軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牛蔵さんが帰ってくる前に

九月になり暦の上では秋になった。なんなら8月の立秋から秋らしい。

だが、まだまだ蝉の声は聞こえるし制服も夏服だし近所の飯屋で冷やし中華の提供は終わらない。

つまりまだまだ暑いのだが、ダンジョンの中ではそんなこと関係ない。

気合いを入れて、てんしばダンジョン31階層を再現したPDでシルバーゴブリンの群れの中に突入し――

「解放: 地獄の業火(ヘルファイア) っ!」

俺を中心に展開した地獄の業火が周辺のシルバーゴブリンを一掃する。

魔力値が増えて威力がかなり上がっているな。

「壱野さん、大丈夫ですか!?」

「ああ。火鼠の外套は火耐性の高い装備だし、対応力で火属性の耐性をつけてるからダメージはないよ。ほら、髪も焦げてない」

火鼠の外套は燃えない衣というだけではない。外套でカバーしていない場所、例えば顔とか手元なんかも火から守ってくれる。

そして、対応力。

一度火の攻撃を受けると一定時間火耐性が身に付く。

たとえそれが自分自身の火魔法であっても。

ライター程度の 点火(イグニション) の魔法で自分の手を軽く炙るだけで――火鼠の外套の効果でノーダメージ――さらに火属性の耐性がつく。

ダメ押しに、付与魔法の 火付与(エンチャントファイア) で火鼠の外套の火耐性を上げたら最強と思われた 地獄の業火(ヘルファイア) のダメージすら無効化してくれるというわけだ。

「だから、心配ないよ」

「心配しないわけないじゃないですか。壱野さん、無茶し過ぎですよ」

とアヤメが俺の背中に手を当て、魔力タンクの効果で失った魔力を補充してくれる。

はぁ、このじんわりと流れてくる魔力が気持ちいいんだよな。

「姫がいないとどうしても敵に囲まれがちになってしまうな。魔物の数10倍は流石にヤバイよ」

と俺が笑いながら言うと、アヤメが俺の背中を強く握る。

アヤメの攻撃値と俺の防御値には大きな差があるので痛みはないが、怒られているのはわかる。

「笑いごとじゃないですよ。ミルクちゃんと押野さんがいなくて、せっかく壱野さんと二人でダンジョン探索できると思ったのに……こんなんじゃデートって雰囲気じゃないですよ」

「ごめんごめん。でも、これってデートだったの?」

「好き同士の男女が二人でいたらデートなんですよ」

そうか、デートだったのか。

そう言われると少し照れるな。

デート中に男が銀色のゴブリンに囲まれて自爆魔法使っていたらデートって雰囲気じゃないよな。

そもそも二人きりじゃないし――とアヤメの頭上を見上げる。

そこに浮かんでいた式神のゼンは俺を見返して、拙者のことは気にするなって視線を送って来る。

ゼンがいなくても、俺の影の中にクロもいるんだよな。

「デートじゃなくて、戦いに集中しない?」

「壱野さん。私とデートはイヤですか?」

「そんなことは絶対にないよ。えっと、デートはまた今度……のダンジョンに入る予定のない放課後にでも……そうだ、見たい映画があるって言ってたよね? 今度一緒にどうかな?」

「覚えていてくれたんですね! はい! 私はいつでも行きます!」

「じゃあ、今日は戦いに集中するってことで、もう一発ゴブリンの群れを探して 地獄の業火(ヘルファイア) を――」

「それはダメです」

とアヤメに止められた。

あれ結構効率いいんだけどなぁ。

結局、クロを呼んで前衛として協力してもらい、ゼンを含めたフォーマンセルで、身代わりの腕輪Nが壊れるまで戦った。

シルバーゴブリンは普通のゴブリンとはくらべものにならないくらい強い。というか、別物と思った方がいいだろう。金属の剣や槍を持っていて、探索者のようにパーティを組んで襲ってくる。

そして、100や200になったらそれはもう軍隊を相手にしているに等しい。

「はぁ、疲れた……これなら神造猿神を周回している方が楽だな」

「でも、経験値は凄く高いですよね。私、もうレベル117になりましたよ」

「俺も123になった。あと、同じ種族の魔物を連続で100体を撃破するっていうトゥーナからのクエストも達成だな。集団戦技能ゲットだ」

「私も風魔法で敵を100体倒すクエストを達成し、風魔法技能を手に入れましたから魔法の威力がまた上がりました」

ステータスも大きく増えた。

だが、まだ足りない……まだ足りないんだよな。

やっぱりステータスだけじゃなく、D缶を開封してスキル玉の確保に乗り出す必要がある。

「……壱野さんが最近頑張っているのって、ミルクちゃんの――」

「あぁ、ミルクの親父――牛蔵さんが帰国する。あの人に強くなった俺を見て欲しい」

ミルクの親父、牧野牛蔵を越える。

それはミルクとの約束でもあり、そして俺にとって一つの目標でもある。

あの人は俺にとって尊敬できる探索者だ。

いまはまだ勝てるかわからないが、それでも強くなった俺を見て欲しいと思っている。

それに―ー

「あの人、ミルクのこと溺愛しているからな……」

手を出すどころか結婚までしてしまっている。

そんなことバレたら……あの人の命を救う前に俺の命が刈り取られる。

殺されないようにさらに強くなる必要がある。

「よし、ダンポンに魔力を回復してもらってもう一周」

「今日は5周で終わりって言ったでしょ。終わりです」

「でも……」

「終わりです」

「……はい」

アヤメに強く言われ、断れなくなった俺は、D缶の中から簡単に開けられるものがないか探すために未鑑定のD缶を詳細鑑定で調べていく作業に移行。

アヤメがメモを取ってくれる。

えっと……D缶を持った状態でオリンピックで金メダルを取る……深海3000メートルに沈める……月に持っていく……って無理なのバッカリだな。

もっとマシなのはないか?

「激レア缶だ。これはまた今度」

「付箋貼っておきますね」

「サンキューっと、『投げたD缶を犬に咥えさせて戻って来る』……クロでもいけるか?」

そんなこんなで開いたD缶は三つだけ。

スキル玉が一個、犬用の高級缶詰が一個、そして包丁だった。

【高級犬缶:犬が大好きなペットフード。食べすぎ注意】

てな感じで、さっきからクロが涎を垂らしてこっちを見ているので食べさせてやった。

そして包丁だが――

【魔物用解体包丁:魔物の素材を剥ぎ取ることができる】

これだけでは意味がわからなかったので詳細鑑定で調べたところ、普通、魔物の部位を斬り落としても戦闘が終わると斬り落とした部位は消滅してしまう。

しかし、この包丁で斬り落とした場合、その部位は消滅することなく残る。

そういう魔道具らしい。

「包丁って短剣に入るのでしょうか? だったら押野さんが使えそうですけど」

「どうだろう? クナイと包丁じゃ使い勝手が違い過ぎるだろう。それより研究に使えそうだから、閑さんが持ってるアイテムと交換ってのもアリだと思うが……そうだ! ゼンが使うってのはどうだ? 鬼と包丁ってなんか合いそうだろう?」

なまはげをイメージして俺は言った。

「拙者は風とヤツデの葉で戦うためそのような得物は使わん」

と断られた。

まぁ、使い道は今度考えよう。

問題はスキル玉だな。

さて、何のスキルを覚えられるのだろうか?