軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終末を見届ける者

斎藤歩くんの履歴書に書かれた住所は兵庫県芦屋市の高級住宅地の中にあった。

電話で予め連絡を取って、その住所の場所に行く。

大勢で押し掛けるのは気が引けたので、俺と姫だけで斎藤家を訪問をした。

周囲は豪邸だらけだったが、ミルクの家や閑さんの家、水野さんの新築を見てきた俺はこの程度ではビビらない。

俺も今や年収うん十億のセレブの仲間だ。

大丈夫、負けていない。

そして、歩くんの家も周囲と同じように豪邸だった。

「あらあらあらあら。アルファさんとベータさんね。本当に配信通りなのね。暑い中ようこそいらっしゃいました。どうぞ中へ」

出てきたのは歩くんのお母さんだった。

七歳の子どもがいるとは思えない若いお母さんで、どこかのお嬢様って感じがする。

家の中に入れてもらう。

玄関とかなんか高そうな状態だ。

新参豪邸の水野さんの家と違い、本当に高そうな絵とか壺が飾ってある。

「ごめんなさいね。歩は塾に行ってるの。もうすぐ帰って来ると思うから、これを飲んで待っていてください」

と歩くんのお母さんは熱い紅茶を淹れて出してくれた。

外はかなり暑いのにホットティーなんだな。

一口飲んで、蜂蜜を入れてもう一度飲む。

やっぱり熱い。

「とてもまろやかな口当たり。ハイグロウン・ティーですね。スリランカのダンジョン産でしょうか?」

「あらあら、アルファさんは紅茶に詳しいのね。ウダプッセッラーワダンジョンで採れた茶葉を使っているのよ」

廃グロティー? ラッセーララッセーラ?

なにその暗号みたいな会話。

全然ついていけない。

俺はクッキーを食べる。

うん、うまい。

ディアマンクッキーって名前だと教わった。

ディアマンさんが考案したクッキーだろうか? うん、うまい。

紅茶とよく合う。

これは歩くんのお母さんの手作りらしい。

そういえばミルクもクッキーを手作りしてくれていたし、閑さんも。

お金のある女性はクッキーを手作りしがち――とかいう法則があるのだろうか?

と隣の姫をチラ見する。

こいつは料理は全然できない。

ヒトによるんだなと前言を撤回する。

「ただいまー!」

車が止まる音が聞こえた。

続いて元気な男の子の声が。

「あら、帰ってきたみたいね」

廊下を走って来る足音が聞こえ、扉が開いた。

「ただいま、おかあさ…………ベータさんだっ! アルファさんもいる!? え、なんで?」

「こんにちは、歩くん。履歴書を送ってくれたのを見てね」

「ぼくもチームメシアに入隊できるんですかっ!?」

入隊って――ヒーロー戦隊じゃないんだけどな。

「ええ。君がダンジョン学園を卒業して立派な探索者になったら、その時に改めて面接をしましょ」

「はい! ありがとうございます!」

子どものように無邪気な笑みを浮かべる歩くんだったが、俺が気になったのはその首から下げているロケットペンダントだ。

【勇者のロケット:異世界の勇者の思い出のペンダント。特別な効果はない】

やっぱり勇者のロケットだ。

俺は姫を見て頷いた。

「あの、電話でもお話しましたが――」

「ええ。主人にも確認しました。あのペンダントは主人の友人がダンジョンの中で見つけたものだそうでして。なんでも城崎ダンジョンの23階層の祭壇の上に缶詰を置いたら――」

「D缶だよ、ママ」

「そうだったわね。D缶の蓋が開いて中から出てきたみたいなんです。名前判別と魔力測定を行ってもらったけれど、特別な効果もないからってことでその友人からお土産にもらったそうなんです。勇者のロケットっていうカッコいい名前だから歩も喜ぶだろうって」

名前判別はアイテムの名前がわかり、魔力測定は魔力の有無がわかる。

どちらも鑑定より遥かに安いが、それでも1回1000円くらい取られる。

装備品の場合、ステータスの上がり幅は装備してみればわかるが、特殊な効果があるかどうかはわからない。

ただ、特殊効果のある装備品は魔力が含まれているので、魔力測定をしてもらえば特殊効果の有無だけはわかる。

結果、特別な力はなかったから、この勇者のペンダントを手に入れた探索者は歩君のお父さんに譲ったのだろう。

「これは何か特別なものなのでしょうか?」

歩くんのお母さんが尋ねた。

俺は頷き、正直に事情を説明。

これが異世界の品だということに驚いていたが、しかしトゥーナという異世界人の存在は彼女も知っていたし、異世界があることも理解してくれていた。

そのお陰で、信じてくれた。

「彼女の世界を救うために異世界について調べているんです。もしかしたらその勇者のロケットが手掛かりになるかもしれなくて――もしよければそれをお譲りいただけないでしょうか? もちろん、代金はいくらでも――」

