軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最強鈴原の受難(その2)#side鈴原西郷

「はぁ、弱いな……いいから残り三人纏めてかかってこいよ」

天下無双の坊主が煽る。

「お前ら、行けっ!」

私は彼らに言った。

せめて、押野姫を引きずり出せ。

だが、三対一で勝ったところで、先ほどの圧倒的な負けは覆らない。

くそっ、このままでは私の計画が台無しだ。

だが、予想外のことはここから起こった。

槍、ボウガン、火の魔法。

そのどれもが坊主に通じない

魔法をスキルで跳ね返して火魔術師の使い手を倒すと、ボウガンの矢を躱し、槍をさっきのように奪うと、基礎槍術の疾風突きで二人を一瞬にして亡き者にした。

【天下無双って弱いんじゃなかったの? めっちゃ強いじゃん】

【なにあれ? 一対三でも余裕とか強すぎる。剣術だけじゃなくて槍術も使えるの?】

【魔法を跳ね返してたよな? あれってなんてスキル?】

【まぁ、ダンジョンエクスプローラーズは下部組織だから、EPO法人の凄腕には勝てないか】

【あの動き、どっかで見たような気がするんだけど……】

視聴者たちが好き勝手にほざく。

なんだこれは!?

なんなんだこれは!?

くそっ、こんなことならダンジョンシーカーズにも上がれない、名前も覚えていない雑魚を使うのではなく幹部を、いや、リスクを覚悟でこの私自ら動くべきだったか。

そう思っていたら、やられた四人が戻ってきた。

「すみません、最強鈴原さん……不甲斐ないところをお見せして」

四人が申し訳なさそうな表情で謝罪する。

正直、怒鳴りつけてやりたいところだが、配信されていることを思い出して私はぐっと堪えた。

「いや、それでいい。今回の配信の目的は天下無双の悪い噂の払拭にある。君たちの能力に制限をかけさせてもらっていたとはいえ、相手の強さが本物だということがよくわかっただろう! 今度からは妙な噂に踊らされず、相手をしっかりと見て戦うことを心掛けるのだ」

いまはこうするしかない。

そう思ったのだが――

「最強鈴原さん。よかったらもう一戦どうかしら? うちの最強は全然戦い足りない様子なのよ」

押野姫が言う。

余程自分の手駒に自信があると見える。

どうする? こちらから誰を出す? 四天王を投入するか? いや、それよりも例の手で――

「少しいいかな?」

と話に割り込んできたのは黒い大福のダンプルだった。

「実は新しい身代わりの腕輪の開発に成功してね。できることならこれを使ってほしいんだ」

「効果は?」

「基本は同じだよ。絶対に死なない、怪我もしない、安全な身代わりの腕輪。ただし、これをつけた状態で殴られたら痛い。かなり痛い。ショック死するほどじゃないけどね。やっぱり戦いは命と命のぶつかり合いだから、ノーリスクっていうのはよくないと思うんだ」

とダンプルは言う。

それに押野姫は――

「こちらとしては全然かまわないわよ」

とそんなことを言った。

なるほど、これはチャンスだ。

「それなら、私自ら出ようではないか! 下部組織の人間とはいえ部下が不甲斐ないところを見せたばかりだ。ここは私がその実力を発揮させてもらおう」

「俺はそれでも構わないぞ」

「ただし、勝負の時間は五分とさせてもらう。それ以上の時間をかけると連戦の君が圧倒的に不利になってしまうからな。五分経過したときは引き分けとし、お互いの力を称え合おうではないか」

私がそう言うと、二人もそれを受け入れた。

バカな奴らだ。

私の強さを知らないと見える。

これで私の負けは無くなった。

「そういえば名前をまだ聞いていなかったね。私は最強鈴原。君の名前は?」

「壱野泰良だ」

「いい名前だ」

その名前を墓標に刻めないのが残念だが、せいぜい痛い目を見るといい。

さすがに私相手にジャージで戦うことはせず、一度控室に戻り着替えに行く。

そして、戻ってきた。

赤いコートを着ている。

なんだ、あのコートは? あんな目立つ格好で戦うのか?

