軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お義父様へのご報告

牛蔵さんが行きたいと言った場所はダンジョン学園だった。

ミルクの母親は家の掃除をするからと先に帰り、ミルクが代わりに牛蔵さんの世話をする。

俺たちはダンジョン学園の外側の入り口から中に入る。

そして、そのまま闘技場に向かった。

円形闘技場。

ローマのコロッセウムは実はこんな感じなのだろうか? と思わなくもないが、ローマの闘技場は戦いの舞台は地上であって、地下は剣闘士の控室だった気がするので、やっぱり違うとも思う。

その闘技場に、まさかこうも連続で立つことになるとはな。

だが、前回とは違う。

前回は、勝つことが前提の出来レース。

八百長とは言わないが、勝つことは決まっていた。

だが、今回は――

「この戦い、俺は死ぬかもしれないな」

「死んでも生き返るじゃないか」

ダンプルが言う。

どこから現れた、黒マシュマロ。

俺のうざい物を見る視線を受け止めて、

「そんなことを言うなら、痛みを感じない身代わりの腕輪に変えてくれよ」

「ははは、前回の戦いで思ったよ。痛み無くして成長無し。人間は痛みを感じて成長する生き物だろう? だから、闘技場の中では痛みを感じる腕輪を使ってもらうことにした」

それらしいことを言っているが、ドSなだけな気がする。

とはいえ、痛みには上限を設定してくれている。

死ぬと思うような痛みを感じることはあっても、実際にショック死するような痛みではないらしいが。

身代わりの腕輪を確認し、火鼠の外套、二本の剣、各種装飾品、さらに状態異常対策に八尺瓊勾玉も確認し、再度剣を確認する。

最後に体力継続回復薬を飲んだ。

これで一定時間、減った体力が回復し続ける。

これがオリンピックの競技だったらドーピングで失格だが、探索者同士の対決の場合、補助薬や補助魔法も許される。

……そういえば、以前、俺と戦ったダンジョンエクスプローラーズの三人もドーピング薬を飲んで俺に戦いを挑んだらしい。その後、薬の副作用で丸一日苦しみ抜いたと聞く。

と話が逸れてしまったが、つまり、こういう薬を飲むことは問題ない。

いや、むしろそういう準備を怠るのは探索者として愚かと言える。

ここまで念入りに装備を確認したのは初めてかもしれない。

「じゃあ、僕は管理人室で見ているからね」

と言い残してダンプルが消えた。

俺は再度集中し、選手控室から闘技場へと向かう。

そこに牛蔵さんがいた。

「待っていたよ、壱野君」

彼は笑顔で俺を出迎える。

革の鎧と兜。金属の籠手。

格闘技スタイルか。

観客席にはトゥーナがいるが、ミルクがいない。

「ミルクには少し席を外してもらっている。ミルク抜きで君と話がしたかったんだ。壱野くん。君はダンジョンの何階層まで行っている?」

「31階層でシルバーゴブリンの群れと戦っています」

「ふっ、31階層か。まだダンジョンに入って半年にも満たない少年が。だが、そこまで潜れるのなら本気で戦ってもいいだろう」

「本気で?」

「ああ、君とは一度しっかり拳を交えないといけないと思っていたのだよ」

と牛蔵さんが笑っているが、なんか凄みを感じる。

もしかして、ミルクがいないのはミルクに俺をボコボコにするところを見せたくなかったからか。

「上松と私は兄弟弟子でね。なんでも隠し事なく話し合う仲なのだが、ミルクの様子を聞こうと電話で連絡を取ったときどうも歯切れが悪くてね――」

ギクリ。

上松とは上松防衛大臣のことだ。

あの人には富士山の魔物侵攻での戦いから生駒山上遊園地ダンジョンでの戦い、そしてトゥーナのことを含めて色々と世話になっている。

そして、俺の秘密の一つを知っている人でもあった。

嫌な予感がするが、大丈夫なはずだ。

あのことが口外されるということは。

「だが、彼は存外口が硬い男でね。まったく話してくれない」

と牛蔵さんは深いため息を吐いた。

よかった。

さすが上松防衛大臣。

体育会系な感じでいても、機密事項はしっかりと守ってくれている。

だから俺たちの関係は――

「わかったのは、君とミルクがただならぬ関係にあるだろうという推測だけだ。だから、君の口から聞かせてもらえるかね? 壱野くん」

アウトだった。

誤魔化すことはできる。

誤魔化すことはできるが――それはできない。

それは牛蔵さんを裏切ることになる。

「……黙っていてすみません。牛蔵さん。俺、壱野泰良は牧野ミルクさんと交際を前提に結婚させていただいています」

正直に伝えた。

牛蔵さんは黙った。

そして、深いため息を吐く。

「私は常に思っていた。ミルクにはパパより強い男としか結婚させないと。だがね、それでも君とならばいいと思っていた。君は見所がある。君たちの配信はアメリカでも見ていた。随分と頑張っていたようだね」

「牛蔵さん……」

「君からは多大な恩を受けているし、なによりミルクが君のことを好いているのも気付いていた。最近は君にお義父さんと呼ばれるのも悪くないと思うようになってきた。私は二人の結婚を祝福させてほしい」

「牛蔵さん……ありがとうございます」

俺は泣きそうになった。

尊敬していた人、憧れていた人、そんな人に認められたのだから。

「じゃあ、今日俺をここに呼び出したのは、ミルクさんと黙ってお付き合いをさせていただいたことへの罰ではなく――」

「ははは、そんなわけがないだろう。確かに黙って付き合ったことはどうかと思うが、二人とも成人した大人だし、 節度ある(・・・・) 付き合いをしていると信じているからね」

言葉が突き刺さる。

「しかし、言葉は正しく使いなさい。交際を前提に結婚ではなく、結婚を前提に交際だろう?」

「えっと、それは事情があって、先に婚姻届を提出してからお付き合いをさせていただくことになったんです」

「……ん?」

牛蔵さんが固まった。

ここはちゃんと説明をしないといけない。

PDのことを説明せずにどう説明すればいいのかいいだろうか?

「……泰良様とミルク様はとてもいい関係で仲睦まじい。理想の夫婦」

とそこに観客席にいたトゥーナが助け船を出してくれた。

彼女には俺たちが結婚していることは伝えていないはずだったが、俺の感情は理解してくれているのだろう。

そうだ、ここは女性の立場としてトゥーナの意見に便乗し――

「…… 他の二人と(・・・・・) 同じくらいに(・・・・・・) 」

あ、終わった。