軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

搾り出された三分

「……上松のおじさま、もしかして――」

ミルクが尋ね、上松大臣が頷いた。

やっぱりそうか。

上松大臣の持っている鞄。

アレだったら広げれば場所を取るが、折りたためば二枚は入るサイズだ。

アレがあれば――確保できる。

PDから黒のダンジョンの帰り道が。

「上松大臣。持ってきたもの、俺たちに預けてくれませんか」

「若い君たちが無茶をする必要はない。これの片方を牛蔵のところに届けるくらい、私にも可能だ」

「いえ、そうじゃないんです。それがあれば、この戦況を覆すことができるかもしれないんです」

「なんだと? どういうことだ?」

時間は惜しい。

だが、この作戦、説明しないと問題がある。

牛蔵さんがいまいるのは富士山の時と違ってダンジョンの中。

万全な状態で戦えている。

だったら、先程聞いた、牛蔵さんが善戦しているという言葉を信じ、上松大臣に説明する。

ただし、アレについては自衛隊の人達や本城さんたちに聞かれるわけにはいかない。

機密情報を扱う部屋に案内され、そこで俺は自分の作戦を伝えた。

上松大臣は、そんなことが本当に可能なのかという顔を一瞬したが、しかし直ぐに頷いた。

疑うのではなく信じることに決めてくれたようだ。

そして、上松大臣はアレを鞄から取り出して俺に預けてくれた。

これで準備は整った。

『私が行ってもPDは開けられないもんね。分身が護衛として同行しようにも、そんなことしたら泰良の隠形の邪魔になるし』

姫が残念そうに念話で伝えてきた。

別の場所で分身が陽動のために走り回るという案も上がったが、そんなことをして魔物が動き回った結果、魔物と接近してしまえば隠形を使ってもさすがに魔物に気付かれる。

『安心しろ。俺は戦うわけじゃない。三人はあっちで待機してくれ』

隠形のマント、そして隠形スキルを使えば、誰にも気付かれずにダンジョンの入り口に近付くことができる。

そして、ダンジョンの入り口にいる魔物だが、そっちは戦う必要がない。

黒のダンジョンの入り口の近くにPDを設置するだけだ。

そう、黒のダンジョンに入るだけなら、この場所にPDを設置するだけでもいい。

だが、今後の作戦を考えると、絶対に黒のダンジョンの入り口の近くに設置する必要がある。

PDの入り口の一つをこの部屋に設置し、俺はミルクたちを残し、上松大臣と外に出た。

そして、上松大臣が指示をだす。

「三分間、銃火器での攻撃の禁止ですかっ!?」

上松大臣の指示に、自衛隊員の一人が声を上げた。

「ああ。これから彼がダンジョン内に取り残された牛蔵に救援物資を届けるためにに向かう。万が一流れ弾に当たったらいけないからな」

「チーム 救世主(メシア) の――しかし大臣。いくら彼が優れた探索者であってもダンジョンの外ではただの子どもです。それならば私が特攻します。私もレベルは60あります。ダンジョンの中に入れさえすれば、魔物の殲滅は無理でも荷物を届けるくらいは可能なはずです」

壮年の自衛隊員が言った。

だが、上松大臣は首を横に振る。

「残念だが、普通の状態では特攻したところでダンジョンの中に入ることすらできない。だが、彼にはダンジョンの外でも使える隠形スキルと、同様の効果を発揮する隠形のマントがある」

「隠形スキルは透明になるわけでもなければ絶対に気付かれないスキルでもありません。魔物に接近すれば必ず気付かれます。ダンジョンの入り口は魔物だらけです」

「その点は心配ない。彼にはダンジョンの入り口以外からダンジョンに入るスキルがある。なお、彼のスキルについては口外を禁止する」

普通に地面を掘って中に入るだけではダンジョンの中に入れない。

ただし、ダンジョンの中に入るスキルが存在することは彼らも知っている。

空間魔法以外にも転移系のスキルは存在するらしい。

その中にはダンジョンの外から中に入ることのできるものもある――と前に牛蔵さんに教えてもらった。

もっとも、そういうダンジョンの外で使える転移スキルは悪いことに使おうと思えばいくらでも悪用できる。幸い、非常に珍しいスキルらしく、実際に悪用されたという話は聞かないが。

あれ? 上松大臣は口外しないように言ってくれたが、俺が転移スキル持ちだってバレたら、今後色々と面倒な事になるんじゃないか?

PDの存在を隠すために敢えてそういう嘘を混ぜて作戦を伝えたのだが、他にいい方法があったかもしれない。

全て後の祭りであるが。

準備は整った。

俺は閑さんから貰った薬を飲む。

身体が少し軽くなった。

しかし、夜の間はダンジョン内の一割の力しか発揮できないので、ここにいる魔物と戦うだけの力はない。

もしも敵に気付かれて魔物に襲われたらその場にPDを設置する。

できるだけダンジョンの入り口の近くに設置する。

俺は息を整えた。

銃の発砲音はまだ鳴り響いている。

防壁に近付く。

魔物が見える。

気配で気付いていたが、まだ魔物がこんなにいるのか。

「では、行きます」

俺が宣言して防壁を乗り越えた。

途端に、一斉に銃声が止んだ。

制限時間は三分。

霊珠を用いた銃弾を含め、新たに開発された銃弾は魔物に致命傷を与えていないといっても、全く効果がないわけではない

ブラックタートルの幼体以外の魔物を軽く足止めすることはできている。

しかし、それがなくなったら魔物は防壁に押し寄せてくる。

竜の鱗で作られた防壁はそう簡単に突破されないが、魔物が近くにいると魔法のタワシを使ってのブラックタートルの幼体の駆除ができなくなる。

そうしたら、ブラックタートルの幼体に防壁を食い破られる危険がある。

そのような危険を承知で、俺を信じて与えてくれた、その搾り出された三分。

それを無駄にしないために、だが、慎重に誰にも気付かれないように、戦場の中を歩いていく。