軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牛蔵の帰国

「はい。はい。ありがとうございます。是非よろしくお願いします。いえ、こちらとしても嬉しい限りです」

とハキハキと電話で喋っているのはエルフの女王――トゥーナだ。

普段は小さい声で必要なことしか喋らない感じなので非常に珍しい。それに緊張もしているようだ。

相手は一体誰だ?

上松防衛大臣相手ですら彼女は普通に話している。

そんな彼女が緊張する相手……総理大臣? アメリカ大統領? まさか、影の支配者!?

「では、当日はよろしくお願いします」

と言って電話が終わった。

「……ふふふ」

トゥーナが小さく笑う。いつもの口調に戻ったが、とても嬉しそうだ。

普段無表情な彼女が絶対に見せることのない笑顔。

……もしかして、好きな男性ができたのか!?

だから緊張していたのか!?

「……? 泰良様、いたの?」

「ああ。さっきPDから帰ってきた。ところで、さっきの電話……いや……ええと」

聞いていいことなのか?

「……とても大切な電話」

「そうか、大切なのか」

「……ん。夢が叶う」

夢が?

トゥーナの夢は自分の世界を救うことだったはずだ。

もしかして、自分の世界を救う方法がわかったのか?

だとすると、相手は異世界に対する造詣の深い人物――トップランカーの探索者?

でもこれで──

「やっとトゥーナも自分の世界を救うことが――」

「……カレーメーカーのCM出演という夢が」

「でき……は? え? もう一度言ってくれ」

「……ん。市内の大手カレーメーカーの本社に見学に行く許可を貰って、そこで社長と会って、CM出演が決まった。これで、トゥーナのカレーの魅力を世界に伝えるという夢の第一歩に繋がる」

「お前の夢は自分の世界を救うことだろうがっ!」

「……もちろんそれは大願。でも、一度滅んだ世界を簡単に救えるとは思っていない。ゆっくりと救う」

それでいいのか、エルフの女王。

まあぁ、急がれて俺が「まだ? まだ?」と聞かれるよりは遥かにいいのだが。

「さて、出掛ける準備でもするか……」

「どこに行くの?」

「関空――関西国際空港だよ。ミルクとあいつの親父さんを出迎えに行くんだ。ここからだと車で一時間半くらいかかると思うが……トゥーナも一緒に来るか?」

「……ん、一緒に行く」

うん。空港って単語を聞いたとき、一瞬耳がピクっと動いたから興味を持ったと思ったが、やっぱりそうだったか。カレー以外で興味を持つのは珍しい。

いや、もしかしたら関西国際空港限定カレーとかがあるのかもしれない。

トゥーナには認識阻害の効果のある変身ヒーローマスクを装着してもらい、周囲からエルフだと気付かれないようにしてもらい、ミルクと一緒にハイヤーで関空に向かった。

俺たちが乗っている車の周囲に黒い高級外車が展開しているが、全部トゥーナの護衛なので気にしない。

「ところで、牛蔵さんって何時に到着するんだ?」

「何時だったっけ? プライベートジェットだからちょっとわからないよ」

「プライベートジェット……金持ちはスケールが違うな」

保有するだけでも何十億円もかかって、維持費も数億円必要だそうだ。

「んー、でも私たちも新婚旅行までには買っておきたいよね」

「え? マジで?」

ファーストクラスとかならまだよかったけれど、ミルクってそういうのが欲しいタイプだったのか。

「うん。だって、移動中にずっと拘束されてるのはイヤでしょ?」

「え? 移動中に拘束?」

なんのことだって思ったが、ある条件下の探索者は飛行機で自由に移動できない。

例えばアイテムボックス持ちは、自由に危険物を持ち込みできるし、鍛冶スキル持ちは金属さえあればその場で武器を作ることもできる。

過去に一度、アイテムボックス持ちによるハイジャック事件もあったらしい。

そのため、レベルの高い探索者がパスポートを取る時は事前にダンポンのところでそういうスキルを持っているかどうか検査され、仮に危ないスキルを持っていると判断された場合、ある程度自由を拘束される。

