軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

小恐竜のあとしまつ

トヨハツ探索の狩りは組織力が際立っているな。

俺たちの戦い方とは全然違う。

あの兎束さん? が使っていた挑発ってスキルは凄いな。

姫が普段から使っている『注目の的』に似ているが、注目の的はあくまで戦闘中の敵のタゲを集めるものであり、あれだけ魔物を集めることはできないし、あそこまで追いかけられたりするものでもない。

「凄いですね。剣を使う暇もなく終わらせるなんて」

「お褒めいただき光栄です。実際に剣を使うことはほとんどありません。怪我をするようなことがあれば、安全衛生責任者がうるさいので」

安全衛生責任者?

そういう人がいるのか?

俺は相槌をうちながら、こっそりミルクに念話を送って尋ねる。

『ミルク、安全衛生責任者って 天下無双(うち) にもいたっけ?』

『うん、EPO法人は各事業所に一名の設置が義務付けられてるよ。明石さんがしてたはず。怪我をしない戦い方とか、事故が起こったときの対処などの研修をしたりするの』

『そんな研修受けた記憶がないんだが』

『してないからね。まだ努力義務であって罰則規定もないからしなくてもいいって姫が言ってたよ』

努力義務なのに努力を怠ってるのか。

『実際、守ってるのはトヨハツくらいじゃない? こっちは母体が自動車メーカーだから安全基準も大切なんでしょ』

確かに、安全に配慮してない自動車はイヤだもんな。

そして、安全に配慮して安全マージン以上に安全な戦い方を努力した結果があれか。

竜の鱗、竜の肉、Dコインを集めているトヨハツ探索の人を見て思った。

確かに凄い。

牛蔵さんを越えたい俺や、世界一を目指す姫の目指す戦い方とは根本的に異なるんだな。

「理事長! 大変です! 奴が出ました!」

奴? 一体何のことだろうか?

全然見えない。

たぶん、遠視とか千里眼とかそういう名前のスキルを持っているのだろう。

遠視?

そうだ、遠視の義眼があったな。

インベントリからこっそり掌の中に取り出す。

「奴――皆、急いで撤退の準備を!」

本城さんが撤退するように指示を出す。

皆が急いで竜の鱗を拾って集めた。

俺は目を閉じた。

遠くが見える。

あれは――デカっ!?

ヴェロトルより遥かにデカイ。

「なんですか、あれは!?」

「壱野さん、見えるのですか!?」

「え、えぇ、まぁ」

遠視の義眼はいくらでも悪用できる。

あまり話せないので、あいまいに頷いた。

「現れたのはティヴェロトルです。この階層でヴェロトルを大量に狩ると時折訪れるんですよ。いわゆる変異種ですね。ティヴェロトルは間もなくヴェロトルの群れとともにこちらに襲ってきます」

変異種――トレントみたいなものか。

そりゃあれだけド派手にヴェロトルを狩っていたら変異種も現れるか。

「なんで撤退するんですか? 竜の鱗を集める大チャンスじゃないですか」

「ティヴェロトルはヴェロトルを強化させる力があるんです。ティベロトルが一緒にいたら、先程の方法では倒しきれない。間違いなく狩り残しが出ます。以前、狩りをしようとして負傷者が七名出ました。回復薬で治療できましたが、以降、ティヴェロトルが出たら撤退することになっています。幸い、ティベロトルは数日したらいなくなるので」

いなくなる?

消えるのだろうか?

んー、でも勿体ないな。

大量に竜の鱗をゲットできるチャンスなのに。

ミルクとアヤメにある提案を念話で行うと、二人とも頷いた。

「皆さん、撤退なさるのでしたら貸し切りは終わりなんですよね? 俺たちが倒しちゃっていいですか?」

「え? いやいや、危ないですよ! ティベロトルにより強化されたヴェロトルの強さは三十五階層相当の魔物とも言われています。そしてその数は先ほどと同程度にもなりますよ。いくら皆さんであっても――」

「大丈夫ですよ。危ないと思ったら逃げることくらいはできますから」

「そうですか。皆、先に階段まで避難していろ! 兎束くん、君は残ってくれ」

「……え? あぁ、そういうことですか。わかりました」

兎束さんが一人納得するように言う。

どういうことだ?

『たぶん、私たちの狩りが失敗したら、兎束さんが囮になって私たちを守ってくれるのだと思いますよ』

アヤメが念話で言う。

『え? なんで? 別に囮なんてなくても俺たちなら逃げられるだろ』

『万全を期してだと思います。これだけ大人の探索者がついていながら、私たちが怪我をしたとなったら世間体も悪いです。それに、私たちはやっぱりまだ子どもなんですよ』

成人していても、高校生はまだまだ子ども……ってことか。

だったら、その囮の役割が必要ないくらい徹底的に敵を倒してやろう。

トヨハツ探索のほとんどは撤退し、残ったのは本城さんと兎束さん、そしてテイムしているヴェロトルのみ。

さて、ヴェロトル狩りのあとしまつ、やってやるか。

「ところで、泰良。さっき、遠くのティベロトルを見つけたようだけど、そんなスキル持ってなかったよね?」

俺が気合いをいれたところで、ミルクが笑顔で言う。

「それで、さっきからずっと手を握ってるんだけど、そこに秘密があるのかな? 一体、そのアイテムいつ手に入れたの? 双眼鏡のように遠くを見るだけの魔道具じゃないよね? あとでゆっくり説明してね」

あれ? ティヴェロトルよりもこっちの方が厄介な気がするぞ。