作品タイトル不明
将来有望な就職希望者
鈴原が、防御値特化型の 尖端異常者(シャープアブノーマル) だってことは聞いていた。
だから、俺と非常に相性がいいことはわかっていたんだが、まさか一発殴られただけで痛みのせいでほとんど戦闘不能状態になるとか。
最後の方は半泣き状態で、俺のほうが虐めているみたいに見えた。
とはいえ、防御値が高いのは本当なんだな。
まだ身代わりの腕輪は砕けていない。
単純にダウンしているだけだ。
泣きながら、「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」とうわごとのように呟いている。
と観客席からざわざわと反応が。
鈴原が破れたことによる騒めきではない。
「なぁ、あれって――」
「あの姿――やっぱりそうだよな」
と反応が。
さらに、
【なるほど、そういうことか】
【最初からわかっていた】
【ふっ、俺もだ。配信後直ぐに気付いた】
【俺もわかっていた(←本当はわかっていない)】
と壁に映し出されているリスナーからのコメントにもいろいろとお察しコメントが。
まぁ、そりゃ普通は気付くよな。
さて、今回の件についておさらいしよう。
まず、ダンジョンシーカーズの連中と模擬戦をする流れになるということは、オフィスで学校の課題をしているときに聞かされていたが、詳しい経緯についてはダンジョン学園に向かう車の中で初めて知った。
姫は炎上騒ぎの後、ダンジョン局に相談に行った。
天下無双の正会員がチーム 救世主(メシア) であることを公表すれば、誹謗中傷も止まるのではないかと思った。本来は勲章授与の時に公表する予定だったが、それを前倒しにしようとしたのだ。
しかし、そこでダンジョン局の局長から聞かされたのは、今回の炎上騒ぎの主犯がダンジョンシーカーズの理事長の鈴原であるという情報だったのだ。
開示請求もしてないのにどうしてわかった? と思ったらなんてことはない。
内部告発だった。
鈴原、信者には圧倒的に慕われているが、一部からはかなり嫌われていたらしく、具体的な情報も集まってきた。
ただ、ダンジョンシーカーズはその成り立ちのため、SNSや配信のインフルエンサーが多く、下手に突っつくと俺たちのような炎上騒ぎがダンジョン局にまで押し寄せることを警戒してどう対処するか苦慮していた。
それでもダンジョン局の大阪支部長はダンジョンシーカーズの不正を公表し、俺たちを守ろうとしてくれたらしい。
そこで、姫が一つの案を出した。
ダンジョンシーカーズの不正を暴露するより、ダンジョンシーカーズの地位を落としてしまおうと。
鈴原に戦いを挑ませ、返り討ちにしてしまうところを配信で公開させようというのだ。
姫も表面では冷静を装っていても、相当腹に据えかねてたんだろうな。
鈴原の能力もその時に聞いた。
警戒するのは 鋼鉄肉体(メタルボディー) ――つまりメタルスライムのようになるスキル(さすがにスライムデスは効果がない)なのだが、俺のラッキーパンチを使えばダメージを与えることができるし、それ以外の戦いの様子も配信で見てみたが、配信通りの実力ならば圧倒的な防御にあぐらをかいて回避もできないカウンターオンリーの戦い方なので余裕で勝てるだろうと姫は俺に伝えた。
さらに、相手を煽るための台本まで渡されて、車の中で練習までさせられた。
模擬戦の場所を闘技場にすることが決まり、確認にいったらダンプルまで協力してくれた。
鈴原と戦うときに、痛みをフィードバックする身代わりの腕輪を用意しようと。
それがまさに効果覿面だった。
とはいえ、ラッキーパンチのクリティカルの効果は、ダメージ2倍+相手の防御によって減算されたダメージの10%を貫通ダメージとして与えることができるってだけなので、影獣化やヒートアップを使っていたからって、鈴原に与えられるダメージは本来よりかなり減算されているはずなんだけどな。
とか考えていたら、
「遅れてすみません、泰良さん……あの……」
「これってどういう状況? なんで対戦相手が指を咥えて泣いてるの」
とアヤメとミルクがやってきた。
そして――
「緑ショートとピンクのポニテ……なぁ、やっぱり」
「そうだよな! チーム 救世主(メシア) だ!」
「アバターじゃないから気付かなかったが――え、マジでっ!? 俺大ファンなんだけど!?」
とさらに騒めきは止まらず、
【天下無双が実力伴わない雑魚だって言ったの誰だよwwww 若手最強探索者集団じゃんwwww】
【雑魚なの最強鈴原じゃね? 殴られて泣きだすとか子どもかよ】
【ダンジョンシーカーズじゃなくてダンジョンシッターズの出番だな】
【チーム救世主の女性陣、アバターより生身の方がカワイイって凄いな……益々ファンになる】
リスナーのコメントも壁一面に溢れかえっている。
でも、なんで自分たちを貶すコメントを送って来るんだ?