男にとって大切な肉体美が隠れて台無しではないか。

まぁ、見せるほどの筋肉がないのだろう。

「俺はいつでも準備いいぞ?」

「私も準備はできている。身代わりの腕輪は付け替えたかね?」

「ああ。さっき自分でほっぺをつねってみたが確かに痛かったよ」

「そうか。まぁ、怪我はしない戦いだ。私は誰にも負けたことがないが、君ならば私に勝てるかもしれないぞ」

「へぇ、誰にも……」

「ああ、誰にも負けたことがない。関西だと、そうだな、牧野牛蔵――彼とも戦ったが、勝負にすらならなかったな。彼のパンチは私には軽すぎた。私は彼よりも強いぞ」

と私が言うと、一瞬男の纏う空気が変わった気がした。

しかし、別に構わない。

「そうだ、ハンデをあげようではないか。最初の一発、是非私に打ち込んできなさい。私はそれを防御もせずに受け止めよう」

「いいのか? 痛みもフィードバックするのに」

「問題ない。全力で打ち込みなさい。押野姫くん。試合開始の合図を頼めるかい? 」

私がそう言うと、押野姫は頷き、場内の脇に移動する。

「試合――はじめっ!」

と合図を出すと同時に私はスキルを発動させた。

スキル【 鋼鉄肉体(メタルボディー) 】。

十分間の間、全ての魔法攻撃と状態異常を防ぎ、かつ防御値を10倍にするという私の必殺技だ。

これを使えば、まず全ての攻撃は通じない。

そして――

「そうだ、一撃を貰うまえに言っておこう。私は防御の 尖端異常者(シャープアブノーマル) だ。現在の防御値は3000以上ある。生半可な攻撃は隙を作るだけだからな」

「そうか。じゃあ行くぞ」

といって、壱野泰良は剣を鞘に納めると、拳を鳴らし、こちらに向かって迫って来る

なるほど、無防備の相手に剣で斬りかかることは武士道にでも反するというのか?

今の話を聞いていなかったか、聞いても理解できないバカと見える。

防御値3000というのは、普通の攻撃が通じる相手ではない。

剣であろうと拳であろうと結果は同じだ。

ましてや、いまや防御値30000以上となっている。

そんな私にお前の攻撃は一切通じな――

「ぶへらぼっ!」

それは一体誰の言葉だったのか?

それより、壱野泰良はどこにいった?

いまからカウンターで貴様に痛みを――痛み? いた、いた、た

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ! なんだ、なんなんだこれは――」

痛いだと?

この私が!?

何故だ!?

レベルを上げ、異常なほどの防御値を手に入れてから、ダンジョンの外でさえ痛みを感じることがなくなった私が痛いだと?

圧倒的な防御値と 鋼鉄の肉体(メタルボディー) を組み合わせたこの時間は私――最強鈴原が最強と呼ばれる理由だ。

全ての攻撃が私にとって意味をなさないはずだ。

「へぇ、痛いのか。どうやらラッキーパンチで急所ヒットしたみたいだな。運がいいんだよな、俺」

「運だとっ!? 運でどうにかなる問題かっ! 私の防御値は――」

「じゃあ、もう一度行くぞ。今度は無防備にならなくてもいいからな」

「ひっ」

そして私はまたも壱野泰良に殴られた。

「ぐわらぼっ!」

想像を絶する痛みが私の身体を襲う

反撃しようにも痛みが全身に巡り攻撃に集中できない。

なんだ、この男はっ!

「じゃあ、最後は本気で殴るから、せいぜい耐えてくれよ」

壱野泰良はそういうと、全身を影が覆い始めた。

なんだ、あの力はっ!?

どこかで見たことがある、どこかで見たことがあるのだが、痛みのせいで頭が回らない。

「と、殴る前に――そんなんで牛蔵さんより強いなんて言うなよ。あの人は富士山で呪いを受けながらも自衛官を逃がすために傷つきながら戦い続けた凄い探索者だ」

彼はそう言うと、拳を構えて迫って来る。

「痛いからって泣いて後ずさるようなお前と一緒にするなっ!」

壱野泰良の拳が私の顔に食い込み、私の意識はようやく途切れた。