軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴェロトル殲滅作戦

名古屋ダンジョンの21階層より下は草原になっていた。

万博公園ダンジョンと同じ感じだな。

遠くの方に魔物が見える。

一キロくらい先か?

遠すぎて魔法も届かない――が

ミルクが銃を取り出して銃弾を放つ。

彼女は銃弾を放つときに引き金を引くのだが、それはタイミングを調整するための動作であり、本来は必要ない。

銃を撃って魔物を追い払っているのだろうか? と思ったら魔物が倒れた。

「命中! ダンジョンの中は風がないから当てやすいね!」

ミルクがもうスナイパーだ。

こいつ、草原のような視界が開けた場所では最強じゃないか?

一キロなんて気配探知の外だから俺も気付かずに狙撃されるぞ。

「では、階段を探しますね!」

アヤメが形代を複数飛ばして、上空から階段を探してくれる。

その間、魔物はミルクが倒してくれる。

今使ってるのは魔法で作ってる銃弾なので、弾が尽きることもない。

俺はやることがない。

「ミルク、こっちに向かってくる魔物は倒さなくていいぞ。遠くで倒されたらアイテムの回収もできないしな」

「うん、わかったよ」

「あと、間違えて人間は撃つなよ」

「そんなヘマはしないよ」

ということで、こっちに来た魔物――豹のような魔物を何匹か倒した。

暫くして、アヤメの形代が階段を見つけたのでそちらに移動。

魔物も見える範囲の敵はミルクが倒してしまったので、敵を警戒する必要もない。

「まるでピクニックだよね」

「そうだな。ダンジョンの中なら雨の心配もないし、穴場かもな」

寒くもなく暑くもない。

少しくらい風があったらいいのと、せめて野花でも咲いていたらいいのに。

花の種とか植えたら育ってくれないかな?

せっかくなので影の中にいるクロを呼んで歩く。

二十二階層も同じように攻略し、二十三階層の祭壇を素通りし、二十四階層もまた同じ方法で攻略。

そして、二十五階層にやってきた。

階段の横には、係員に言われた通り呼び鈴の置かれた折り畳み式のテーブルが設置されている。

こういう道具って放っておけばダンジョンに吸収されるはずなのだが、テーブルの上に小さな角の生えているウサギが乗っていた。

ウサギの横には草と水、それぞれ入っている皿が置かれていた。

『テイムされているアルミラージです。攻撃しないでください』

と書かれていた。

あぁ、魔物をテイムさせて留守番させることで、テーブルや荷物が吸収されるのを防止してるのか。

これなら留守番用の人員を置く必要がない。

上手に考えたな。

「荷物を盗まれる可能性は考えてないのか?」

「ここまで来られる探索者はほとんどいないからね。入場時に受付にチェックされてるし、この荷物が盗まれたら犯人は私たちしかいないんじゃないかな?」

「そりゃそうか。じゃあ、二十五階層も登録したし、帰るか」

貸し切りだからここでドラゴン――ヴェロトル退治はできない。

迷宮転移(ダンジョンワープ) を使って21階層に戻ろうとしたときだった。

「なにかこっちに来ますよ」

アヤメが誰かに気付いた。

あれはヴェロトルか?

魔物に気付かれた。

戦闘ができないのなら、急いで逃げないといけないと思ったが、よく見ると誰か乗っている。

「君たち、すまない。話を聞いていると思うが、この階層は現在貸し切りなんです。非常に危険な状態でして、もしも26階層に行くのなら階段まで案内をさせていただきます」

そう言ったのは眼鏡をかけた、50歳くらいの男性。

ダンジョンの中よりも、オフィスにいるようなチョビ髭、丸眼鏡のおじさんだった。

「本城悟さんですよね。お久しぶりです」

「…………? あ、もしかして牧野氏のお嬢さんですか? ということは、チーム 救世主(メシア) の?」

「はい。壱野泰良と、東アヤメです。こちらは本城悟さん。確か、いまはトヨハツ探索の理事長でしたよね?」

トヨハツ探索は日本の自動車メーカー複数社が出資して立ち上げた探索者支援組織で、今年からEPO法人になった団体だ。

EPO法人の貢献値ランキングは第二位と、俺たちの所属している天下無双よりも上。

そして、法人の規模は桁違い。

その代表がこのさえないおじさんなのか?