こちらの壁に表示されるコメントってサポーターが調整できるはずだが――
「おい、コメントを止めろ! こっちに流すな!」
「止められません! 配信クリスタルが何者かにハッキングされてます」
「配信クリスタルがハッキングされるわけないだろ!」
と配信者たちも大騒ぎだ。
ダンプルの仕業だな。
と、ミルクとアヤメも闘技場に降りて来る。
「ダンジョンシーカーズのみんな。もう気付いていると思うが、俺たちはチーム 救世主(メシア) だ。SNSで俺たちのことを好き勝手言ってくれたようだが、ネットで叩く前に直接かかってきてくれ。四人でも十人でも二十人でも相手になってやるよ――と、うちのアルファが一人で十人になっちまうけどな」
と俺が台本通りの台詞を言うと、姫が笑顔で分身スキルを使い十人に増えた。
さて、これでもう一戦するのか? と思ったら――
『すみませんでした。全部そこの 鈴原(バカ) が悪いんです。煮るなり焼くなり好きにしてください』
とダンジョンシーカーズ全員が一斉に謝罪をした上に、鈴原を生贄に差し出した。
あれ? 鈴原には一定数の信者がいるって話だったと思うが……あ、なるほど。さっきの姿を見て幻滅したってわけか。
こうして、炎上騒ぎは俺たちチーム 救世主(メシア) が天下無双のメンバーであることを公表したことで終わりを迎えた。
最強鈴原は戦いに負けたことがショックだったのか、それとも戦いが怖くなったのか行方をくらませた。
そして、理事の一人が新しい理事長に就任。
ダンジョンシーカーズ及びダンジョンエクスプローラーズの従業員の意識改革に取り組んでいるらしい。
これで俺も平和になる――そう思ったのだが、どうも俺たちは有名になり過ぎたようだ。
数日後、俺たちは梅田のオフィスでそれを知る事になった。
「なにこれ?」
ミルクがダンボールを見て言う。
鍵のついた棚の中に、以前にはなかった大量のファイルが置かれていた。
「履歴書よ……天下無双に入りたいんですって」
前からも履歴書は何通か来ていたが、こんなに大量に送られてくるのは初めてだな。
「新しいメンバーが増えるんですか?」
「全員不採用。ピンとくるのが一人もいないわ」
アヤメの問いに姫は首を横に振る。
そうなのか?
許可を貰って履歴書を見せてもらう。
探索者用の履歴書って初めて見たが、普通の履歴書と違ってステータスを書く欄があるんだな。
「俺も履歴書書いた方がいいか?」
「今更必要ないわよ。アヤメと真衣の分も貰ってないしね」
と姫が手を振って言った。
「本当に全員採用しないのか?」
俺たちは秘密が多いから一緒に行動は難しいかもしれないが、探索者を雇う枠はまだあるはずだが。
「じゃあ、試してみましょ? はい、泰良」
「10面ダイスとコイン?」
「ええ。履歴書の数はちょうど200枚。コインが表だったら百の位が1、裏だったら0。大きいダイスの数字が10の位。小さいダイスの数字が1の位。それで出た数字の人を採用しましょう」
「000だったら200枚目ってことでいいのか?」
「そんなことで採用者を決めていいのか?」
「私の直感よりは信用できるでしょ」
なんか責任重大だな。
コインとダイスを同時に投げた。
コインは裏。
大きいダイスは8、小さいダイスは5。
85番か。
「はい、80番代のファイル。その5枚目よ」
と姫がファイルを渡してくれた。
さて、一体どんな人が採用されるのか。
「嘘だろっ!?」
「え? なんですか、これ」
「姫、どういうこと?」
「どういうこともなにも、言ったでしょ? 送られてきた履歴書を保管しているだけだって。それは正真正銘送られてきた履歴書よ」
と姫は言うが、しかし、これ――
名前は斎藤歩。
中性的な名前だが性別は男。
そして、年齢は――七歳だった。
書き間違いかと思ったが、生年月日の西暦は7年前のものだし、学歴も小学校入学で止まっている。
さすがに小学校中退ってことはないだろう。
資格の欄は――免許・資格は英検四級だけ書かれていた。
備考欄に、絶対にダンジョン学園に入って探索者になるから、ダンジョン学園を卒業したら採用してほしいというようなことが書かれていた。
「ついでにこれが添付されていた写真よ」
と姫が一枚の写真を俺に見せてくれた。
それは影獣化した俺のような服を着ている男の子の写真だった。
「さすが泰良。数多くの履歴書の中から将来有望な探索者を選んでくれたわね」
「この子が採用されるのは11年後ですか」
「いまから楽しみですね」
そうだな。
と俺は写真を見てある事に気付く。
「その写真、何かくっついてるぞ?」
「本当ね。くっついてるみたい」
と姫が写真を剥がすと、二枚目の写真が。
今度は外套姿の俺のコスプレをしている男の子の写真だった。
本当に俺のファンなんだ……ん?
「姫、これってアレじゃないか?」
俺は写真を指差す。
男の子の胸元に光る首飾りを。
俺はインベントリからそれを取り出した。
勇者のロケット。
D缶の中から出てきた異世界のアイテムと全く同じロケットを、少年が首からぶら下げていたのだ。