軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拡張されたダンジョン

「お客様、これからこのダンジョンで設置アイテムの実験を行うのです」

設置アイテムと聞いて、俺は一瞬ピンとこなかった。

だが、直ぐにそれが何なのか思い出す。

「設置アイテム? 何かを置くってことですか?」

青木が尋ねた。

それについて園原さんが説明をするが、説明を聞かずともわかった。

お宝ダンジョンで手に入れたダンジョンルールブックによって追加されたダンジョンのシステムだ。

ルールを追加したのはいいが、肝心の俺たちが設置アイテムを未だに入手できていないので、何もできていない。

「それで、その設置アイテムってどんなアイテムなんです?」

「こちらですね」

園原さんが見せてくれたのは、大きな「1」という形の置物だった。

【ワンラージ:一階層の広さを十六倍にすることができる(設置アイテム)】

え? これだけ?

経験値が二倍になるとか、宝箱から特定のアイテムが出てくるとかそういうのを期待したのだが。

園原さんからも同様の説明を受ける。

青木もガッカリするかと思ったが――

「え!? それってめっちゃ便利じゃないですか!」

と声を上げた。

「そうか?」

「そりゃそうだろ。一階層っていつも混雑してるじゃないか。十六倍の広さになるってことは、定員が十六倍になるってことだろ?」

あ、そっか。

俺が一階層に通ったのって梅田ダンジョンの一度だけだったから忘れていた。

「でも、なんでここに設置するんですか? 梅田ダンジョンに設置するべきじゃ?」

「最終的にはそうなります。ただ、ダンジョンに設置するには、一度そのダンジョンを無人の状態にする必要があるんです。梅田ダンジョンは現在大勢の探索者が利用なさってますから、実験のために全員に出ていっていただくのは少々面倒なんですよ」

石切ダンジョンはまだ人の出入りが少ないからなぁ。

それなら、もっと人の出入りの少ないてんしばダンジョンを使えばいいじゃないかと思った。

しかし、あそこを管理しているのは押野グループだ。

姫の実家のものであって、姫の持ち物でもない。

俺たちは押野グループの善意で利用させてもらっているが、あくまで姫の実家のものであって、姫が自由にできるものではない。

俺が口出しする問題ではないだろう。

「そんな実験なのに、俺たちが来てよかったんですか?」

「ええ。一階層に現れるとしたらスライムだけです。それに、協力者も二人の知り合いですからね」

「協力者?」

と考えていたら、誰かが地上から降りて来た。

閑さんだった。

それだけじゃなく、月見里研究所の研究員たちも一緒だ。

「おや、ちの太くんに青木じゃないか。園原氏から連絡を貰っていたがもう来ていたんだな」

「閑ちゃん、学校休んで奈良の未発見ダンジョンの調査をしてるんじゃなかったっすか?」

青木が尋ねた。

「ああ、本当はそうしたかったんだが、設置アイテムの実験の検証に付き合うことになった。国からの補助金を貰って研究をしている以上、こういう面倒な仕事は断れんさ。補助金がないと、研究に必要な装置の一つも買えやしないからな」

レベル100越えの先生が本気を出せば年間で億単位のお金が稼げそうな気がするが、研究に必要な装置の値段はそこからさらに二桁くらい違うらしい。

もしかして、前に奈良の調査で使った機械もものすごく高かったのだろうか?

