軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一歩だけでも前へ

隠形スキルと隠形のマントを併用して、俺は一人戦場という名の公園を歩いていく。

矢橋帰帆島公園は実際に来るのは初めてだが、写真は見た。

俺が今歩いている場所には高さ十メートルはあるピラミッド型のネットのジャングルジムやトランポリン等、無料で使える多種多様な遊具が設置されていたはずだが、そのすべてが撤去されているので、ただだだっ広い広場になっていた。

ウマのような魔物が防壁に向かってのそのそと歩いていく。

その歩き方は、草食動物というより獲物を探すライオンのようだ。

俺はその魔物に近付かないように斜めに移動した。

隠形スキルだけ使った場合、魔物によっては静かに動いていても一メートル以内に近付けば気付かれるらしい。

隠形のマントと併用していればもっと近づいても平気だと思うが、念のため、二メートルは距離を空けている。

魔物が複数来た。

急いで、だが足音を消して移動する。

隠形スキルでは足音や振動も気付かれにくくなるが、しかし気付かれにくいだけで絶対ではない。

忍び足で、極力振動を与えないように、魔物に近付かないルートを決める。

魔物が通り過ぎた。

一息つきたいが、息を吐くのも怖い。

メ〇ルギアソリッドのようなステルスゲームをしているみたいな緊張感がある。

しかし、ゲームとは違い、これは現実だ。

黒のダンジョンの入り口に近付いて来た。

相変わらず、地下鉄の入り口のような外観だ。

隣に設置されていたプレハブの更衣室が魔物のせいてボコボコになっている。

かなり丈夫に作られているはずなのに。

もう少しだ。

ダンジョンの入り口付近に魔物が集まっているが、あそこは魔物寄せの笛の効果範囲内なのだろう。

こちらには見向きもしない。

とはいえ、近付けば襲われる。

やはり正攻法でダンジョンの入り口から入るのは不可能だな。

ダンジョンの周りでもある程度の力は発揮できる――実際、PDを家の庭に設置していたら、庭の中くらいだったら結構な力を使えたりする――のだが、その範囲は既に魔物に埋め尽くされている感じだし。

やはりPDに頼るしかない。

PDの入り口を設置する場所に目星をつけた。

一気に走りたい衝動が俺を襲ったが、そんなことをすれば先ほど通り過ぎた魔物に気付かれるかもしれない。

俺の俊敏値はダンジョン内の十分の一になっている。

魔物の走る速度を考えると、余裕で追いつかれる。

まだ走れない。

もう少しだ。

もう少し――

とその時だった。

視界の端にずっと映っていたが、全く動かないので無視していたブラックタートルが動いた。

尻をこちらに向けたかと思うと、卵を産み始めた。

空に向かって。

おいおい、マジかよ。

放物線を描いて噴射された卵は、あちこちに落下し、その落ちた衝撃で卵が割れてブラックタートルの幼体が生まれる。

産卵から孵化までの時間が金亀神よりも遥かに短い。

幸いなことに、俺に直撃するコースには卵は落ちてこなかったが、しかし俺の進む先に大量にブラックタートルの幼体が現れた。

魔法のタワシは持ってきていない。

持ってきていたとしても攻撃すれば、隠形が解ける。

後ろを振り向いた。

魔物と距離が結構開いている。

ブラックタートルの幼体の動きは遅い。

仮に気付かれても通り過ぎてしまえば俺には追いつけまい。

覚悟を決めた。

俺は走った。

全力で。

ステータスが十分の一になっているとはいえ、それでもダンジョンがこの世界に現れる前の世界記録を遥かに上回る速度だ。

ブラックタートルの幼体の横を通り過ぎる。

この速度なら―ー

「キューっ!」

その時、ブラックタートルの幼体が鳴いた。

正しくは、鳴き声ではなく肺の中の空気を一気に押し出したことによる擦過音というものらしいが、そんなのは関係ない。

この音の意味することは――

肩越しに振り返ると、遥か遠くにいたはずの馬に似た魔物が俺との距離を遥かに詰めてこちらに走ってきていた。

気付かれた。

ここにPDを設置――いや、ダメだ! まだダンジョンの入り口から距離が遠すぎる。

一度設置して、PDに片足をつっこんで戦闘、馬と戦い撤収、また移動するか?

いや、戦っている間に魔物に囲まれたら再度移動できないぞ。

それは最後の手段だ。

もっと走れ。

全力で。

足に車輪がついていたらと思う。

走るときの空気の抵抗がうっとうしいと思ったのは生まれて初めてだ。

振り返らない。

振り返らなくても気配でわかる。

ダメだ、追いつかれる。

その時だった。

光が照射された。

自衛隊の人たちに頼んでいた作戦だ。

魔物に対しては特に効果はない。

かなり眩しいが、目晦ましとしては弱い。

だが、これで十分だ。

これだけ明るければ、影が生まれる。

そして、影からはアイツが現れた。

いつもと違い鳴き声一つ出さずに現れたクロが、背後に迫る馬のような魔物に襲い掛かった。

クロが戦っている時間、俺は距離を稼ぐ。

さすがに戦闘が始まれば隠形ももう無意味だ。

横方向からも魔物が近付いてくる。

あと五十メートルだけでも前に。

あと三十メートルだけでも――

あと十メートルーー

あと一歩――

次の瞬間、俺はPDの入り口を設置し、転がるようにダンジョンの中に落ちていった。