軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【閑話】花蓮のアルバイト-4

「…………これは流石にマズいっすよね」

発注書を確認すると、そこに書かれている金額は1000万円という十六歳になったばかりの高校生には関係ないとしか思えない金額。

うーん、やっぱり減らした方が、せめて十分の一にした方がいい。

発注量をこれ以上減らすと、大口注文から個別注文に変わって、発注単価が大きく変わってしまう。

でも、失敗するくらいなら――

「って、あたしは何をやってるっすかっ!?」

あたし、胡桃里花蓮が水野師匠のところでアルバイトを始めて一か月が過ぎた。

そう、アルバイトだ。

決して、正社員じゃないし、ましてや役員じゃない。

なのに、なんで1000万円の注文書を作ってるのか?

いや、原因はわかってる。

あたしがレベル15になったとき、簡易魔道具作製というスキルを覚えたことが始まりだった。

簡易魔道具作製というのは、水野師匠が使える魔道具作成の劣化版だ。

いや、あながち劣化版とは言えないか。

魔道具作成というのは、レシピを読めばいろいろな魔道具を作れるようになるスキル。

簡易魔道具作成というのは、レシピを読んでも作れる魔道具は増えないけど、代わりにレシピが無くても特定の魔道具(個人によって変わる)をレシピ無しで作れるようになるスキル。

魔道具のレシピは貴重なため、レシピが無くてもいいというメリットは大きい。

ただ、あたしが作れる魔道具は魔石ランタンという、魔石を燃料に光る魔道具だ。

これ、かなり意味がないアイテムだ。

既に、魔石の燃料化は進んでいて、魔石を電気に変える技術が進んでいるので、わざわざ魔石を直接燃料として使うランタンを作る必要はどこにもない。

しかも、素材には高価なダンジョン素材をたくさん使っているらしく、一つ作るのに10~20万円かかる始末。

一応、このランタンをたくさん作って簡易魔道具作成の熟練度を上げれば他の魔道具を作れるようになるらしいけど、そのためには何億、何十億というとてつもないお金を消費することになる。

水野師匠にそう愚痴をこぼしたことが全ての原因だった。

『はぁ……あたしの二個目のスキルはとんでもなく意味のないスキルだったっすよ』

『それはどうかな? とりあえず作ってみたら違った見え方もあるかもしれないし。素材リストを見たけど、全部一般に出回っているダンジョン素材だし、うん。いくつか作ってみる?』

『え? でも、水野師匠。捕獲玉の模造作業がまだまだ残ってるっすよ?』

『それは気にしないで。花蓮ちゃんが来たお陰でだいぶ納期に余裕ができたから。その代わり――はい、発注から頑張ってみよっか。大丈夫、わからないところは教えるから!』

と発注書の書き方を教わったのが原因だった。

一つ作るだけでいいのかと思ったら、せっかく作るなら売りに出すから、10個単位で。どうせなら200個くらい作ってみようって言われた。ちなみに水野師匠のお勧めは素材の販売単価が安くなる100個らしい。

でも、いざ100個分の素材の注文書を作ってみたら、素材の予算が約1000万とわかり、あたしは流石にこれはダメだと思った。

だったら、素材10個分に減らすべきではないかと思った。

これなら素材の予算は130万円に減る。

うちの給料はいま、週3回働いていて時給+歩合給で月40万貰っている。

週3日しか働いていない、普通の高校生が貰っていい給料ではないと思う。

あと、土日のみの仕事のはずがなぜ週3勤務に増えているのかわからない――たぶん自主的に増やしたと思うけど。

それでも130万円は大金だ。

赤字が出ても気にしなくていいって言われたけど、気にしないわけがない。

「はぁ……これ、パワハラじゃないっすか? 仕事を任せるにしても、手順があると思うんっすよね。信頼の押し売りっすよ」

「信頼の押し売りかぁ……確かにそうだね」

「うわっ、水野師匠、聞いてたっすか!?」

「聞いてるもなにも、二人きりの職場だからイヤでも聞こえるよ」

あたしは、ただ愛サボテンのミーくんに話しかけていたはずなのに、水野師匠に聞かれていた。

観葉植物に話しかけるとストレス解消になる上に自分の考えを纏めるのにも最適だけど、同じ部屋にいる人に聞かれてしまうのが難点だ。

「売れないと思ってるものを大量に注文するのは怖いっすよ」

「じゃあ、とりあえず一個だけ見本で作ってみて、あとは受注生産にしてみる?」

「……そうしてもらえると助かるっす。欲しいって言われた分はしっかり作るから、お願いするっす」

「そう? じゃあわかったよ」

こうして魔道具の素材が届いた。

綺麗な魚の鱗、白い魔石、そして魔銀。

ガラスの素材となる魔砂は元々工房にあった。

なんでも、鏡を作る素材に保存していたみたいだけど……あれ? でも、水野師匠が作れる魔道具に鏡なんてなかったような……え? それは気にしないでって? もう作らないから?

