軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

脱出の糸口

念話でこっそり作戦会議を行う。

『PDの中に魔物を誘い込んで仲間にする!? また無茶なことを』

『今の状態だとそれが一番有効的かもしれません。外でも動ける魔物を仲間にできれば、今後同じようなことがあっても対処できますし』

『でも、どうやって魔物をPDの中に誘い込むの? そう都合よく中に入ってくれるかな?』

『それは……そうだな。魔物寄せの笛があればいいんだが』

何か方法はないか?

スケープコートでヘイトを自分に――いや、あれはヘイトを転嫁するアイテムでヘイトを集めるアイテムではない。

『おとりネズミをPDの中で走らせたら集められるんじゃない?』

『PDの中から外の魔物におとりネズミが有効かどうかわからないな。あれは一回限りの使い捨てアイテムだし、慎重に使いたい』

『私の分身が持って走るのが一番ね。泰良、閑から貰った薬があるでしょ? それを使えば――』

『いや、姫がそれを使っても俊敏値450くらいにしかならないだろ? 魔物の中にはそれより速い敵もいる』

『やっぱり、パパの持っている魔物寄せの笛を使うのが一番じゃないかな?』

『でも、ミルクちゃん。ダンジョンの入り口は魔物だらけで、今の私たちじゃ突破できないよ』

『それこそ、PDを使えばいいわ。この近くにPDを作ればそこから黒のダンジョンの中に入れるわ』

『やっぱりそれしかないな。幸いと言っていいかわからないが、牛蔵さんには俺が通常の方法以外でダンジョンに侵入できることはバレている』

石舞台ダンジョンにミルクを助けに入ったときのことだ。

俺の石舞台ダンジョン内の入場記録は残されていなかったが、石舞台ダンジョンの二階層で牛蔵さんと合流した。

あの時は、牛蔵さんの弟子としてダンジョン内に入ったということで、俺のダンジョンの不正入場が表に出ることはなかった。

『問題は、どうやって黒のダンジョンからPDに戻るかだな』

PDから他のダンジョンへは一方通行だ。

入り口から外に出たら、誰かに気付かれる。

『そうね。泰良、隠形の衣は持ってきている?』

『ああ、今回は何があるかわからないから、トゥーナから一時的に返してもらってきた』

『泰良は隠形スキルがあるんだし、その二つを併用すれば、誰にも気付かれずに外に出られるわよ』

『だが、カメラで撮影してるんだろ?』

『それなんだけど――闇魔法を覚えたでしょ? あれで階段付近で闇を噴射すれば普通のカメラには映らないんじゃない?』

あぁ、あったな。闇魔法の初歩、 闇煙(ダークミスト) 。

単純に、黒い煙を噴き出す目くらましの魔法だ。

隠れて動くなら役立つ。

しかし、それでも万全とは言えない。

サーモグラフィとか使われたらどうなるんだろ?

自衛隊に頼んでスイッチを切ってもらうか?

いや、それだと事情を説明する必要がある。

『ねぇ、泰良。普通の方法でPDに戻れないなら、普通の方法じゃなかったら戻れるんじゃない?』

『普通じゃない方法?』

『空間魔法なら?』

『いや、それは無理だ』

俺が使える空間魔法は三種類。

迷宮転移(ダンジョンワープ) :行ったことがある同じダンジョンの階層の入り口に移動できる。

短距離転移(ショートワープ) :短い距離を転移できる

そして、もう一つが使ったことがない魔法。

転移(チェインズ) 封鎖(オブステイシス) :相手の空間属性能力を封じることができる。

このうち、元のダンジョンに戻れる可能性があると思えるのは 短距離転移(ショートワープ) だけだが、残念ながら通常ダンジョンからPD内への転移はできなかった。

牛蔵さんはいまは善戦していると言われているが、いつ何があるかわからない。

作戦会議をするにしても、一度PDに入った方がいいのではないか。

そう思ったときだった。

ヘリの音が聞こえて来た。

今回の作戦に空からの攻撃は行われていない。

防音壁のお陰で、ここで起こっている事件は外部に漏れていないが、自衛隊のヘリが何機もこの島の上空にいたら外部にバレてしまう。

とすると、このヘリの音は――

「どうやら総理が来たようですね」

「総理――石田総理が?」

「ええ。ここの陣頭指揮を執るそうです」

総理が陣頭指揮を執るのか。

それって本当に必要なのか?

クエストを達成して指揮系統の技能を取得したとか、実は高レベルの探索者で、ダンジョンの外でも使える補助系スキルや魔物を解析するスキルが使えるとか?

「そう言えば、前総理時代は五月の富士山から溢れた魔物に対する対応の遅さが指摘されたのが退陣のきっかけになっていたわね。だから今回は形だけでも現場に来ないといけないって思ったんじゃないかしら?」

「総理を出迎えましょう」

本城さんが言った。

そんなことをしている場合じゃないと思いながらも、無視もできない。

俺たちはプレハブ小屋を出てた。

ちょうどヘリが着陸したところだった。

プロペラの回転が完全に止まり、扉が開く。

そこから現れたのは――

「え?」

石田総理ではなく――

「上松のおじさま?」

ミルクが彼を見て言った。

ヘリから降りて来たのは上松大臣だった。

彼がいるのはわかるが、総理の姿はどこにも見えない。

「上松大臣、総理はどうなさったのでしょう?」

本城さんが尋ねた。

「来られなくなった」

上松大臣は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

なんでも、今回の件、マスコミのカメラが一切入っていないどころか、そもそも公表もされていないのだから、自分が行っても行かなくても同じだ。

日本を背負っている自分にもしものことがあったら大変だから、ここは断腸の思いで身を引き、現場は上松大臣に任せる。

そう言って来なかったらしい。

「自分のような戦闘の素人が現場に行っても邪魔になるだけだとも言っていたな。それだけは同意する」

そして、上松大臣は既に現場の状況を確認していたのだろう、次々に確認作業をしながら指示を出していく。

「そういえば、大臣は東京にいたのですよね。それにしては早い到着で」

「ヘリを飛ばしたからな。しかし、遅かった。できることなら、牛蔵の奴がダンジョンの中に潜る前に渡したいものがあった。だが、これならいけるか?」

そう言って彼は何か薬を取り出す。

それは閑さんの開発したダンジョンの外でも少しだけ力を発揮できる薬だった。

上松大臣にも渡していたのか――いや、そりゃ渡すか。

開発の依頼をしていたのが防衛大臣なのだから。

「大臣、何をっ!?」

「なに、牛蔵の奴に届け物をするだけだ。ダンジョンの中にさえ入ってしまえば、私も戦えるからな」

「危険です! 中も魔物が溢れています」

一緒にヘリからやってきた秘書官らしい人が止めようとする。

「危険なのは牛蔵も同じだ。それに、非常時に脱出するための道具は持ってきている」

非常時に脱出するって、そんな転移魔法みたいな道具が――まさか!?

上松大臣、アレを持ってきたのか!?