軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186.解説

「それでは、ロートシュタイン、サブナード計画について、ゆっくり解説していくぜ」

居酒屋領主館の客席には、王族や貴族たち、そして馴染みの常連客たちが、何事かと静かにグラスを傾けていた。その前に立つのは、珍妙な格好をした領主ラルフ・ドーソンと、その隣にまたも珍妙な格好の、黒髪の少女。

「ねえねえ、ラルフ。私、人混みって嫌いなのよね。人にぶつかりそうになるし、足でも踏まれた日には最悪の気分だわ。それに、ロートシュタインでは急に道端で大声を上げたりする輩がいるじゃない? 私、ああいうのホント苦手なのよね」

黒髪の少女、最近ゴーレム作りのスペシャリストとして常連客に認識されているスズが、抑揚に乏しい声で話し始めた。彼女の頭部には、なぜか大きな赤いリボンが載せられており、見ようによっては猫耳のようなシルエットに見える。

「ああ。スズは根っからの引きニート気質だからな。わかるぜ」

対するラルフは、なぜか金髪のロングヘアのカツラを被り、魔女っ子必須の三角帽子を頭に載せている。二人はどこか無機質な、それでいてかなりの早口で喋っていた。

「し、失礼ね! インドア派と言ってちょうだい! 文系女子は冒険者みたいなパリピでマッチョな男子が苦手なのよ!」

「嘘つけ……。どうせ、マッチョ男子とヘタレ受け男子が、あんなことやこんなことになる薄い本も好きなクセに」

「そ、そ……そんな?! なんで知ってるのよ?」

「いや、勘だ。カマかけてみただけさ!」

「は、は、謀ったなぁ?! ラルフ?!」

「フッフッフ。お前の、ビーエル脳を呪うがいい……」

王族をはじめとした常連客たちは、事前に重大な発表があるとは聞かされていたものの、何が起きているのかまったく理解できなかった。ラルフの奇行はいつものことだが、今回はあまりにも理解不能すぎて、ただ無表情でその寸劇を見つめるしかなかった。酒を飲みつつも、脳が停止しているようで、なんだかいつもより酔いが回ってこない気さえした。

「まあ、とにかく……。話を戻しましょう? サブナード計画よね? ロートシュタインのオーバーツーリズムを緩和するためってことで良いのよね?」

「ああ。その通りだぜ。ダンジョン生成魔法を応用して、目抜き通りの地下に広大な空間を確保する計画だぜ!」

「それは凄いわね! それが完成した暁には、あの人混みも緩和されそうじゃない?」

「ああ! そうだな。まさにそれがこのサブナード計画の狙いだ。さらに、副次的な経済効果をもたらすと、僕は踏んでいるんだ」

「ナニソレ? 気になるわね? いったいどういうことなの?」

「では、今日はそれを解説してゆくぜ。では!」

「ゆっくりしていってね!!!」

二人が声を揃えた瞬間、その場の空気が爆発した。

「ちょっと待って! ちょっと待って! ちょっと待ってぃ!! ……わけがわからなすぎるし、情報量が多すぎるのよ?! もっと、普通に、簡潔に説明できないの?! 二人揃って淀みなく早口なのも、ちょっと気持ち悪いし! なんなのその格好は?!!」

激昂したエリカが、謎の対話劇を無理やり終わらせた。客たちは、心の中でスタンディング・オベーションを送り、彼女の勇気を称えた。

ラルフとスズは、気恥ずかしそうにそのコスプレとも言える被り物を取り外した。

「まあ! そういうことだ!!」

ラルフは腰に手を当てて高らかに宣言する。

「どういうことだよ?!!!!」

自称ヴラドおじさんこと、国王陛下がブチ切れた。

「はい!」

メイドのアンナが、静かに手を挙げる。

「あっ、はい。どうぞ!」

ラルフは、内心ホッとして有能なメイドに丸投げした。

「地下に街を造ります。ダンジョンをイメージしてください。しかし、一般的なダンジョンとは違います。三階層程度しかない、浅いダンジョンです。そこに、魔獣も、モンスターも出現しません。……そこに、屋台や観光客を、分散させます。……それだけです」

アンナは、とんでもなくシンプルな言葉で、全員を納得させてしまった。ラルフとスズは、なんだかもっと恥ずかしくなってしまい、コスプレ衣装をマジック・バッグにそそくさと放り込んだ。

今度こそ、その場にいた全員が、優秀なメイドに惜しみない拍手を送った。細部に疑問は残るものの、新しい都市構造の概要が、誰もの脳裏になんとなく浮かんだのだ。

そこへラルフが、興奮を抑えきれないように口を開く。

「せい、せい、せい! 皆、落ち着いて! 詳しくは、これからだから」

(お前、もう喋らない方がいいんじゃね?!)

それが、この場にいる全員の共通認識だった。

「はい! 質問があります!」

ポンコツラーメンのパメラが挙手をした。

「はい、どうぞ」

ラルフは、めんどくせーと思いながらも発言を促す。

「その開発費用って誰が出すんですか? で、その……、そこに出店したい場合、その場所の利用料とかって、いくらかかるんですか?」

ラーメン屋台の経営者らしい、鋭い疑問だった。ラルフが感心しつつも、その質問への誠実な答えを考えている時だった。なぜか、アンナが即答した。

「開発費用は、ロートシュタイン領の、運営予算から出します。利用料は無料です。……ただ、天候に左右されないという利点が地下にはあります。ですので、希望者が多い場合には、抽選などの方法を採用する必要があるかと。……まだ、検討段階ですので、皆様の意見をよく聞きながら、できることを模索していく段階です。より良い領地運営をしていく為にも、皆様のお力が必要です。どうか、よろしくお願いします」

アンナは深々と頭を下げた。すると、全員から惜しみない拍手が起こった。ラルフも面子を保つために何か発言しようと試みたが、この完璧な受け答えの後では、何を言おうとも無粋でしかない。口をパクパクさせながら、何も言えなかった。

「はい!」

またしても挙手。商業ギルドのバルドルだ。

「はい! どうぞ!」

ラルフは眉間に皺を寄せながらも、発言を促した。

「一応は理解できました! だがしかし! 経理、税務、庶務、といった書類仕事が、いかんせん人不足すぎる! 領として、文官の増員は考えていないのですか?!!」

凄まじい剣幕に押され、ラルフは考えを巡らす。しかし、またしても。

「領としては、商業ギルドの構造改革も同時に進めます。職員の皆様には一切の負担を負わせず、かつ、抜本改革をただちに行います。さらに、税務処理については、こちらで預かっている孤児達の中に算術に秀でている子達がいます。彼らを商業ギルドに派遣し、修行のような形で実務経験を積み、ゆくゆくはそちらで登用して頂くことも検討して頂ければ、と」

アンナの論理は完璧だった。完全に論破されたバルドルは、力なく椅子に座り込む。

そして、スズはラルフに耳打ちした。

「貴方、本当に領主なの? 彼女に領地運営任せた方がいいんじゃない?」

「それを言うなよぉぉぉぉ! 僕だって頑張ってるんだからぁぁぁ!」

虚しくもどうしようもない、ラルフの葛藤が、居酒屋の静かな喧騒の中に木霊した。