「ううん、お金はいらないよ! だって、エルフちゃんの世界を救うためなんでしょ! だったら持って行ってよ、ベータ!」

「そうね。是非持っていってください」

「うん! あ、でもその代わり――」

と歩くんは部屋から出て行き、直ぐに戻ってきて

「サインください!」

と俺にサイン色紙とサインペンを差し出した。

俺は快くそれに応じサイン色紙に初めてサインを書き、勇者のロケットを受け取った。

歩くんの家からの帰りの車の中で、姫が俺に言う。

「ねぇ、泰良。気付いた? あの部屋、トロフィーとか盾とかいっぱい飾ってあったの。剣道の大会で優勝しているみたい。しかも何度もね」

「本当か? 七歳で英検四級を持っていたり、履歴書を書いて送れる時点で頭が良いとは思っていたが、運動神経もいいんだな」

「ええ。泰良は勇者のロケットを見つけただけでなく、本当に将来の勇者を見つけたのかもしれないわね」

だとしたら、十一年後に追い抜かされないように、いまから頑張って強くならないといけないな。

いつまでもあの子に尊敬してもらえる 先輩(ヒーロー) でいるために。

※ ※ ※

勇者のロケットは前回と同様開かないようになっていたらしく、さっそく水野さんの家に直行。

水野さんと水野さんのお父さんの二人がかりで、見たこともない器具を使ってロケットを開けてくれた。

「壱野くん、開いたよ」

「ありがとう」

前回は姫に似た女性の肖像画が入っていたが、今回は誰の絵が入っているのかな?

そう思って、中を見せて貰ったら――

「「え?」」

俺と姫はその顔を見て固まる。

そこ描かれていたのは女性ではなく男性の肖像画。

そしてそれは――

「ダディ?」

「キングさん?」

その肖像画に描かれていた俺の知っているキング・キャンベルをそのまま若返らせたような、そんな姿をしていた。

姫のときのように、少し似ているという感じではない。

まるで本人のようなその姿に――さすがに姫も動揺を隠せないようだった。

「……私、ダディに直接電話で聞いてみる。たぶん、これを写真で送ったら答えてくれると思う」

「そうか」

「……うん」

姫が頷いた。

とそこに電話が。

ミルクからだ。

俺が全く連絡を入れなかったから心配したのだろうか?

「ああ、ミルク。悪い、いま終わったところで――」

「泰良! 聞いて! パパが日本に帰って来ることになったの!」

牛蔵さんが日本に帰って来る!?

そうか、ようやく日本に帰って来るのか。

なんか最近いろいろとあったが、これでようやくあの人の呪いを解いてあげることができるな。

それが一番のいいニュースだよ。

※ side 鈴原 西郷 ※

私、最強鈴原はダンジョンの中で魔物と戦っていた。

自分が最強であることを再認識するため、ダンジョン学園から一番近い梅田のダンジョンに来ていたのだが――

魔物から全力で逃げていた。

「怖い、怖い、怖い、怖い、怖い」

あの日、壱野泰良という男に殴られて、痛みを感じてから私は戦うのが怖くなってしまった。

痛いのが怖い。

攻撃をされるのが怖い。

魔物と戦うのが怖い。

何故だ、何故こんなことになった!?

最強であるはずのこの私が、なんて屈辱を――

なんとか安全地帯の二十三階層に逃げ込んだが、こんなことでは――

【痛イノガ嫌ナノカ?】

突然、声が聞こえた。

誰の声かわからない。

「誰だ! 誰がそこにいるっ!」

【オレガ痛ミヲ感ジナイ体ニシテヤロウカ?】

「何を言っている!?」

【貴様ノ痛ミヲ俺ガ全テ引キ受ケテヤルト言ッテイル。俺ニハソレガ可能ダ】

痛みを感じない体?

それが本当ならば、それほど頼もしいことはない。

これは悪魔の囁きだろうか?

だが、それでも私は――

「私はそれを望む」

【契約成立ダ】

突如、台座の後ろから白い何かが私の身体にへばりついてきて、吸い込まれるように消えていく。

なんだ、何が起きた?

【コレデ貴様ノ肉体ハ俺ノモノダ――共ニ世界ノ終末ヲ見届ケヨウ】