは上の階に行けば行くほど魔物が弱くなる」

閑さんはスタンピードのことは黙って、脱出を目指す方法を言う。

「しかし、月見里さん。地上に戻る階段の場所がわかりません。このダンジョンは広いですから、せめて階段の位置だけでも戦える人間で出口への経路を調べた方がよいのでは?」

山川さんが提案する。

彼もスタンピードについて知らないのか悠長な事を言う。

「その点は俺の第六感スキルを頼りに行きますよ。どっちに進めばいいかはだいたいわかると思います」

「なるほど。わかりました」

山川さんを説得した。

クラスメートも特に反対はない。

俺が一緒だから大丈夫だと思っているのだろう。

「じゃあ、移動する。壱野くんが先頭で。トゥーナくんは右サイドを、青木くんと水野くんは左サイドを頼む。直線の通路だと問題ないが、十字路やT字路では注意を払ってくれ。壱野くんは気配探知のスキルがあるから魔物の位置はだいたいわかるが、中には気配を消す魔物もいる。私は後方から皆の後をついていく」

役所の人たちにも説明するため、あだ名ではなく本名で指示出しされた。

「左右は我々が守った方がよいのでは?」

「いえ、山川さん。申し訳ないが、レベルだけでいえば、この四人の方が高い」

「そうですよ。俺、これでもかなり強いんで!」

「私とトゥーナちゃんもレベル150以上ありますから」

「……ん、任せて」

「レベル150だってっ!? トゥーナさんと壱野くんだけではないのか。信じられん……なんという高校生たちだ」

青木が霞んで見えるが、あいつも結構強いんだよな。

槍系のスキルもばんばん持ってるらしいし。

ワルキューレの槍のお陰でかなり効率よく魔物狩りができているらしい。

もっとも、いまはワルキューレの槍がないからあまり無茶はしてほしくないけど。

そういうわけで全員で移動開始。

クラスメートたちは遠足気分だ。

みんな経験値薬でレベルを上げたおかげで、マラソン程度の速度でも全員脱落せずについてくる。

困ったことといえば休憩時のトイレの問題くらいか。

魔物が出ない小部屋を使って行われた。

ミルクが手に入れた無限に使えるポケットティッシュのおかげで紙には困らなかったが、普通に恥ずかしいもんな。

もちろん、使う部屋も男女別で行ったし、特に女子生徒が使った部屋に男子生徒が近付くことは禁止されたが。

魔物もたまに現れる程度で、全部俺が倒した。

やはり数が少ない。

スタンピードの影響だと思われる。

あまりにもとんとん拍子で進むものだから生徒たちの緊張感はさらに薄れていく。

そのせいで一つアクシデントが起きた。

「おっ! 宝箱発見!」

近藤が声を上げた。

脇道の部屋の隅に宝箱があるのを目ざとく見つけたのだ。

「見つけた俺のものだよなっ!」

その時、俺の第六感が危険を告げる。

「バカ、迂闊に近付くなっ!」

「中身はなんだろうな?」

俺の言葉が届いていないのか、近藤が宝箱の蓋に手を掛けた。

その時、宝箱の蓋がひとりでに開いた。

宝箱はミミックだったのだ。

鋭い牙を持つ箱型の魔物だ。

気配探知のスキルがあったのに見破れなかった。

気配を消すスキルを持っていたのだろう。

「あぶないっ!」

誰かが叫んだが、その時には近藤を呑み込むように上半身に噛みついていた。

「キズリカミキタくんっ!」

水野さんがパペットに指示をだしてミミックを殴らせた。

ミミックは、魔石に変わった。

そして――

「あれ? 俺、生きてる?」

近藤は無傷でいた。

「怪我もない。もしかして、俺、ダンジョンで覚醒した!?」

近藤はそう言って乾いた笑いを浮かべる。

しかし、そうじゃない。

「……ぐっ、そんなわけないだろ。俺がお前のダメージを肩代わりしたんだよ」

俺は痛みでうめき声を漏らしながら言った。

スキル、肩代わり

仲間のダメージを引き受ける力を持つ。

近藤の防御値が低すぎるせいで、体力が800くらい削られた。

今の俺の体力は8000あるので軽傷といえば軽傷だが、めっちゃ痛いことには変わりない。

俺はインベントリから効果の高いポーションを取り出して煽るように飲んだ。

「悪い、壱野……俺、レベルが上がってはしゃいで……その……」

近藤が申し訳なさそうに頭を下げる。

本当は一発ぶん殴ってやりたいくらい痛かったんだが――

「今度から勝手に動くなよ」

俺はそれだけ言ってもう一本ポーションを飲んだ。

「……わかった。絶対に動かない」

近藤が蚊の鳴くような声で言った。

そして再び移動を開始。

さっきまでの楽しいムードは消え失せ、重い空気が圧し掛かっていた。

少し休憩を入れようかと思ったところで、俺は少し息を漏らす。

「みんな、上り階段が見えてきたぞ」

しかも見つけたのは上り階段だけではない。

行方不明の奈良県警の警察官だと思われる人たちがいた。

たとえレベルは俺の方が高いとしても、警察官がいるというのは心強い……そう思った。

警察官のうち一人が左腕を失い苦悶の表情を浮かべながら倒れていることに気付くまでは。