軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

落とし物注意

ロビーまで押し寄せてきたドラゴニュートも俺が退治した。

そして倒した三匹のうち一匹が起き上がった。

「壱野、気を付けろ! まだ生きてるぞ!」

「……いや、大丈夫だ」

青木の警告に返事をした。

俺は一応警戒しながらも、起き上がったドラゴニュートに近付く。

ドラゴニュートは襲ってくる気配はない。

インベントリからウサギ肉を取り出し、

「食べるか?」

と尋ねると、ドラゴニュートは頷き、剣を置いてウサギ肉を両手で受け取る。

テイムに成功しているらしい。

「ダンポン、一階層に他にドラゴニュートはいるか?」

「えっと……今はスライムしかいないのです」

「そうか。それで、どういうことだ? なんでドラゴニュートが現れたんだ?」

「僕も知らないのです」

ダンポンが言う。

まぁ、心当たりがあるならあんなに驚かないよな。

「……原作者の知らないドラゴン」

青木が小さく呟いた。なんだよ、原作者って。

「設置アイテムが原因でしょうか?」

「その可能性は否定できないのです。でも、僕は違うと思うのです」

「ダンプルが勝手に作ったダンジョンという可能性はないか? 魔石を落とし、通常ダンジョンでテイム可能となればその可能性が高いと思うが」

「ダンプルがダンジョンを作ったら僕にもわかるのです。少なくとも琵琶湖にダンジョンを作ってから、ダンプルは新しくダンジョンを作っていないのです」

園原さん、閑先生の問いにダンポンが答えていく。

結局、ダンジョンの正体はわからないままだった。

この様子だと、設置アイテムを使って一階層を広げる計画は中断しそうだな。

初心者ばかりの一階層にあの強さのドラゴニュートが現れたりしたら、万博ダンジョンにイビルオーガが現れた時以上の騒ぎになる。それこそ、石舞台ダンジョンの二の舞だ。

「ちの太くん。このドラゴニュートを売ってもらいたいのだがどうだろう?」

「え? 解剖するんですか?」

「まさか。ちょっとデータのサンプルを取るだけだ。ついでに助手の真似事でもしてもらおう」

「そうですか。お金は必要ないですよ。名前も付けてあげてください」

どうせうちでは飼えないし。

俺はそう言って、ドラゴニュートに閑先生の仕事を手伝うように命令をする。

あとで魔物の肉を届けようかな?

インベントリに売るほど入っている。

「……なぁ、壱野。サキュバスをテイムすることってできないか?」

青木が真剣な表情で言うが、サキュバスの正体を知っている俺は聞かなかったことにした。

そして、園原さんは――

「魔物を運ぶための護送車の手配をします……」

厄介な仕事が増えたとため息を吐いた。

魔物を外に連れ出すのはいろいろ手続きがあるのだろう。

クロについては、きっと上松元大臣あたりがうまいことやってくれたんだろうな。

いまはアメリカで活躍しているはずの彼に感謝の念を送った。

とりあえず、今日起こったことは、ミルクたちに念話で共有しておくか。

その日の夜。

奈良県知事が記者会見を開き、奈良のダンジョンについて報告を行った。

てっきり記者会見は総理か防衛大臣が行うものかと思ったが――前回の滋賀県ダンジョンの隠蔽があるから、国民の感情を逆撫でしないためだろうか。

調査はこれから行われるということも伝えたうえで、調査を行うメンバーも発表された。

その筆頭には姫の名前が挙がった。

彼女が分身のスキルを使えることは、既に配信を通じて多くの人に知られていることなので納得する人選だった。

もっとも、分身でも「痛みを感じる」「感じた恐怖は分身解除後に共有される」ということも知られているので十八歳の少女に一番危険な仕事を命じることに対してSNSでは問題提起が挙がったが、姫が探索に乗り気であることを自身のSNSアカウントで発表したこと、さらにダンジョン探索の様子は生配信されることで、配信を楽しみにする声が上がり、否定的な声はかき消されることになった。

そして翌日。

「あれ? 壱野くん、なんでいるの?」

学校に登校するなり水野さんに失礼なことを言われた気がする。

本当に、俺がいることが不思議でならないらしい。

「ここの生徒だから?」

「そうじゃなくて、今日はほら……」

「ああ、そういうことね」

姫が奈良の謎のダンジョンに潜っているから、俺も一緒に現地に向かっていると思ったらしい。

「ダンジョンに潜るのは姫の分身だけだしな。ミルクとアヤメも学校に行ってるよ」

ただでさえ二学期末はほとんど登校できなかったのだ。

勉強がにが……得意ではないが、高校が嫌いなわけではない。

しっかり高校生活を満喫する。

「あれー、どこに行ったんだ?」

と青木が俺の席の近くで自分の鞄に手を突っ込んでいた。

何か探しているようだが――

「青木くん、どうしたの?」

「生徒手帳がないんだよ――鞄に入れてたはずなのに」

鞄の中から勉強に関係のない雑誌やモバイルバッテリーが出てくる。

ちゃんと整理しておけよ。

「あ、あっちだ!」

と青木は学生鞄とは別の鞄を取り出した。

昨日、ダンジョンの中に持って入っていた鞄だ。

「お前、ダンジョン用の鞄に生徒手帳を入れてたのか?」

「仕方ないだろ。ダンジョンの中に入っていたらいつも女に間違えられてナンパとかされるから、身分証明書代わりに持ち歩いてるんだよ。あいつら俺が男だって言っても信じてくれなくて」

それは仕方ないか。

だが、青木がもう一つの鞄の中を探しても生徒手帳は見つからなかった。

「おかしいな。ここだと思ったのに」

「青木くん、この鞄、穴が開いてるよ」

水野さんが鞄に開いた穴を見つけた。

一見したらわからなかったが、大きな穴だ。

「ヤバイ、昨日落としたかも。ダンジョンに吸収されないか?」

「わからん。どこで落としたんだ?」

と俺が言ったときだった。

『泰良、ちょっといいかしら?』

姫から念話が届いた。

『どうした? いまダンジョンで配信中だろ?』

『そのことよ。分身がいまは十三階層にいるんだけど――』

へぇ、もう十三階層まで潜ってるのか。

朝の七時に探索開始しているはずだから、まだ一時間半くらいだろ?

『そこで、ちょっと厄介そうなものを見つけたのよ』

『厄介そうなものって、何だ?』

『それがね――』

姫が言った。

『泰良の友だちの青木の生徒手帳が落ちてたのよ。心当たりはあるか聞いてもらえる?』