軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最強鈴原の受難(その1)#side鈴原西郷

ワーハッハッハッハ。

そうだ、私が鈴原西郷だ。

ダンジョンシーカーズギルドのギルドマスターをしているぞ!

親が西郷隆盛の大ファンで、そういう名前になった。仲間からは最強鈴原と呼ばれているぞ!

今日は部下の失態をカバーするために、久しぶりに大阪へとやってきた。

大阪に来るのは大阪のローカル番組であの牧野牛蔵と対談して以来だな。

相手は天下無双という押野グループがバックにいるギルドだ。天の下に並ぶ者がいないとかいう私への挑戦のような名前のギルドだ。

ここだけの話だが、こういう肩書きだけは立派で中身の伴わない名前というのは好きではない。

無双というのは、そう。

皆から最強と語られる私にこそふさわしい名前ではないか? そう思っているのだ。

だから私は部下を通じて、何度も天下無双のギルド資格の剥奪を訴え続けてきた。

だが、本部の連中は貢献値がどうのとか、相応しい実績があるとか意味のわからないことばかり言ってまともに取り合おうとはしない。

さらには先日の貢献値ランキングでは私たちダンジョンシーカーズよりも上の順位にいた。

意味がわからない。

二位のトヨハツの連中も気に食わないが、あいつらは企業のバックアップを受けながらも十年間ダンジョンで何度も顔を合わせてきたガッツのある連中が多い。

だが、天下無双はこれといって強さも何もない、ただ金の力でのし上がってきた。

これは許せない。

私はついそのことをダンジョンシーカーズとダンジョンエクスプローラーズの共同研修会で愚痴ってしまった。

思えば、そのことが部下たちに要らぬ感情を与え、このような凶行に走らせてしまったのかもしれない。

どういう経緯があったのか、部下たちがSNSに天下無双の悪評を流していたという情報がダンジョン局の本部にまで届いてしまい呼び出しを受け、お叱りを受けた。

しっかり社内処分をし、天下無双に謝罪をするようにと言われたのだ。

だが、私はこう伝えた。

部下もまた被害者なのだと。

彼らは努力をし、強さを磨き、税制優遇などの特典が得られるギルドの本メンバーになるために努力をしている。だというのに、天下無双の奴らはその努力をあざ笑うかのようにその優遇措置を受けている。

怒るのは当然だと。

だから、彼らを罰することは私にはできない。

むしろ、彼らにはチャンスを与えるべきだ。

そう本部に打診してみたところ、彼らは私に妙案を授けてくれた。

我々が今回の事件を引き起こした部下を引き連れて、天下無双の事務所に謝罪に行く。

そして、謝罪のついでに、彼らへの悪評を払拭するために、模擬戦と言う名の決闘を申し込む。

そんなことをしても相手がその決闘を受けてくれるとは思わなかったのだが、なんと本部が手を回し、絶対に決闘を避けられない形まで持っていく。

その姿を全世界に配信し、天下無双が金の力だけでのし上がってきたギルドかどうかを世間にジャッジしてもらえ。

私はその時初めて本部が素晴らしいと思った。

そして、その作戦は見事に的中し、我々は現在、天下無双のギルドマスターとは別に大阪のダンジョン学園にやってきた。

「やぁ、待っていたよ。闘技場の宣伝をしてくれるんだってね。しっかりとした試合をするのは初めてだから是非張り切ってほしい。ダンジョンの中と違って闘技場では身代わりの腕輪が砕けてもレベル1にならずに入り口に戻るから安心して死んでほしい」

と言って黒い大福のような生物――ダンプルは私たちに身代わりの腕輪を渡して闘技場へと案内してくれた。

安心して死ぬだって?

うちのメンバーが死ぬはずがないだろう。

ダンジョンシーカーズに上がれないとはいえ、それでも何年も研鑽を積み重ねてきた探索者だ。

この身代わりの腕輪は全ての痛みと怪我、そして死からも使用者を守ってくれる特別製の腕輪だ。

「ふん、ダンジョンでの戦いとは命と命の削り合い。こんなものを着けるのは軟弱ものの証拠だ」

「おぉ、素晴らしい意見だ。僕と気が合いそうだよ。でも、生憎とこのダンジョンは世界一安全なダンジョンを謳っているから万が一にも怪我をされたら困るんだ……とはいえ貴重な意見だ。君が試合をするときのために、特別製の身代わりの腕輪を用意させてもらおう」