「ええ。探索者としての実力は高くないんですけどね。妻がトヨハツグループの会長の孫で、そのコネで――」

本城さんは自嘲して、僅かに髪が生えている頭を搔きながら言った。

「そのチーム 救世主(メシア) の皆さんには一度お礼を言いたかったので、こうしてお会いできてよかった」

「お礼ですか?」

礼を言われるようなことはした覚えがないんだが。

「たとえばそこのアルミラージやこのヴェロトルは皆さんが開発なさった捕獲玉のお陰で使役できています。なによりミスリルの安定供給がありがたい。ミスリルの魔物を倒すのは厄介でね。こちらも準備が必要でそれにかかる必要経費を考えると、ダンジョン局から購入したほうが安上がりになったんですよ。お陰で、こうしてドラゴンの鱗集めに集中できます。あぁ、よかったら見学していきますか? これから大規模のヴェロトル狩りを行うので」

ヴェロトル狩りか。

最近は個人のダンジョン配信も見るようになってきたが、大企業の狩りって見たことがないな。

俺たちの戦い方の参考になるかもしれないし、見せてもらおうか。

俺たちは本城さんの案内で草原を進む。

まぁ、進み始めて直ぐに遠くに多くの人影が見えていたので、案内は必要ないんだけど。

目的地に到着する。

そこにいたのは五十人ほどの探索者。

うち、三十人は髪の色がカラフルなことになっている。きっと、ミルクやアヤメと同じ覚醒者なのだろう。

「理事長、そちらの方々はチーム 救世主(メシア) の方々ですよね?

若い――といっても三十代手前くらいの男の人が尋ねた。

テレビで放映されたばかりだし、わかる人にはわかるのか。

やっぱり有名人になったな

「あの子って、ほら、鳩の」「ああ、鳩の」「鳩が」「……鳩」

……鳩の方が独り歩きしているみたいだ。

こそこそ話しているつもりかもしれないが、全部聞こえている。

ミルクが恥ずかしそうにしている。

そろそろ忘れてあげて欲しいが、ネットでも拡散してるので無理だな。

デジタルタトゥーは本当のタトゥーよりも消えない。

「今日は彼らに見学をしていただきます」

「いいのですか?」

「ええ。別に今回の作戦は機密もなにもありませんからね。それで、進捗具合は?」

「はい。囮役、十五分で到着します」

「そうですか。では、皆さん、こちらの椅子でお寛ぎください」

そう言って折りたたみの椅子を用意してくれた。

わざわざ椅子を持って移動しているのか? と思ったが、これかなり軽い。

どこで売っているんだろう?

鑑定したところ、折り畳み椅子と表示されたのでアイテムとして認識されているみたいだから、インベントリにも入りそうだ。

これって一般販売されているのだろうか? あとで聞いてみよう。

「皆さん、来ましたよ」

本城さんが言う。

来た?

一体何が?

と思って目を細めると、何かがこっちに来る。

遠くてまだよくわからない。

それはだんだんとこちらに近付いてきて――

「え?」

一番前を走っているのはかろうじて人間だというのはわかった。

そして、その後ろにはヴェロトルが大量にいる。

その数、十や二十どころではない。

かつて俺が二十一階層で見たブロンズゴブリンの群れ以上のヴェロトルの群れが、一人の人間を追いかけていた。

「本城さん、あれは!?」

「先頭を走るのはそちらの押野さんと同じ、俊敏の 尖端異常者(シャープアブノーマル) の持ち主です。彼は挑発という敵をおびき寄せるスキルを持っていまして、こうしてフロア中を走り回って、階層にいる全てのヴェロトルを集めて貰っています」

階層全ての!?

こう言ってはなんだが、この草原の階層はとても広い。

そこを走り回って魔物を集めているのか。

そしてヴェロトルの群れはこちらに近付いてきた。

ようやく一番前を走っている男性の顔が明らかになる。

随分と余裕そうな表情だ。

彼は急にギアを上げて俺たちのところに辿り着いた。

「本城さん、ただいま戻りました」

「お疲れ様です、兎束くん。では第一射、お願いします」

次の瞬間、覚醒者の半数が魔法を放つ。

火の魔法と風の魔法、そしてエネルギー弾みたいなのは無魔法か?

それら魔法の雨がヴェロトルの群れに撃ち込まれる。

それでもあまり効果はないように思える。

「第二射、お願いします」

悟さんの指示で、今度は水と土、さらに氷と光の魔法が放たれた。

魔法同士が邪魔にならないように属性をわけて使っているのだろう。

と、今度は魔法使いたちが杖からボウガンに持ち替えている。

「第三射、どうぞ!」

次に放たれたのは矢の雨だった。

もう既に七割のヴェロトルが息絶えている。

でも、これで流石に打ち止めか?

と思ったら――

「本城さん、お願いします!」

「はい。では――解放: 雷神の裁き(トールジャッジメント) 」

軽い口調で放たれた本城さんの魔法が残ったヴェロトルを駆逐していく。

何が探索者としては大したことがないだ。

その雷が止んだとき、立っているヴェロトルは一頭もいなかった。テイムされている一頭を除いて。