いったい何を作ったのか。

と尋ねたら世界の闇を抱え込む覚悟があるか聞かれた。

わかりました、気にしません。

はい、世界の闇を抱え込む覚悟なんてありませんよ。

さぁ、光のランタンを作る。

と言っても――

「やっぱり初めて作る魔道具は集中しないといけないっすね」

「人をダメにするソファに座って言われても説得力ないよ」

「いやぁ、これに座って作業をするのが癖になったっす」

あたしの初給料で買ったのはサボテンのミーくんで、その次に買ったのがこれと同じソファだ。

確かにソファに座ると集中力が欠如しやすい。でも、他の椅子では満足できない体になってしまった。

水野師匠の優しくも厳しい修行のお陰で、0.1ミリ単位でイメージ通りの形にできるようになったといっても、品質を最高に保つには、やっぱり生半可な気持ちで作業をしてはいけない。

特に、今回は見た目だけでなく性能も考慮しなくてはいけないから、いつもの二倍、いや、三倍は集中する必要がある。

いま作業している水野師匠のように。

「…………」

「ん? 花蓮ちゃん、どうしたの?」

「……水野師匠の魔道具作成はいつ見ても綺麗だなって思っただけっす」

「もう、なに変なことを言っているのよ」

変なことではない。

最初働いていたときはわからなかったけど、水野師匠の魔道具を作るときの佇まいは本当に美しい。

一流の茶人は、その立てる茶の美味さだけでなく、茶を立てるときの佇まいも一流であるかの如く、水野師匠のその姿は美しい。身体の芯から指先に魔力と技術が伝わっているのがわかる。

人をダメにするソファに座っているのに全然ダメになっていない。

そういう一流の姿を見て、それをイメージして、

(師匠のように美しい魔道具を作りたい)

そう願い、あたしは力を込めた。

そして――

「……できた」

光のランプが完成した。

試しに、一個400円もする魔石(黒)を入れてみると、眩い光が放たれた。

光量を調整する。

「綺麗」

ただのランタンの光だけど、でも、あたしが作ったランタンの光だ。

もしかしたら、初めて白熱電球を作ったトーマス・エジソンもこんな気持ちだったのかもしれない。そんな風に思う。

でも、やっぱりこれは普通のランタンだけどね。

何十万円も払ってこんなランタンを買おうとする人なんて現れるわけが――

「花蓮ちゃん。例のランタン、1200個の注文が入ったよ」

水野師匠がそんなことを言ったのはあたしが初めてランタンを作ってから一週間後のことだった。

「え!? な、なんでっすかっ!?」

「友だちに鑑定してもらったんだけど、あのランタンの光って、微弱な光魔法と同じ効果があるみたいなんだよ。といっても、本当に弱くて、最低ランクの 不死生物(アンデッド) の浄化くらいしかできないんだけど」

「光魔法っすか……で、でも、弱いんっすよね?」

「うん。倒せる魔物っていったらゴーストくらい」

ゴーストといえば、四階層に現れる、無属性の物理攻撃を無効化する能力を持つ魔物だ。

確かにそれを倒せるのは非常にいいことっすけど、ゴーストに悩んでいるのは低レベルの探索者。

そんな人が大金を払ってこのランタンを買うとは思えない。

「あのね、いま、ゴーストが落とす霊珠が世界中でものすごく不足しているの。霊珠を銃弾に作り替えることで、ダンジョンから溢れた魔物に対して一定のダメージを与えられることがわかったから。でも、ゴーストを倒すには魔法を使うか、翡翠の勾玉を投げるかしないといけないんだけど、魔法を使える人間は少ないし、そういう人は直ぐに強くなるから霊珠を集めてお金を稼ぐ必要はないし、翡翠の勾玉も霊珠の値上がりに応じて値上がりしてる。そんな時に誰でも簡単にゴーストを倒せる魔道具ができたって思ったらどうなると思う? ちなみに翡翠の勾玉は投げて使うから壊れやすいけど、このランタンは滅多に壊れないし、避けられる心配もない」

「え?」

「まず、防衛省から100個注文が入ったよ」

「は?」

「霊珠不足は世界中でも起こってるから、世界中から注文が入った」

「あの……」

「事態に気付いて、受注開始して一時間で受注停止したけれど、既に1200個の注文が……」

「それって……」

「花蓮ちゃん。欲しいって言われた分はしっかり作るって言ってたよね? 安心して、素材の注文はもう終わってるし、期限も十分あるし、花蓮ちゃんの報酬の取り分は最大割合にするし、EPO法人の正会員にすることで、税制優遇も可能にして独立して同じランタンを売るよりも儲けが出るようにしてくれたから」

「そういう問題じゃ……」

「……ええと、無理そうなら断るけど、どうする? 私もいろいろ仕事抱え込んでいてそっちの方は手伝えそうにないんだけど」

水野さんが心配そうに尋ねた。

水野さんの仕事の量を思い出し……なんかうちもこの程度で倒れてはいけないような気がしてきた。

「……可能な限り、頑張るっす」

バイトの日を一日増やそうかと思う。

大丈夫、なんとかなる。

「ありがとう。でも、本当に無理しないでね。私の捕獲玉の模造品作りも並行して頑張ってもらわないといけないんだから」

やっぱり二日増やすことにする。

あと、サボテンももう一個追加で買うことに決めた。