軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

黒のダンジョン突入直前

黒のダンジョンの入り口から約二十メートル。

その場所にPDの設置に成功した俺は、階段を転がるように落下してPDに入場した。

「泰良、回復魔法かける!?」

「大丈夫だ!」

ステータスが完全に肉体に反映されている今、階段から落ちたくらいでは怪我はしない。

それよりも――

PDの中に馬の魔物が降りて来た。

その速度は衰えぬまま、いや、それ以上の速度で。

クロと戦っていたものとは同種の、側面から俺に向かってきた魔物だ。

いまならわかる。

こいつ、今の俺とも互角の速度で渡り合える速さを持っている。

恐らく、俺を追いかけてきたとき、こいつは全力で走っていなかった。

それでも十分に追いつけると判断したのだろう。

PD生成スキルを知らなければ当然の判断だ。

「エクリプス――馬の魔物ね。日本に現れるのは初めてだけど、とても速い馬で多くの高レベル探索者を苦しめてきたそうね。あまりの速さから、まるで消えたように感じるって話よ。だからギリシャ語で消えたを意味する言葉があてがわれたらしいけど、神話やゲームにも登場しないダンジョンオリジナルの魔物だから何とも言えないわね」

姫が悠長に講釈を述べる。

そんな速い魔物だったのか。

「攻略法は」

「ないわ!」

しっかり忍び装束に着替えている姫がはっきりと言った。

それってつまり――

次の瞬間、姫のクナイがエクリプスとかいう馬の魔物の首を落としていた。

エクリプスは避ける暇もなかったようだ。

「攻略なんてしなくても、私なら余裕で倒せるもの」

俊敏特化の姫は涼しい顔をしてそう言った。

ははっ、さすがだな。

「PDの時間設定は?」

「泰良が入ってきた時点で百倍にしてもらったよ。そうだよね、ダンポン」

こちらも戦闘用の服に着替えていたミルクがダンポンを見て言う。

だが、尋ねられたダンポンは頬を膨らませて言う。

「時間は百倍にしてるのです。でも、僕に相談もなく、PDのロビーを戦場にしないでほしいのです」

ダンポンが怒っている。

まぁ、こいつには戦闘能力はないから危険なことはしてほしくないのだろう。

地上にはクロも残っているが、無事だと信じよう。

あいつは結構強い。

あの程度の魔物にやられたりはしないし、いざとなったら影の中に逃げることもできる。

それよりも――

「なんでお前がいるんだ、ダンプル」

ダンポンの横にダンプルがいた。

二人揃って見ると、白い大福とあんころもちみたいな組み合わせだ。

「なんでって、僕が管理しているダンジョンと繋がったからね。こうして遊びに来られるわけだよ」

「遊びにって、お前、ダンジョンの管理をしっかりしろよ。魔物が溢れてるじゃないか」

「いやいや、無理だって。瘴気が集まり過ぎてるんだ。ここで一度魔物を溢れさせないと、出口以外から魔物が溢れることになる。スライムとかじゃない、いまダンジョンの外にいる魔物と同じものがね。それでもよかったのかい?」

「うっ」

黒のダンジョンの入り口から魔物が溢れたから、防壁で囲い込んで被害者を出さずに魔物を押しとどめていられる。

もしも魔物が広範囲にダンジョンの周囲に出現していたら、災害級の被害となっていただろう。

「ミルク、渡したものは?」

「うん。言われた通り設置したよ」

「アヤメ、黒のダンジョンに通じる道は?」

「はい。形代を使って調べたところ、一階層の印の場所が黒のダンジョンに繋がっています。それで、壱野さん。PDはどこに設置したんですか?」

アヤメが公園を上空から撮影した地図を俺に見せた。

「ここだ」

「へぇ、かなり接近したわね」

「今後のことを考えると、その方が楽だろ?」

「楽になるのは自衛隊で、私たちの負担は増えるけどね」

アヤメがPDの入り口の位置とPDの一階層のダンジョン、そして黒のダンジョンと繋がっている場所から、俺たちが潜入する場所を示す。

ちなみに、黒のダンジョンの地図は自衛隊の基地内に保管されていたのをコピーさせてもらった。

「ここから入って――んー、牛蔵さんのいるだろうロビーまで直接入るのは無理ってことか」

と経路を確認していたその時だった。

新たな気配が現れた。

「あはっ! いきなりとはね!」

ちょうどそれを見える位置にいた姫が自ずと笑った。

先ほど倒して消えたはずのエクリプスが再度現れたからだ。

「私の運がいいのか、それとも泰良の運のお陰かどっちかしらね?」

「どっちでもいいよ。少し楽になる」

黒のダンジョンの魔物をそれ以外のダンジョンで倒せば、魔物が再度現れて仲間になることがある。

アメリカの調査ではその確率はとても低いそうだが、一発目にして仲間になるとは。

「早く名前を付けてやりな。それでテイムは終了だよ」

ダンプルが説明をした。

「名前か。姫、お前が倒したんだから名付けてやれよ」

「わかったわ。あなたは 疾風(ハヤテ) よ」

姫が一瞬の躊躇いもなく名前を付ける。

エクリプス――いや、疾風は頷いた。

そして、首に真っ白なスカーフを巻き付けて結ぶ。

絶対に外れないように、堅結びで。

「さて、牛蔵さんを助けに行ってくる。姫、分身でサポートを頼む。三人はここで待機していてくれ」

「「え?」」

「分身だけ?」

姫だけでなくミルクやアヤメも一緒に行くつもりだったのか?

「たぶん、黒のダンジョンの一階層のロビー内は乱戦状態になってると思う。そうだろ? ダンプル」

「そうだね。東京の通勤ラッシュの山手線ほどではないけど、平日朝八時の近鉄奈良線の快速急行くらいの混雑具合だね」

「地元民しかわからない例えありがとう。そういうわけだから、そういう状態では姫の回避能力も存分に発揮できないし、後衛のミルクやアヤメも危険だ。それに、俺にはこれがあるからな」

これがあれば、牛蔵さんと合流さえできれば安全度は遥かに上がる。

よし、作戦第二部開始だ。