ダンプルは中々話の分かる大福のようで、私に好意を向け、闘技場へと案内してくれた。

それぞれの控室へと行く。

「お前たち、わかっているんだろうな?」

私は装備の調整をしている部下に言う。

「はい。最強鈴原さんが用意してくれた最高のチャンス、絶対に物にしてみせます」

「あんな奴らに負けはしないっす」

「最強鈴原さんの顔に泥を塗ったりしません」

「最強鈴原さんも約束守ってくださいよ」

私は頷いた。

彼らが天下無双の連中をコテンパンに成敗したその時には彼らを正式にダンジョンエクスプローラーズからダンジョンシーカーズに引き上げると約束している。

四人が四人とも、レベル70後半で、20階層の壁の突破まであとわずかという実力者。

十分ダンジョンシーカーズでもやっていける逸材だ。

あんな金の力で勝ち上がった奴らに負けたりはしない。

が――

「お前ら、これを使え」

「……最強鈴原さん、これは?」

「使い捨ての最高級ステータス強化薬だ。ステータスが一時間、二割上昇する」

「マジっすかっ!? これ、一本5000万円はしますよ!?」

部下共が驚くが、これは必要経費だ。

獅子は兎を倒すにも全力を尽くす。

負けることはないと思うが、善戦でもされたら彼らを貶めるという当初の目的が果たせなくなるからな。

それに、一本5000万円はしない。せいぜい150万円くらいだ。

なにしろ、薬の効果が切れたら副作用で丸一日動けなくなる劇薬でもあるからだ。

彼らもこの後名誉あるダンジョンシーカーズの一員になるのだ。

一日動けなくなるくらい甘んじて受け入れてくれるだろう。

「最強鈴原さん。準備が出来ました」

と予め準備をさせていた部下も用意ができたようだ。

そして、私は天下無双のメンバーが待つ闘技場へと向かった。

「では、私は観客席で見ているからな」

と四人に言って控室から外に出た。

控室の外ではダンジョンシーカーズの正規メンバーと補助要員の中から、配信の登録者上位20名を集めている。

彼らにはこの戦いを生配信で紹介してもらうつもりだ。

もちろん、ダンジョン局には許可を取っている。

天下無双のギルドマスターには言っていないが、「君たちの不名誉を払拭するためだった」と言えば納得せざるをえない。

悪いのは実力のない彼女たちなのだから。

選手の入場用の扉が開いた。

と同時に配信を始める。

部下たち四人が出てくる。

そして、天下無双の扉から出てきたのは、一緒にいた坊主とギルドマスターの二人だけだった。

ギルドマスターの押野姫はさっきまでと同じカジュアルな服装のまま。

そして男はジャージ姿で、しかも得物が木刀だった。

「じゃあ、姫。俺が一人で戦うが、いいのか?」

「ええ。任せたわ」

「おっけー、任された」

と坊主が一人で前に出る。

どういうことだ?

「おい、てめぇ、舐めてるのかっ!? なんだ、その装備は」

「え、これで十分だろ? 獅子は兎を狩るのに全力を尽くすっていうけど、象が蟻を踏み潰すのに気合いを入れたりしないって。それに、いつもの装備で戦ったら、金の力で強くなる装備を整えて勝ったとか言われそうだしな。ジャージと木刀で相手してやるよ」

ちっ、予定が狂った。

これではあの男が負けても、装備を言い訳に逃げられる恐れがある。

そうだ!

私は闘技場の一番前の席から身を乗り出した。

部下がそれに気づき、こちらに来る。

「お前が一人で戦え。そして、あいつをできるだけ殺さず、ボコボコに痛めつけるんだ! できるだけ無残に見えるようにな」

「え? でも――」

「いいんだよ。身代わりの腕輪をしているから痛みはねぇし、死にもしねぇ。だが、むごたらしく痛めつけるフリをすればいい。そうしたら私がこう言う。『押野姫――貴様は部下が必死になって戦っているのにただ見ているだけか!? それでギルドマスターを名乗っていいのかっ!』と、彼女のリーダーとしての資質を問いただしてやるのだ。そうすれば――」

視聴者に紛れているサクラがいい具合に煽ってくれる。

予定通り、天下無双の評判が地に落ちるわけだ。

私は伝えることを伝え、席に座る。

そして部下は――

「お前が一人で戦うって言うのなら俺も一人で戦ってやるよ。ただし、後悔するんじゃんぇぞ。俺はダンジョンエクスプローラーズの中でも一番の剣の使い手だ。剣技、必中剣――」

必中剣は威力は低いが確実に相手に命中する。

痛みがないから相手の悲鳴を聞くことができないのは残念だが、しかしいくら痛みがないとはいえ、圧倒的な実力の前に奴がどう動くか――

と思ったら、突然彼の持っていた木剣が落ちた。

剣の握りが甘くて落としたのか。

まさか、そんな素人を投入してくるとは。

これでは、薬を与える必要なんてなかった……

「遅いっ!」

と男は左手の甲で剣の腹を弾き、右手の拳で部下の持っていた剣の柄を下からアッパーのように叩き上げると、それによって弾かれた剣を取って部下の喉元に突き付け――そしてそのまま刺した。

一瞬の早業だった。

「――あれは無刀取りっ!?」

応用剣術どちらにもある剣術の一種。

剣術とされるが、剣は使わない。

素手で剣に対抗するための武道の一種だ。

そのため、応用剣術其之零とも呼ばれる。

まさか、こちらが剣術使いを出すと読んで、剣に対抗できる男を雇ったのかっ!?

木剣を持っていたのも、無刀取りを悟らせないためのフェイクっ!?

「グヌヌヌヌヌヌヌ…………天下無双、どこまで私を愚弄するかっ!」