その点、プライベートジェットならば拘束される心配はない。

トゥーナなんて特にダンジョンの外でも魔法を使えるから、普通の飛行機だと拘束されても乗れないかもしれない。普通の飛行機の搭乗許可を政府が出すかどうかは別として。

「トップランクの探索者って金がかかるんだな」

30億円を貰った時にこの先お金に困ることはないって思ったけど、実はそうでもないのかもしれない。

関西国際空港に到着。

まだ時間があるので、展望デッキに移動し、飛行機を見ることに。

大海原を切り取ったような滑走路が、遠くまで続き、その先には大阪湾の穏やかな波がきらめいていた。

飛行機が離陸して青空に溶け込むように飛んでいく。

あの飛行機に多くの人が乗って、別の土地に向かっているって思うと感動するな。

「いい場所だな。告白するならこういう場所の方がよかったか?」

「大切なのは告白される場所じゃなくて、告白してくれる人だよ。私たちにとってあの公園は特別な場所なんだからそれがよかったんだよ」

とミルクが嬉しいことを言ってくれる。

そしてこの場所に来たかったトゥーナは――

「……凄い。大きくて立派」

飛行機が大好きな子どもにしか見えない。

いや、無表情だから感動しているようには見えないか。

ただ、見た目が子どもなお陰で、変身ヒーローマスクをつけていても、カワイイ子どものように見えるから助かるよな。これが俺だったら、かなり痛い高校生になってしまう。

もう少しカレーCMが決まったときのように喜んで欲しい。

が、実際のところはこの技術をどうにか魔法で再現しようとしているらしい。

土魔法で精巧な飛行機の小型模型まで作っている。

ジェットエンジンとかは完全に真似できないと思う――地球でもまだ魔石を使った飛行機はセスナ程度の小型飛行機しかできていなくて、魔石で動くジャンボジェット飛行機は作られていないが、もしかしたらトゥーナなら完成させることができるかもしれないな。

俺たち三人(+周囲に展開されているトゥーナの護衛たち)は暫くこの景色を堪能し、そして軽く食事をして牛蔵さんを待った。

ミルクの母親から連絡が届いたのは食事を終えてから三十分後。

これから手続きをするそうなので、帰国ゲートに行き、さらに待つ。

そして――

「パパ! ママ!」

ミルクが声を上げた。

「おぉ、マイスイートエンジェル! 会いたかったぞ! この日をどれだけ待ち望んだことか!」

車いすに乗った牛蔵さんが、奥さん――ミルクの母親に押されて現れた。

牛蔵さんは両手を広げてハグしようとするが、ミルクはそれを遠慮し、広げた片方の手を握って、反対の手で母親の手を握りお帰りなさいと微笑む。

二人がある程度再会を喜びあったあと、俺は遅れて挨拶をする。

「牛蔵さん、お久しぶりです」

「やぁ、壱野くん。わざわざ来てくれてすまないね。そちらは――」

「……トゥーナです。泰良様の家でお世話になっています」

「おぉ、君が!? そのマスクは認識阻害のものだったのか。お会いできて光栄です。このような姿で申し訳ない」

「……ん、こっちが勝手に押し掛けたのが悪い。気にしないで」

とトゥーナが言う。

このような姿……か。

もしかしたら元気になっているかも……と思ったがやはり辛そうだ。

「いえ……あの、お体の方は……」

「ああ。ダンジョンの中ではそれなりに動けるのだが外だとまだこの調子だよ」

牛蔵さんは呪いにより体力が半分になっている。

それは日常生活に支障をきたすほどだが、しかしダンジョンの中だと体力の最大値が大きい牛蔵さんは常人以上の動きで探索ができるらしい。

そのため、ダンジョンの中で治療と仕事、そして生活の全てが可能なアメリカへと渡っていた。

「そうですか――だったら聖女の霊薬を直ぐに出しますので――」

と俺がそう言ってインベントリからダンプルに貰った聖女の霊薬を出そうとすると、牛蔵さんは厳しい目付きで手を前に出して待ったと言う。

「それを受け取る前にしておきたいことがある。一緒に来てもらえるよね?」

なんだか怒っているような気がするが――気のせいであってほしい。