軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牧野牛蔵の実力

「どういうことかな? 壱野くん」

牛蔵さんは笑顔だが、殺気に近いオーラを放っている。

さっきから全身に鳥肌が立っている

常人ならば、いや、普段の俺でも気絶していただろう。

こうして立っていられるのは八尺瓊勾玉による状態異常を無効化する効果のお陰か。

「はい。実は牧野ミルクさんだけでなく、東アヤメさんと押野姫さん三人と結婚させていただいています」

「それは何の冗談だい?」

「生駒山上遊園地のダンジョンを確実に攻略するためのスキルの制約で三人と結婚する必要があったんです。そうしなければ、生駒山上遊園地のダンジョンの攻略はできなかったので――上松大臣に特別に許可をいただきまして」

俺がそう言うと、牛蔵さんから溢れる怒気が和らいだ気がする。

生駒山上遊園地での戦いがどういう物か知っているんだろう。

実際、他の国では死者も出ているし、それに伴う魔物の大量発生も起きている。

「そうか……上松が……道理で私に何も話さないはずだ。そんなの特例にしても特例過ぎる」

「はい。両親にもまだ話せていません」

「それで、どうするのかね? 他の二人とは離婚して――いや、そもそもそのような婚姻届けは正式に受理されていないだろう。それを反故にしてもらい、ミルクちゃんとだけ結婚するのかね?」

「すみません。それはできません。俺は三人を幸せにすると約束しましたから」

途端、これまでにない怒気が俺を襲ってきた。

かつて西条虎が俺に見せた威圧とは違う。

これが関西三位の実力。

「壱野くん、君の実力を見るだけのつもりだったが、本気で勝たせてもらう。君が私に勝てない限り、ミルクとの結婚は認めない」

「……わかりました。俺も胸を借りるだけのつもりでしたが、本気で勝ちに行かせてもらいます」

あの力に対処するには――

俺は剣をインベントリにしまう。

「どうした? 剣を使わないのか?」

「ええ。今の状態だと牛蔵さんの攻撃をくらったら指先一つでダウンしてしまいそうなんで――」

と俺は影獣化を使う。

「ほう、それが影獣化か……雰囲気が変わったな」

これにより、八尺瓊勾玉の効果は失われてしまったが――大丈夫だ。

影獣化を纏っているため牛蔵さんの怒気を直接肌で感じない分、気絶することはなくなる。

これで戦いの準備は――と――

「クロ――出てこい」

俺の鎧からクロが出てきた

影の鎧が初期バージョンに戻る。

「クロ、悪いがこの勝負は牛蔵さんとの一対一の勝負なんだ。観客席で見ていてくれ」

「…………わふ」

クロが「無事を祈っている」みたいなことを言って、観客席にジャンプしようとして――見えない壁みたいなものに衝突した。

少し痛そうだ。

『闘技場の周囲には見えない結界があるから、選手控室から観客席に移動してね』

とダンプルの声が聞こえ、クロは忌々し気に虚空を見上げ、選手控室に移動した。

悪いな、クロ。

この勝負、一対一で勝たないと意味がないんだ。

改めて牛蔵さんと向かい合う。

「どこからでもかかってきなさい」

そうは言うが、どこにも隙が見当たらない。

どこを狙っても反撃を食らいそうだ。

だったら、まずは――

俺は拳を前に突き出す。

と同時に身体の中から黒い影がエネルギー弾のように飛んでいく。

並の魔物だったら一撃で倒すことができる攻撃なのだが、牛蔵さんは風をも切り裂くような拳で叩き落とす。

その一瞬に隙ができることに期待し、一気に牛蔵さんとの距離を詰めたわけだが、二撃目が想定より遥かに早い。

俺は腕を上げて受け流すが、その衝撃はすさまじく体が大きく揺れる。

牛蔵さんは間髪容れずにもう一発の拳を繰り出す。避ける間もなく、その一撃が腹部に深く食い込む。

息が詰まり、身体が一瞬硬直するが、倒れるわけにはいかない。

痛みに耐えながらも全力で拳を振りかざし、相手の顔面を狙う。

衝撃が拳から腕へと伝わり相手がわずかに後退するのを感じた。

攻撃が通じた――いや、わざと受けたのか。

「中々の一撃だ」

こちらは腹部への一撃を受けただけで意識を持っていかれそうになったのに、牛蔵さんは余裕そうだ。

これでまだ呪いを受けている状態というのだから、この人は化け物か。

「では、次はこちらから行くぞ」

牛蔵さんがそう言った途端、彼の拳が閃光のように襲いかかる。反射的に身を捻ってかわすが、すぐに第二撃が迫る。その速さと力に、受ける度に骨がきしむような感覚が走った。

こちらも負けじと逆襲に出る。

一歩踏み込みから、全身の力を込めた拳を相手の脇腹に叩き込もうとするが、次々と繰り出される拳がまるで嵐のように全身を襲う。防御しても僅かな隙間から鋭い一撃が食い込み、痛みが体中に広がる。

反撃の糸口が掴めない。

だったら――

「解放: 地獄の業火(ヘルファイア) っ!」

俺は自爆覚悟の闇の炎を俺と牛蔵さんの間に放つ。

火のダメージは火鼠の外套と対応力により底上げされていた火耐性により防ぎつつ、爆風を利用して牛蔵さんと距離を取る。

今の俺の一番の攻撃だ。

この一撃で倒せるなんて甘い考えは持っていないが、しかし多少なりともダメ―ジを与えていれば、牛蔵さんの動きも鈍くなり、少しはいい勝負になるはず。

そう考えた。

爆炎の中で、しっかりとした足取りで歩いてくる牛蔵さんの姿を見るまでは。

「中々の威力だ。君の思惑通り多少なりともダメージを受けてあげたかったのだが、すまない。私は魔法が著しく効きにくい体質でね。その程度ではほとんどダメージを受けないのだよ」

彼は少し焦げた髪を触りながらそう言ってのけた。

「さて、ウォーミングアップはこのくらいにしようか。次からは私もスキルを使うとしよう」

俺の本気が全く届いていないどころか、牛蔵さんはまだ本気を出していなかった。

こりゃ手も足も出ない。

その圧倒的な実力差を前に、俺は何故か――

「ふふ……」

笑っていた。