軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未管理ダンジョン

「高校の卒業式の日に――しかも大阪の高校か。壱野くんも災難だったね」

「俺も驚きました。奈良県庁の方だったとは」

ダンジョンに突然転送された者同士、軽い自己紹介を行った。

彼ら四人は奈良県庁の迷宮管理課の職員で、地震が起こって気付いたときにはダンジョンの中にいたそうだ。

しかも、転移される前は奈良市の県庁にいたらしい。

『ミルク、今何してる?』

『タクシーに乗って移動してるよ。PDにいるダンポンに話を聞こうと思って』

ナイス判断だ。

ダンジョンのことはダンポンに聞くのが一番だからな。

ただ、ダンポンってこういう異常事態については役に立たないことの方が多いからな。

あくまでダンポンが何か知っていたらラッキー程度に思っておこう。

俺はミルクに尋ねる。

『地震について聞きたいんだが震源地とか震度とかわかるか? 結構大きかっただろ』

もしかしたら地震が今回の転移のトリガーになっているのではないかと思って話を聞く。

『地震って、どの地震?』

『どの地震って、つい数十分前の奴だよ』

『ごめん、全然気付かなかったよ』

あの規模の地震で気付かない?

流石におかしい。

ということは、あれは普通の地震じゃなかったってことか?

俺はさっと、奈良県の職員も転移に巻き込まれていることを地上にいるみんなと閑さんに伝えた。

やっぱり姫もアヤメも地震は知らないらしい。

「まぁ、安心しなさい。我々はこれでも結構強いからね。武器はなくても素手で魔物なんて倒せるよ」

「そうそう。最近は残業続きでダンジョンに潜っていたからね。本当……やっと久しぶりに通常勤務で終われるって思ったのに」

「なんでこんなことになるかな。書類仕事全然終わってないよ」

俺は念話で話していただけなのだが、傍からみたら黙って佇んでいるようにしか見えない。

そのため俺が不安がっていると勘違いしたらく、皆が俺を励ましてくれた。

ダンジョン局の職員といい、社会人って大変そうだな。

天下無双の職員さんにはできるだけ定時で帰ってもらえるように姫に提案しよう。

「……ん?」

俺は顔を上げて通路の奥を見る。

「どうしたんだい?」

「あっちから魔物の気配が。こっちに近付いてきます」

「気配探知のスキルを持ってるのか」

「フォーメーションD! 君は後ろに下がってなさい」

一番年長の山川課長の号令で、四人が横一列に並ぶ。

カッコいいな。

もしかして、肉弾戦用のスキルとか持ってるのかな?

と思って見ていると、魔物がやってきた。

数は二体。

黒い石のゴーレム?

「黒曜石人形かっ!? マズい、レベル80相当の強敵だぞ! 撤退だ!」

黒曜石人形っていうのか。

石切ダンジョンの五階層にいた石人形の上位種だろう。

「君も速く逃げるんだ! 奴は動きは遅い。走れば逃げられる!」

と課長さんが言ったが、俺は剣を抜くと前に出た黒曜石人形を一刀両断し、さらに後ろにいた黒曜石人形を一突きで倒した。

黒曜石人形は魔石を残して消えた。

魔石ってことは、ダンプルの管轄なのか?

「つ、強い」

「その剣は一体どこから……いや、待て。その剣どこかで見た気が」

「そういえば君の顔もどこかで――」

「壱野……壱野……もしかして、君って!」

「あぁ、名字だけで名前を言ってませんでしたね。壱野泰良って言います。チーム 救世主(メシア) ではベータって呼ばれてます」

「君があの壱野くんだったか。地味が……ごほんごほん、制服姿だったから全然気付かなかったよ」

いま、地味顔って言わなかったか?

まぁ、うちのチームは女性陣が美人過ぎて男の俺が目立たないのは事実だが少し傷つくぞ。

彼らのレベルの平均は60くらいらしい。

彼らをこのままにしておくわけにもいかないし、かといって一緒に行動するのも危ないか。

一度引き返して皆と合流させるか。

念話でみんなにこのことを報告しておく。

『そのことも伝えておくわ。あと、ダンジョン局についたから配信クリスタルを起動してくれるかしら? 動画で情報共有をするわ』

姫はもうダンジョン局についたのか。

もしかして、梅田のオフィスにいたのだろうか?

言われた通り配信クリスタルを起動する。

「敵が強いのなら、五人で出口を探すのは危険ですから、一度みんなのところに戻りましょう」

「待ってくれ、壱野くん。君、配信クリスタルを持ってるのか? 誰と情報を共有しているんだ?」

「いま、俺の仲間が大阪のダンジョン局に着いたようなので、ダンジョン局と情報を共有しています」

俺が説明すると、山川課長さんは少し深く考える。

そして言った。

「もしかしたらと思っているが、ここは最近見つかった奈良の未管理ダンジョンの可能性が高い。そこに人を集めて欲しい」

「……未管理ダンジョンって」

それは初めて聞く言葉だった。

だが、俺が知っているダンジョンというのは、ダンポンかダンプル、一部、ミコトのような聖獣が管理している。

管理者のいないダンジョンなんて一カ所しか知らない。

ここは奈良の謎のダンジョンの中なのか。

※ ※ ※

「まさかまた会うとは思っていませんでした、月見里さん。モルモットの卒業式があると言っていたのでなんのことかと思っていましたが、高校の先生だったんですね」

「私も山川さんと会うことになるとは思ってませんでした」

閑さんと山川課長たちは知り合いだった。

というのも、昨日まで奈良の新しいダンジョン――未管理ダンジョンと呼ばれているらしい――の調査を一緒に行っていたらしい。

これは偶然なのか?

いや、そんなわけないよな。

『調べてほしいことがある』

閑さんが念話を送ってくる。

俺だけでなく、恐らくミルクや姫たちにも同時に発信している。

『何を調べたらいいの?』

『私たちと一緒に未管理ダンジョンの調査をした人物の足取りだ』

閑さんはその人物の名前と所属を伝える。

かなりの人数だ。

そして姫から直ぐに返事に来た。

『調べて貰ってるけど、そのうち一組。奈良県警の深山さんが、やっぱり周囲の人間と一緒に突然姿を消してるわ。あとはまだ連絡が取れてないわね。ほとんど休暇で家に戻ってるから』

『至急、未管理ダンジョンの十七階層にレベル100以上の探索者を可能な限り多く派遣するように要請してくれ』

『それについては、既に集めて貰ってるわ。さっき泰良から連絡を貰ったの』

『助かる。我々はこれから地上を目指す』

『待って。少ない護衛でそれだけの人数を守りながら移動するのは危険よ。場所がわかったのなら救援を待ってからの方がいいわ!』

『そうは言っていられなくなった。ここが未管理ダンジョンというのなら――』

閑さんは通路の奥を見て念話で伝えた。

『このままだとスタンピードが起きる可能性がある』