「壱野さん、ご無沙汰しています。てんしばダンジョンではお世話になりました。それに、所長の助手もしていただいたそうで」

月見里研究所の人たちが口々に俺に礼を言う。

俺は気にしないでくださいと伝えた。

「皆さん揃ったようなので、設置アイテムを起動するのです」

ダンポンはそう言って、念力を使い、ワンラージをカウンターに置く。

そして――

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

沈黙が部屋を支配した。

それに耐えきれず、

「で?」

青木が尋ねた。

「もう終わったのですよ。一階層が広くなったのです」

終わってたらしい。

俺と青木と園原さんがずっこける。

「なるほど、大阪の人間はこういう時に本当に転ぶのだな」

「いや、まぁそういうノリだったので」

いつもしているわけではないし、そういう風に冷静に分析されるのは恥ずかしい。

ともあれ、ダンポンを含め全員で一階層に移動する。

石切ダンジョンの一階層は二回しか来ていない(二回目に二十階層に到達し、三回目以降は転移陣を使っているため)が、その時より広くなっている気がする。

そして、早速スライムが現れた。

インベントリから棍棒を取り出して殴り潰す。

Dコインとスライム酒が落ちた。

「いきなりスライム酒ですか」

園原さんが若干引いていた。

よかったら差し上げますと言いたいが、公務員なのでこういうのは受け取らないか。

父さんにプレゼントするか。

最近、スライムを倒してないからスライム酒の予備も減ってきたし。

青木が天使に変身してスライムを突く。

天使になった青木の動きはいいな。

まだレベルは低い関係から実際に戦うのは無理だが、二十階層のボスでもソロで倒せそうだ。

「壱野さん、青木さん。倒してみてどうですか? いつものスライムと違うとかそういうのはありませんか?」

園原さんが特殊警棒でスライムを倒しながら尋ねる。

「わかりません」

「俺もわかりませんが、特にスライムの動きが速くなったとかは感じないです」

「そうですか」

園原さんはそう言って、月見里研究所の人たちの方に行く。

んー、これだけ広いと調査も大変だな。

「お、宝箱発見! 中身は……なんだ解毒薬か」

青木が宝箱から解毒薬を取り出して残念そうにしながら鞄に入れる。

「まぁ、あって困るもんじゃないだろ。それにしても、これだけ広いと見て回るのも大変だな」

「そうだな。予定通り十五階層まで行くか?」

「いや、設置アイテムを外すときも全員ダンジョンから出ないとダメらしいし、勝手に行ったらダメだろ」

これなら、青木の家でゲームしていた方がよかったかな。

そう思ったときだ。

「おい、こっちに来てくれ!!!」

月見里研究所の一人が声を上げた。

何事かと俺たちもそちらに駆け付けると、そこには通路があった。

第六感が発動する。

なんか、この先、嫌な予感がする。

「石切ダンジョンにこんな通路はないはずです」

通路を発見した研究員が紙の地図を見て言った。

ダンジョンの広さが十六倍になっていると言っても、新しい通路や部屋が増えたわけではなく、単純に横幅、奥行きが四倍になっているだけらしい。

なのに、ここに新しい通路がある。

皆が集まってきた。

ダンポンも一緒だ。

「……!? ここから先は僕のダンジョンじゃないのです」

「それって、他のダンジョンに繋がったってことか!?」

「そのようなのです。でも、この辺りにダンジョンなんてないはずなのです」

とその時、通路の奥から何かが走ってきた。

スライムじゃない。

剣を持った二足歩行の爬虫類の魔物。

「リザードマンっ!?」

「違う、ドラゴニュートの亜種だ!」

青木の言葉を閑さんが訂正する。

ドラゴニュートって、竜人!?

俺は棍棒を棄て、布都御魂と布都斯魂剣を取り出すと、ドラゴニュートの亜種に向かった。

敵の剣と俺の剣が衝突する。

こいつ、強い。

40階層、いや、それ以上に。

「二刀流応用剣術、月影双龍剣っ!」

そのままでも倒せなくはないが、剣術を使い、確実に仕留めた。

そして落ちたのは――

魔石?

Dコインではなく赤い魔石が落ちた。

この先にあるのは黒のダンジョンなのか?

いや、それより、通路の奥から魔物の声が聞こえてくる。

「園原さん、このままだと危険です。一度戻り、設置アイテムの解除をしましょう」

「わかりました!」

俺は魔石を拾い、ダンジョンのロビーに戻った後、設置アイテムを取り外してもらう。

これで安全――ではない。

なんと、先程と同じドラゴニュートがロビーまで押し寄せてきたのだ。

しかも、三匹も。

階層を跨いで移動し、そしてロビーまで押し寄せてくる。

そして、魔石を落とす。

こいつら、黒のダンジョンの魔物なのか?