軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

孤立無援の拳闘志#side牧野牛蔵

私、牧野牛蔵は昔から戦うことに長けていた。

単純に筋力が優れていただけでなく、戦うことに長けていたと言ったほうがいいだろう。

運がいいことに、両親が私の才能に気付き、竹内信玄師匠の下に弟子入りさせられたお陰で、その力が暴力に発展することはなかった。不幸中の幸いと言えよう。

もしもあのまま日常生活を送っていたら、私は級友の誰かに取り返しのつかない怪我を負わせていたかもしれない。

師匠の下で学んだことは戦い方もそうだが、それよりも力を制御する方法だった。

己の力を正しく扱うことが、もっとも強くなる近道だと師匠は言っていた。

師匠の紹介でボクサーの道に進むことを決めたのは十五になったころだった。

気付けば私は世界一の称号を手に入れていた。

そして、十八になったとき一人の女性に好意を寄せられ、私も彼女を受け入れた。

一年の交際の後、プロポーズしたのは私の方からだった。

そして、授かったのがミルクだった。

生まれたばかりの、握れば骨が折れてしまいそうな彼女を見て、私は妻と己に力の制御の方法を教えてくれた師匠に感謝した。

私の力は誰かを倒すためではなく、この子を守るために授かったのだと思った。

それから八年後。

この世界に変化が起きた。

ダンジョンが生まれたのだ。

ダンジョンの中では銃火器等の現代兵器は使えない。

そんな状態では自衛隊員や警察官だけの調査は難しく、当時、自衛隊の幹部候補として働いていた兄弟子の上松の計らいにより、私とそして師匠がダンジョンの先行調査を行うことになった。

その時、師匠が言った。

このダンジョンには悪意は感じないが、遥か地下から別の何かを感じる。そして、それは世界に混沌をもたらす可能性があると。

師匠はその原因を調べるため、知り合いの陰陽師に協力を仰ぐと言った。

そして私にはトップランクの探索者になるように、上松にはさっさと出世して偉くなるように命じた。そして、私は言われたまま、ボクサーを引退、探索者になる道を選んだ。

私はトップレベルの探索者になったが、しかし、上松が防衛大臣まで上り詰めるとは思わなかった。

あいつは地頭はいいし、人望もあり、私も協力したのだが、それだけで出世できるものではない。恐らく師匠が裏で手を回したのだろう。

それからは意外にも順風満帆な日々を送る事ができた。

探索者になった初年度の収入はボクサー時代の一割未満にまで減ったが、貯金を切り崩して余裕で生活でき、四年目になったときはプロボクサー時代の収入に追いつき、そして五年、六年とダンジョンに潜り続けるうちに莫大な富を得るに至った。

妻とミルクにも不自由のない生活を送らせてもらった。

事件が起きたのはダンジョンができて十年経った頃だった。

ダンプルと黒のダンジョンの出現だ。

ダンジョンに異変が起きて、多くの被害者が出た。

まさか、ミルクがその異変に巻き込まれることになるとはあの時は思ってもいなかった。

ミルクを救ってくれた壱野くんにはいくら礼を言っても言い切れない。

その後、壱野くんと二人で話をしたが、とても素晴らしい好青年だった。

そして、富士山のダンジョンから溢れた魔物と戦い瀕死の重傷を負ったとき、彼は時価数百億は下らない秘薬を使って私の命を救ってくれた。

彼にはミルクを任せてもいい。

この時、私はそう思ったものだ。

もっとも、同時に複数の女性と付き合っている、いや、重婚をしていると言われたときは期待を裏切られた気分になったが、しかし彼には彼の理由があるのだろう。

私を倒すことができたら結婚を認めると約束したが、それは結婚を認めないということではなく、そのくらいの覚悟を持って結婚しろという忠告だった。

たぶん、あと数年、いや下手をすれば来年には彼は私以上の探索者になるだろうから。

だから――

彼が私を越えるまで、こんなところで倒れるわけにはいかないな。

目の前にいる数百、数千の魔物を前に私は気合いを入れ直し、拳を前に突く。

急いでここにいる魔物を倒し、外に残っている魔物もダンジョンの中に呼び寄せないと。

あいつらは自衛隊たちでは荷が重い。

トヨハツ製の新装備であっても対処できないだろう。

だが、思ったより数が多い。

何より統率が取れている。

おそらく、その原因はあいつだ。

二本足で立ち、杖を持つ猿。

軍師サルキウス。

その名前の由来は知らない。

力はないが、同じ部屋にいる魔物を種族問わず指揮し、探索者を襲わせる魔物だ。

日光ダンジョンと石切ダンジョンの五十階層より下に現れる。

あいつがいるせいで、逃げ道を常に塞がれている状態にある。

あいつを倒すことができれば――

と私は拳を突いた。

基礎格闘スキルの遠当てによる遠距離攻撃。

別の魔物が盾代わりになって私の攻撃は届かない。

それになんだ?

サルキウスの後ろから大きな音とともに何かが近付いてくる。

あちらはダンジョンの下り階段のある方向。

だが、ダンジョンの奥に潜った師匠たちではない。

配信クリスタルだけでなく、ダンジョン内の転移陣まで使用不可能な状態になっている現在、師匠たちとは連絡が取れていないし、師匠たちが異変に気付いて戻って来るには早すぎる。

となると、別の強大な魔物が生み出されたか。

この状況で厄介な。

サルキウスも下品な笑いを浮かべている。

そして、笑いながらその首が飛んだ。

「なっ!?」

思わぬ背後からの攻撃に、サルキウスは何が起こったかわからぬまま絶命。

そして、その攻撃を仕掛けた者は――

「牛蔵さん、無事ですかっ!?」

その声は壱野くんのものだった。

彼は琵琶湖ダンジョンで戦っていたはずだ。

ダンジョンの入り口からではなく、ダンジョンの奥からなぜ?

いや、そういえば彼は非正規の方法でダンジョンに入る術を持っているのだったな。

その方法はいろいろ予想はできるが具体的にはわからない。

しかし、わかることはもう一つ。

「ああ、ここにいる。無事だ」

どうやらまた彼に助けられたようだ。